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第85幕  父と息子

数話に渡った暴露話はこの話にて終了。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。


お話はここから山場に向けて加速?していきます。

「ずいぶんと酷い目にあわせて済まなかったな…。

 それにしても…ナル、お前はやりすぎだ。

 説得は任せろとかいうから任せれば……アレティ様たちだけじゃない、俺の長男の嫁や孫まで拉致監禁しやがって……やりすぎにも程がある。」

「そうですか?これぐらいやらないと、彼らはこちらの話に耳を貸しませんよ」

「もう手遅れだよ、お前が火に油を注いだようなもんだろうが…。

 もうこちらの説得に耳を貸すとかいうレベルの話じゃない。こちらと敵対するかどうかまで話を進めやがって……どうすんだ、この後始末」

「人のせいにしないでくださいよ。元はあなたが彼らを説得出来ないからいけないんでしょう……」



 登場したはいいが、突然ナルと痴話喧嘩を始めたスィコ。

 周りは――最初は唖然としていたが、段々イラつきが募ってきた。

「父さん…いい加減にしてくれませんか?」

 フロガが怒り心頭でスィコを睨みつけた。

「悪いな…いや。謝ってすむ問題でもないだろう。ここまでこじらせてしまったことだ。

 それに……ナルの話…あれはナルのことじゃない。俺のことだ」

「……っ!!」

 まるで世間話をするかのように、スィコはその飄々とした態度を崩すことはなかった。

 だが秋たち――特にスィコの子供たちの驚きは、動揺を伴っていた。

「ナルは大洪水以後に『エフヒ』になったやつでな。それでも千年以上、俺たちの元で一緒に活動してきた心強い仲間の1人だ。

 こう見えても優しい性格で……全部の責任を引っ被ろうとしてくれた。

 お前たちに恨まれるべきは、本当は俺なんだよ」

 スィコが申し訳なさそうに、子供たち――その仲間。そして最後は秋とベンジーに視線を向けた。

「間違いない…あの人から冬彦パパの匂いがする」

 そう言ったベンジーは――自分を抱いている秋の手が――体を通して震えていることがわかった。

 


 秋の目はスィコに釘付けになっている。

 冬彦でなければいい――そんな考えが頭の中を渦巻いている。

 でも、もし冬彦だったら――俺はどうすればいいんだ――。



 そんなとき。

 スィコの顔が秋へと向けられた。

「…ベンジーがいたらバレるよな……もうその様子じゃ…バレてるみたいだ」

 スィコは寂しそうな笑顔を浮かべ、秋へと歩み寄った。

「待ってくださいっ!!」

 スィコの前に――秋の前に立ち、秋をその背に庇ったのは――セスカだった。

 既にクララはアレティに任せ、秋とベンジーの話を聞いていたセスカは、スィコが何のために秋に近寄ったのかがわかってしまった。

 だからこそ――スィコを秋に近づけたくなかった。



「お願いですっ!!もうこれ以上、シュウを苦しめるのは止めてくださいっ!!

 これ以上…彼に過酷な運命を背負わせるのは止めてくださいっ!!もう…これ以上…は。

 お願いですっ!!私の命でも何でも差し出しますから…お願いですっ!!」

 スィコに懇願し、必死に頭を下げ続けるセスカを前に――スィコの足が止まる。

「セスカっ、もういいっ!!もういいんだっ!!」

 セスカの体を抱え、左手にベンジーを抱えた秋は、セスカの涙で濡れた顔を見ることは忍びないように、その頭を右手で抱え込み――必死に言い聞かせる。

「これ以上は…シュウが……もうシュウの悲しむ顔は……」

 秋に抱きかかえられても、うわ言のようにセスカが言い続ける。

「もういいから…俺は…大丈夫だ。お前がいるから……だから、大丈夫だ」

 


