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第87幕  罰と「今」

出発までの前置きが長くてすみません。

でもこれはどうしても触れておきたい話でしたので。


お読みいただけると幸いです;




「わらわも行くぞっ!!」

 アレティがクララを抱きしめ、鼻息荒く秋に申し出た。

「……アレティ。今回は駄目だ」

「何故じゃっ!!皆が行くのだろうっ!?わらわも行くっ!!」

「…本音を言えば…セスカも残したい」

「シュウっ!!」

 秋とアレティの話が聞こえていたセスカが、慌てて秋の名を呼ぶ。

「だけど…セスカは連れて行く……。俺たちはたぶん…セスカと2人で1人前なんだろうと思うからな…。情けないけど……」

「うん、情けない」

 間髪入れず、アラヤが秋に突っ込んだ。

 秋は脱力しかけたが、アレティに向き直った。

「アレティには俺たちの「帰る場所」になって欲しいんだ」

「シュウ……待っているのはもう嫌じゃ…あんな皆の姿を見るのは……」

 アレティは俯き、声は微かな涙の匂いを含んでいた。

 イオでのこと。今、皆を「そんな姿にした」張本人がアレティの傍にいる。

 アラヤと天楽は――何も言えずに口を閉ざし、そんな2人を皆が複雑そうに見つめていた。

「アレティ…もうそれはない。だって…そのときの相手が今、ここにいるだろ?

