第83幕 「お前は絶対許さない」
秋たちにとって、正念場となってきました。
長い話の連続となると思いますが、これがラストに向かって繋がっていくことになります;;
天楽はアラヤに連れられピサ島へ移動し、結界を抜けることには苦労はしたが、一度『カコ』へ潜入してしまうと――ほとんど『ブルゾス』に会うこともなく、そのまま一気に『アカデメイア』の敷地内へと入り込んだ。
「『ブルゾス』がいない『カコ』というのも…なんか驚きだな…」
天楽がそんなことを口にした。
「ほとんどシュウたちが「浄化」し尽くしたんだろ。ほんと、大したもんだ……なんだ、あれ?」
『アカデメイア』内を擬態したまま進む2人に、大人数に取り囲まれた建物が目に入った。
「あれ……気配からいうと、協会の連中じゃないの?それもあんなにたくさん……」
アラヤは天楽を促し、その現場が見えるよう別の建物の影に身を潜めた。
離れた場所から、天楽が心配そうに状況を伺う。
「まさか…もう僕たちのことが連中に知れたのか?」
そんな言葉を発しながらも、アマラは疑問に思う。
この島への潜入は細心の注意を払いながらやったのだ。簡単にバレるものではない。
それに、自分たちが行きたい場所はあの建物ではないのだ。
おそらくあれは、別の目的で集まっているのではないか――そう考えた。
だとしたら――少々物騒な連中が、大勢集まっている――それは一体何のために?
「天楽…あの建物の中に入ってみないか?」
「はっ、どうして?僕らは秋に会いに来たんだよ?」
「シュウに会いに来たのはお前だけだろうが。どっちにしても、僕たちはシュウがどこにいるか知らないんだ。もしかしたら、あの建物の中にいるかもしれないぞ」
「……どうしてっ!?」
「あいつらデウスに狙われてる。
協会の連中がああして護っているのかもしれない……」
だとしたら――物々しいにもほどがある。
3階建ての建物の外に、2~30人の男たちが取り囲んでいるのだ。
護るというより、中に誰かを監禁しているようにも見える。
「お前、『スパルトイ』の能力は使えるか?」
「うん。大した力は出せないけど、かく乱するぐらいなら出来る」
「自分の身を守ることは?」
「出来るよ」
「……わかった」
アラヤは天楽に確認すると、建物の周辺を一瞥する。
そしてひとつの場所に視線を止めた。
「アマラ……あの窓から中へ入るぞ」
「…う、うん」
天楽はアラヤにそう言われ、一気に緊張した。
◆◆◆
「どういうことじゃっ?」
ナギの館――リビングにはアレティやイルエ、イザベルの他に、療養中のカエナまでも連れてこられていた。
護衛としてアレティについていたベンジーとクララは、フロガに呼ばれたということで、協会の人間に呼び出され、アレティの傍にはついていない。
そしてこの場には――フロガの妻であるミカ。その子供たちの長男グルナと次男ペルルも呼び出されていた。
それだけではない。
同じリビング内だけでも、10人を越える協会の護衛役がアレティたちを囲んでいた。
「…はい。実は敵がこのピサ島内に潜入したとの情報が入りまして。
とにかく関係者の方々の身の安全を図るため、この屋敷に集まっていただいたのです」
護衛役の1人が代表してアレティに答えた。
確かに敵の潜入に対して、関係者の身を守るという理由はわかる。
だがこのように一箇所に集められ――まるで監視されるように「護る」と言われたのは初めてのことだった。
やり方が、どうしても腑に落ちない。
フロガの妻であるミカや子供たちまで、この屋敷に来る必要はないのだ。
まるでこれでは――。
「そのようにはとても見えない。まるでここに集められた人質のようではないか」
アレティの反論に、答えた護衛役の眉尻がピクリと反応する。
「そのようなことはけしてありません。協会を信じてください」
「……アレティ。あたしはもう大丈夫です。何かのときは、皆さんのことは護りますから」
カエナがアレティやミカたちにこっそりと囁いた。
「でも協会がこんなことするなんて……今までなかったことね」
不審に感じながらも、ミカは自分たちを見張るように立つ護衛役を見つめた。
何かあるとすれば――夫であるフロガたちに関わることではないのだろうか?
しかも協会が何かを企んでいる――ということなのか?