 そんな2人の姿を天楽はじっと見つめていた。

 そして――呆然と立ち尽くすスィコの姿に視線を送り――「まさか」と思われる人物の面影を見出そうとしていた。

「……良い嫁さんをもらったな…秋」

 スィコがそう言った。

「その嫁を泣かすなよ…くそ親父……なんだろ?スィコさん」

 秋は泣き止まないセスカを抱きしめながら、なんとか言葉を搾り出し――スィコに吐き出すように呟いた。



「…一体どういうことなんだ……?」

 アックスが呆気にとられながら――見えない状況を眺めていた。

「…スィコさんが…シュウの本当のお父さんみたいだよ」

 そう言ったアダの右目は――琥珀色に輝いている。

「うん。高守冬彦さん…秋と弥生ちゃんのお父さんだ。まさか…ニキティスの当主であるドリュアス公が…冬彦おじさんだったなんて……」

 天楽にとっても、冬彦は秋の父親であり――自分の子供のように可愛がってくれた大好きなおじさんだった。

 それが「どうして」という気持ちが拭えない。



 スィコの子供たち――フロガ、ネロ、アエラス――アーラは――ただその成り行きを見守ることしか出来なかった。



「ナルの話は俺の話…と言ったな、秋」

「あぁ……くそ親父がしてきたことはわかったよ。

 ただ、どうしてその親父が、3000年も生き延びてきたかまでのことがわからねぇよ」

 秋はスィコ――冬彦を睨みつける。

「俺は…いや。お前の母さん…奈津美母さんも元は『浄化者ピュリファイア』…『アトスポロス』だったんだよ。ただし、お前たちにその兆候は見られなかったし、俺たちも安心して生活を送っていた。

 母さんは結婚する前から少々体に問題があってな。

 子供を産める体じゃなかったんだ。でも、俺との子供がほしいと望んで…お前を身ごもったあたりから体調を崩し始めた。

 俺と母さんは元の名前を『カタルシス』といった「組織」の許可をとり…「組織」から離れた形で生活を始めた。 

 そしてお前が生まれて…母さんの希望で「しゅう」と名付けた。

 それから母さんの体は完全に悪くしてしまい、とても『浄化者アトスポロス』として活動出来る状態ではなくなってしまったが…お前が生まれて本当に嬉しそうだった。

 俺もそんな母さんとお前の姿を見ていることが、嬉しくてたまらなかった。

 でも…母さんはいつ死に至るほどの体調悪化に見舞われてもおかしくなかったが、3年後に「弥生」が生まれ……本当によく頑張ったと思うよ」

「……そんな話を聞いてるんじゃないっ!!」

 冬彦の話を――秋は叫び声で遮った。

 こんなときに奈津美の話は――秋にとって――混乱した思考に、益々苦渋の要素を放り込む結果になるだけだ。



「そうだな…つい懐かしくてな……すまない。

 お前が17歳になって母さんが亡くなり…まるで後を追うようにお前と母さんが可愛がったベンジーまでトラックの事故に巻き込まれて亡くなった…となった」

「と…なった?」

 こう尋ねたのは天楽。

「秋とベンジーの遺体が…どこ探してもなかったんだよ。

 どこかに生きてる可能性があるんじゃないかって、俺も弥生も探し回ったが見つからなかった。まさかタイムスリップしてるとは……可能性は考えても、実際突き止める術はなかったからな……。