 もう心配ないぜ」

「シュウ…その言い方がストレートすぎる……」

 アックスが秋の肩を叩いて――ツッコミを入れた。

「だってその通りだろ?変に気にしたところで、その事実は変わらねぇ。

 俺たちだって、アラヤたちには酷いことしてるんだ。それを越えて…アラヤは天楽を連れてきてくれた…だろ?」

 秋の笑顔に、アラヤはますます複雑な表情に変わった。

「お前さぁ…本当に変わってんな。おかしいよ」

「…よく言われる。「変わってる」「おかしい」「面白い」…でも、俺はそれを褒め言葉と思ってる。 仕方ねぇよ…親父は3000年も生きてる変わり者だしさ。なっ、天楽」

 秋に――急に話を振られて――天楽は「う、うん」と反射的に頷くことが精一杯だった。

「アマラが困ってるぞ」

 アックスが再び突っ込む。

「だって…仕方ねぇじゃんよ。だからさ、アレティ…こんだけの仲間が、今はここにいる。

 だからさ…俺たちは大丈夫なんだ。もうあんなことにはならない」

 秋の言っていることは、ほとんどこじつけだ。

 だが、アレティには何が言いたいかわかってしまう。

「わかった…シュウ。でも約束してくれ」

「あぁ。必ず、無事に全員で帰ってくる。アレティのところに」

「そうじゃ。必ずじゃぞ」

「おう。必ずだ」

 ここで――アレティが右手の平を秋に向けた。

 これは「ハイ・タッチ」のポーズ。

 秋もすぐにそれに反応する。

 パチンと良い音が辺りに響いた。

「何、秋……アレティ様にそんなこと教えてんの?」

「こら、アマラ。わらわのことは「アレティ」じゃ。「様」つけはしてはいかんっ」

「う…うん」

 またもや天楽は反射的に、怒ったアレティに返事をした。

「アラヤは…大丈夫かの?」

「……アレティって呼べばいいんでしょ。「タメ口」で」

「そうじゃ」

 呆れたように、アラヤは肩を竦めて「なんなの、ここ?」と呟いた。

「ほとんど…シュウのせいだよ」

 セスカが天楽とアラヤに説明した。その顔は優しげな微笑みが浮かんでいる。

「なるほどね…それじゃ、こうなるね」

 天楽は知った風な口調だ。実際――よく知っていた。



「父さんはここに残ってください。ノモスの言った通り、身柄はキートに預けますから」

「罪滅ばしは…させてくれんのか?」

 フロガに告げられ――冬彦――スィコは悲しそうな微笑みで答えた。

 フロガが突然、仲間と話していた秋を呼ぶ。

 やってきた秋に、フロガは冬彦へと顎をしゃくりながら口を開いた。

「シュウ。いいや、兄さん…というべきかな?」

「うわぁ…それ止めてください。想像つかないっす」

 フロガに指摘され――確かにその通りだが。とてもじゃないが、秋には受け入れられない事実だった。

「フユヒコさんが自分も連れていけと言っているんだが……」

 秋は冬彦を睨みつけた。

「今の奥さん…なんて名前?」

「…エアデだ」

「どうして結婚した?」

「……奈津美以外に…もう誰も愛するつもりはなかったんだが……。

 なんとなく似てたんだよ…容姿とかじゃなく……気持ちがさ。奈津美母さんと。

 だから結婚した」

 なんとなく恥ずかしそうに、冬彦は秋に言った。

 秋は冬彦の姿に答えるように――まっすぐに、迷いのない瞳を父親に向ける。

「そっか。じゃぁ…ちゃんと最後まで添い遂げろよ。母さんとは出来なかったこと…エアデさんとはちゃんとやれよ。

 こんな立派な…子供たちもいて…孫もいて。護れよ。

 俺もセスカやアレティや…仲間を護るから……だから親父も護れ。

 だから…ここは俺たちに任せろよ」

 成長した息子の姿。感慨深げに冬彦はその姿を見つめた。

「秋。何で俺が3000年も生きていたと思う?」

「え?それは……『ガイア』に生かされたからか?」

「それは違う…これは…「罰」なんだよ、秋」

 それまで胸の奥に秘めていた想いを吐き出すように――冬彦が告げた。

「俺はたくさんの嘘をついた。そしてたくさんの人を死なせた……。

 だから…これは『ガイア』から与えられた「罰」なんだ。

 死ぬことが出来ない…そして償えと言われているんだよ」

 秋はただ――じっと冬彦を見て――そして息を大きく吐き出した。

「……なら、なおさらじゃないか……。これで「俺」が終わりにしてやるよ」

「…秋!?」

「俺が…俺たちが終わりにしてやる。だから…親父はここで、「今」を護れよ。

 親父が生きた3000年という時間が…本当に「罰」だったのか。

 もっと別な意味があるのか……「今」を生きて、ちゃんと考えろよ。俺も…考えるから」

 冬彦にそこまで言うと、父に背を向け、秋は見守る仲間たちへと足を向けた。

「と…いうことです、父さん。俺たちも一緒に考えます。

 あなたは1人じゃない。母さんも…俺たちも、そして「今」はシュウたちもいる。

 簡単に死ぬことは考えないでください」

 フロガが静かに父親に語りかけた。

 そしてネロも、アエラスも――アーラも冬彦――スィコに向かって頷いた。

「……わかった。行ってこい」

「…はい」

 スィコの子供たちも、揃って秋へと合流していく。



「いつまでも…子供のままじゃないよな」

 冬彦は――寂しそうに呟き、いつの間にか頼もしく成長した子供たちの姿を見守った。



「なんかさ。冬彦さん見てると、30年間「不死」とか言ってた僕って馬鹿みたいだね」

 秋たちと冬彦のやり取りが聞こえていたわけではないが、こちらへ向かってくる秋たちを見てアラヤがそんなことを天楽に呟いた。

「……だから…アラヤは「不死」ではないんだよ。ナユタがそうだったように」

「…そうだね」

 天楽の言葉に――アラヤは静かに答えていた。



◆◆◆



「いってらっしゃいませ…アダ様」

「うん、行ってくる…と、イザベル」

「はい?」

 アダを精一杯の笑みで送り出そうとしていたイザベルに、アダが思い出したように言った。

「戻ってきたときさ…人前でも「様」はつけないでよ。敬語もなしで。いつまでも君との距離が縮まらない気がするから」

「はい…ううん。いってらっしゃい…アダ」

 イザベルは満面の笑みをアダに向けた。

「うん、行ってきます。あとをたのむね」

 アダも笑みでイザベルに答えた。



「今回だけは…私も連れて行って。どうしても…「見届けたい」の」

「イルエ……」

 イルエは直人の右腕をギュッと両手で掴み、けして引くことのない強い態度で直人を驚かせた。

「わかった」

 直人がイルエの気持ちを伝えようと、皆の顔を無言で見つめた。

 それぞれが――主に秋たちだったが、笑顔で頷き返してきた。

 直人も「ありがとう」と秋たちに礼を述べた。



◆◆◆



「行く前に、皆に言っておきたいんだ」

 秋が皆に振り返る。

「これから戦いに行くんじゃない…『ブルゾス』…いや『霊長意識集合体ミュトス』へ還り道を教えに行くことになる。

 だけど…それはどんな危険があるかわからない…それでもいいなら一緒に来てくれ」

「ここまで盛り上げといて…それはないだろう?」

 アックスがそんなことを秋に言った。

「お前なぁ…一応確認しときたかったんだよっ!!」

「なら、もっと前にやれ」

「やる暇あったかっ!?」

 秋とアックスが啀み合いをしていると、アラヤがふぅとため息をついた。

「ねぇ、君ら前置き長いって。さっさと行こうよ。待ってるんだからさ…」

 結局――誰も残る者はいないのだ。

 秋はその事実に――嬉しさを感じ――また同時に込み上げる不安を押さえ込んだ。

 俺は1人じゃない。そう感じて。



「長くなってわりぃな。さっさと行こうぜ」



 アラヤにそう答えて――秋の視線が冬彦に向かう。



 ミカやグルナ、ペルル――アレティたちに囲まれて、冬彦は秋たちに手を振っていた。

 そして口は――こう動いている気がした。

「気をつけて行ってこい」と。



「行くよっ!!」

 アラヤの声を合図に、クララも同時に「瞬間移動」の能力を発動させた。

 



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