ミカに言い知れぬ不安が心の中に広がる。
が、フロガの妻として、子供たちを、アレティたちの身をなんとか自分が守りたい。と、考えていた。
「ママ…」
4歳になったばかりのペルルが、ソファに座るミカの隣で大人しくしていたが、急にミカを呼んだ。
「どうしたの、ペルル?」
ペルルは強力な『先視』の能力を持つ。
が、同じ『先視』の能力者であるイルエは、この『アカデメイア』に来てから、まるで未来を視ることが出来なくなってしまったという。
「視る」というよりは、数日以内の出来事をなんとなく「感じる」程度まで能力が落ち込んでいるため、この事態のことも「嫌な予感」程度にしか感じることは出来なかった。
「うん。ママ、だいじょうぶだよ」
突然ペルルはそんなことを言い出した。
「大丈夫って?」
「うん、たすけが来るよ。だいじょうぶ。あんしんしていいよ」
そう言ってにっこりと笑った。
「そう…なら安心ね」
ミカもペルルに微笑んだ。
「そう、だいじょうぶ」
ペルルは笑顔で大きく頷いた。
「どういうことですか?」
カエナがミカに尋ねる。
「ペルルは『先視』の能力を持ってるけど、的中率は9割以上なの。
だから安心して大丈夫みたい」
「…はぁ?」
カエナが脱力する。確かに『先視』の能力はすごいのかもしれないが、それ以上であろうイルエでさえ未来が視えないと言っていることを、こんな小さな子供が視ることが出来るはずもないだろうに――。
それをミカは本当に安心しきった笑顔でカエナを見ていた。
「カエナ姉ちゃん。ペルルは本当にすごいんだぜ。『先視』を外すことなんか、俺みたことないし」
10歳になる兄のグルナは、やけに元気の良いやんちゃ坊主という感じだ。
フロガの子供のころはこんな感じだったのかと、同じ顔でにやりと得意そうに笑う姿に、カエナはそんなことを思ってしまった。
直後。
突如、部屋の外が騒がしくなる。
「どうしたっ!?」
「それがっ…!!」
護衛役の会話の途中で、部屋の中に、鎧を来たガイコツの群れが入り込んでくる。
うわぁーという叫び声と共に、護衛役の男たちが次々にガイコツ兵にやられていく。
「…うわぁ…呆気ねぇ」
驚くアレティやカエナたちの目に飛び込んできたのは――2人の少年だった。
それはカエナにとって、髪の色は瞳の色が違っても、忘れることの出来ない相手であった。
「……アマラ…にアラヤ……」
ごうっとカエナから吹き出したオーラが立ち上り、鉄鞭を片手に、瞬間的に臨戦態勢となる。
「待って、待ってっ!!僕たちは戦いに来たんじゃないよっ!!」
天楽が慌ててカエナへ両手を振って、戦いの意思がないことを現した。
「…カエナお姉ちゃん」
ペルルがカエナの右手をつんつんと軽くつついた。
「ペルルくん?」
驚くカエナにペルルはにっこりを笑って見せた。
「お兄ちゃんたちはたすけに来たんだよ」
「……はい?」
カエナが呆然と笑顔のペルルを見た。
「お取り込み中…申し訳ないんですけど……僕ら秋に会いに来たんですが、居場所はわかりませんか?」
恐縮した様子で天楽がカエナたちに尋ねた。
「そう…君がアマラくんね。たぶんなんだけど……私が案内するわ」
そう言って、天楽とアラヤにそれほど興味を示すことなく、ミカが立ち上がった。
「でも、どうしてこんなことになったの?随分楽しいことになってるじゃん」
ただ1人――アラヤだけが、事態を楽しそうに笑って見ている。
「…楽しくはないけど……それを確かめに私たちも行くのよ」
ミカは天楽の隣で笑っているアラヤに話しかけた。
◆◆◆
ナルは秋たちに、『ブルゾス』と『イロアス協会』の成り立ちについて説明を始めた。
「3000年前に起きた大洪水…シュウくんやナオトくんは知っていると思うけど、3000年前の人の人口は70億人…存在していた。
それが大洪水以降、わずか7億人までに減ってしまったんだ。
63億人の人々が海に飲み込まれ、半分にまで減った大地と共に海底に沈んだ…。
そして気候は安定ぜず、それ以後も2億人の人々が犠牲になった。
わずかに生き残った5億人の人類は…残った大地で…生き延びていかねばならなかった。
地球の気候も安定し始めた矢先、今度は『霊長意識集合体』の驚異が人々を襲い始めたのさ。
大地に根付き、新たな生活を始めようとしていた人間たちには、その驚異に晒された。
65億人の「魂」を飲み込んだ『ミュトス』は猛威を振るい、多くの人々の屍を喰らい、取り込み――その姿は「異形の者」と化した。
生き残った『浄化者』たちは、『ミュトス』相手に戦い…なんとか凌いだが…あまりに数に、個々の力では太刀打ち出来なかった。
そして新たに「組織」が作られ、『綺晶魔導術』なども作られ始めたころから、人は『ミュトス』に対抗する手段を手に入れた。
安定に向かう世界に、人口は増え始め、小さいながらも「国」と呼べるものがいくつも出来上がり始めた。