 お前はそのときまで『浄化者』としての兆候すら現れていなかったんだから……」

 そんなことになっていたのか。

 初めて自分たちがこの世界にやってきた「その後」のことを聞かされた秋は、俯き加減で冬彦の話を聞いていた。

「その直後に…弥生は『浄化者アトスポロス』として目覚めたんだ。

 この世界のランクで言えば『第2級』程度の高ランク者でな。

 本当に随分頑張って……お前と母さん…ベンジーを亡くした寂しさを吹き飛ばすように…『カタルシス』でも1,2を争う実力者になっていったよ」

 セスカとベンジーを抱く両手が――震えた。

「シュウ……だから…もう」

 セスカが秋の顔を見上げようとして――秋はセスカの頭を抱え込むように抱いた。

「ここにいてくれ。でないと…今は何をするかわからない。お前がいれば、俺は俺でいられるから」

 秋の囁きに、セスカは驚いたが――自分がここに居る意味を悟ると、「うん」とだけ返事をした。



「高守さん……」

 直人が冬彦に話しかけた。

「…久しぶりだね、直人くん。秋が大変お世話になった」

「いいえ。僕も彼には本当に助けてもらいました。それより……」

「わかってる。真美くんと加奈くんのことだろう?」

「…はい」

 直人は自分の妹たちのその後も冬彦に尋ねた。

「2人も…弥生にやや遅れる形で『浄化者アトスポロス』に目覚めた。

 ランクは弥生と同じ。2人もその剣術を駆使して、弥生と同様「組織」を支える大事な中核メンバーになっていった」

 直人がぐっと歯を食いしばる。

 妹たちまで巻き込まれていたとは――直人の落胆も――見ている者たちには辛かった。

「お前がベンジーといなくなってから3年後。「それは」起こったんだ」

「3年後?」

 冬彦から齎された新たな事実に、秋たちが冬彦――スィコを見つめた。

「……この世界の伝説には伏せた事実だが、大洪水を引き起こす「異変」には「きっかけ」があった。

 それは突然飛来した『黒い隕石』…『ブラックメテオ』だった」

「……ブラックメテオ?」

 直人が冬彦に聞き返した。

「あぁ。五色市に突然落ちたんだ。本当にある日突然……どこからともなく現れた。

 「五色川」の一部が一瞬で蒸発するほどの熱量で…周辺2キロはドーム状の漆黒の闇に覆われた。

 『カタルシス』は、それは「宇宙」から飛んできたものではないと判断し、弥生、真美くん、加奈くんを中心とした調査メンバーをその場に送り込んだ。

 俺はそのとき、表の仕事の出張で北海道にいたんだが……急いで埼玉県の五色市に戻ったんだ……。

だがそのときは…漆黒のドームは消滅し、それが『霊長意識集合体ミュトス』の仕業だったと判断された。

 しかしドーム状の『ミュトス』らしき存在を「浄化」することに成功した弥生たち…調査メンバーは誰1人戻ってこなかった。

 それから地球の天候が激変し、そして…1年後に大洪水が起こる結果になってしまった。

 俺もこの3000年間…その『ドーム状のミュトスらしき物体』を調べているが、理由は今だにわからない。調査に向かったメンバーは誰も生き残っていないのだから…」



 秋も――直人も天楽も――大きく息を吐き出した冬彦の仕草を見つめ、呆然となっていた。

 誰も生き残っていなかった――弥生も真美も加奈も。誰も。という事実を聞かされて。



◆◆◆



「…ということですが……ノモスさん」

 キートが突如、この場にいないノモスの名を告げた。

[えぇ…一部始終聞かせていただきました。しかし我々の組織のトップ連中には困ったものですね。我々にそんなことを少しも話してはくれないんですから…]

 キートは上着のポケットから一つの『神杯』を取り出した。

 それは通信用の『神杯』であり、キートはこの事態が始まってから――ロバロ公国のノモスにやり取りの全てを『神杯』を通して伝えていた。



「キート、君はっ!!?」

 初めてナルが――能面のような表情を崩し、驚きの声を上げた。

[ナルさん。協会の全てがあなたに従っているわけではありませんよ。時代と共に体制も変わっていくものです。と、いうわけで…ナル・ドータを拘束しなさいっ!!]

 ノモスの一喝するような声に、背後にいた護衛役の数人がナルの手を両脇から取り押さえた。

「これは…どういうことだいっ!?」

[どういうことも何も、馬鹿なことしてんじゃありませんっ!!たださえロバロは大変なんです。それを内輪で変な揉め事を起こしてんじゃねぇって感じですよ。全くっ!!]



 この場にいないはずなのに――なんだろうこの存在感は。

 秋は自分のことを一瞬忘れて――ノモスの迫力に飲まれてしまった。

 そしてキートを見ると

「ごめんね。僕たちもナルさんの様子を伺って、好機チャンスを見て止めるつもりだったんだ」

 と申し訳なさそうに微笑んでいた。




[それとドリュアス公…いいえ、タカモリ・フユヒコさん。あなたもその身柄は預からせていただきますよ。これ以上シュウくんたちを混乱させたくないので]

「…いきなり出てきたと思ったら…相変わらずテキパキしてんなぁ……」

 冬彦――この場合はスィコなのだろう。呆れた声を出しつつも、顔は笑っていた。

[褒め言葉として頂いておきますよ。それとこちらも、あまり長いことお話していられる状況じゃなくなりまして。]

「何かあったんですかっ!?」

 秋がノモスに心配そうに尋ねた。

 そんな姿を――冬彦は頼もしそうに見つめる。

[アレティ様もそちらにいらっしゃいますか?]

「おるっ!!何があった、ノモス」

[よくお聞きください。フォマー宰相の側近であったシッジルが…デウスである可能性があります]

「なんじゃとっ!!」

 アレティだけではない。アックスやセスカたちも、キートの持つ『神杯』を凝視した。

[先ほど彼が突然姿を消したという報告を受けて直後、沈静化していた『ズローバ』の『ブルゾス』の量が激増し…『ズローバ』を覆っている結界が壊れる危険性が出てきています。

 どうもシッジル…デウスは大量の『ブルゾス』を操る能力を持っているようです]

「大丈夫なんですか?」

 アックスがノモスに問うた。

[このようなときのために人員を増強していたんです。こちらは心配しないでください。

ですが、もしかすると『アカデメイア』が狙われる可能性があります。

 彼はシュウくんたちを狙っているんですから……]

 仲間たちの視線が秋に集中する。

 秋はそんな視線を感じてか、力強くノモスに答えた。

「……大丈夫です、ノモスさん。

 俺は…アレティを連れてロバロ公国に帰らないといけないんですから」

[それを聞いて安心しました。お待ちしてますよ]

 顔は見えないが――ノモスの声は嬉しそうに聞こえた。



◆◆◆



「思った以上に清々しいねぇ…驚いた」

 シッジルの姿はウスターと共に――ピサ島の『カコ』の中にあった。



 既に空には星が瞬いている。

 本来の『カコ』なら――こんな星の瞬きなど見えぬほど――空気が澱んでいるはずだった。

「ウスター。無理させてごめんね」

「いいえ。さすがにロバロからだと疲れますね」

 ウスターにも――天楽同様の『時空転移』の能力がある。

 これは移動軌跡が残りやすく、本来はほとんど使用しない能力ではあるが――シッジルにはむしろ「残って欲しい」からこそ、ウスターの持つこの能力で移動した。



「さぁ…今頃ロバロはこの僕のこの能力のおかげで大迷惑を被っているだろうけど…ここはもっと派手にいかないとね」

「どれほど送るつもりですか?」

「ここの結界の限界ギリギリかな。それが僕の体力の限界でもあるからね。

 前、君にも話しただろう。世界にはこの『現世うつしよ』と『常夜とこよ』という世界があるって。僕らのいるこの世界は『現世』。

 本来「人の魂」ってのは『常夜』に逝って、『ガイア』に戻る順番待ちをしているんだけどね。

 僕はそれを無理やり『常夜』から引き出しちゃうんだよ。そして『ブルゾス』化させちゃうわけ。

 あとは『カコ』やら『ズローバ』やらに送る「道」を残しておいてあげれば、やつらはいきなり眠りから起こされて驚いてここに来ちゃうから。本当は僕の『ハデス(冥界の王)』という能力は、逆の使い方をしないといけないんだけどねぇ」

 少しも罪悪を感じない無邪気な顔で話すシッジル。

 それをウスターは黙って見ていた。

「さて……じゃぁ、説明はこれぐらいにして…始めようか、ウスター」

「はい、デウス様」

 シッジルがそう言うと、ウスターは素直に頷いた。

 そして2人の体が暗闇に仄かな白い輝きを放った。





 そして大地は揺らぎ――2人のいる場所を中心として、漆黒のドームが形成された。


 










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