そうすると、人は本来の「欲望」に目覚め始め、国同士の諍いが始まり…多数の戦争へと突入した。 それは徐々に世界へと広がりを見せた。
我々はこれ以上『ミュトス』を増やすようなことは出来なかった。
そして私たちは『ミュトス』を人類共通の「凶悪な敵」として広め、認識させることを思いついた。
そのころはね、『ミュトス』は『ガイア』の元へ還すという思いで願い、「対話」することで「浄化」に至る方法が主流になっていた。
その思いに、『ミュトス』が敏感に反応することも我々はわかっていた。それにその手段は大きな成果を出していたからだ。
しかし人々から争いを無くす……その命題は早急に解決しなければならなかった。
それが『ブルゾス(青銅の民)』として、人類の共通の敵と仕立て、人々の争いの矛先を『ブルゾス』へ向けてもらうことで、世界から争いを減らすことに成功したのさ。
そして『ブルゾス』の浄化方法も、「戦い」によるものを主とし、「負」の感情を「人類」に向けさせることで、『ブルゾス』たちも「人」に対して「敵意」を持って戦いを挑むようになった。
『ブルゾス』による被害は増えたが、それは戦争による犠牲者に比べれば、ごくわずかな犠牲で済む。その上、『ブルゾス』に対抗出来る能力者は限られている。
国々は『ブルゾス』による対抗手段を中々持てずに、「組織」に頼るようになった。
我々は『ブルゾス』の驚異から逃れたいのならば、統一の国を作り、我々に協力をするよう求め、こうして「エリュシオン王国」は出来上がり、その国土を戦わせず増していった。そして現在では、大陸の半分の国土を有するまでに成長したんだ」
「……全ては人類から「戦争」を無くすための方便だったと……」
直人が嫌悪を顕わにナルに尋ねる。
「成果は絶大だった。我々はその結果に満足し、それが間違ってなかったと思っている。
だから…今更シュウくんたちに、以前の方法を復活させてもらっては困るんだ。
このような浄化方法をとる『アトスポロス』たちも存在するが、彼らは「特殊」な部類の能力者。大多数は、「戦う」手段で『ブルゾス』たちを「強制浄化」する。
そうしてやってきたんだ。本当に色々苦労したよ」
「まるで3000年前から居たような口ぶりだな」
フロガも怒りを隠すことなくナルに話しかけた。
「そうだよ、フロガくん。私は3000年前の…その以前から生きてきたんだよ。『ガイア』に有益だと思われたみたいだね。それを「人」と呼ぶのかどうかはわからないけど、私の元は「日本人」さ。
シュウくん、ナオトくん」
ナルは懐かしそうに名指しした2人を見るが、驚きはしたものの、秋も直人もナルを同胞としてみることなど、出来るはずもなかった。
「ならば…同じ日本人として…これ以上恥ずかしいことはない。
あんたらがやってきたことは、デウスとかいうやつとほとんど変わらないだろうがっ」
「あれは別物だよ、シュウくん。一緒にしてもらっては困る」
「同じだろうよ。『ブルゾス』を利用することしか考えなかったことなんて一緒だろう。
いや。デウスより先だったことを考えると、もっとタチが悪いな」
フロガが秋の反論に続き、ナルを責め立てる。
「いくら私を責めても構わないが、言うことには従ってもらうよ。力づくでもね」
「どう言う意味だ、ナルっ!!」
「ミカさんと子供たちは我々が丁重に保護しているということさ。
もちろんアレティ様や、シュウくんたちの仲間たちもね」
フロガだけでなく、秋たちも驚愕し――すぐにナルを――協会の人間たちを睨みつけた。
「だから…こちらのやり方に従ってもらうだけで構わないんだ。
難しいことじゃない。わざわざ敵になることもないだろうし、我々もやらせやしない。
協会の「補佐役」というのはね、シュウくん。高ランクの『アトスポロス』たちを護るだけが目的じゃないんだ。『監視』することも大事な任務なんだよ。
人の心がデリケートだが、そうそう簡単に壊れるものでもない。
でもそう優しく入り込んで、彼らを誘導することも私たちの大事な役目なんだ。
ナオトくんは戦いを恐れてくれたことで、なんとか上手く我々のやり方を誤魔化すことは出来たが、君はこのやり方を知らない世界から来た上に、正義感に溢れ、どんどん力を伸ばしていった。
危機感を覚えた私たちは、君をこの『アカデメイア』で預かることを決め、仲間たちと共にここに呼んだのだが……まさか、君をここに呼んだことがきっかけで、君の親友が登場し、君を…君たちを目覚めさせる結果になってしまった。
それは私たちの失態だった。
なによりニキティスの…フロガくんたちに任せたことがまずかった。
こんな強制的な手段はとりたくなかったんだが…仕方あるまい。
君たちは不本意でも…これがこの世界の「やり方」だ。
受け入れてもらうよ、シュウくん。
そうしなければ、君たちの大事な仲間の安全は保証出来ないと考えてくれ」
秋は拳を握り締め、ただナルを睨みつけ―――歯を食いしばった。
「…てめぇらだけは…絶対許さねぇ……」




