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第5幕  やっとなんとか…

 秋たちがアレティの家来たち?に会えたのは、それから1刻(1時間)ぐらいしてのことだった。

 すでに日は地平線に沈みかけていた。

 


 その中で1人。セスカを背負う秋をやたらと睨んでくる男――たぶん年齢は同じほどではないだろうか?――がいた。

 初め秋を見るなり、「俺がセスカを背負う」と言い出し、無理にセスカを背中から降ろそうとしたので、秋が止めた。

「英雄殿は長旅でお疲れなのだろう?」

 と、何故か喧嘩ごしに突っ込まれた。秋は全力疾走はしたが、長旅はしてねぇぞと心の中で毒付いたが、とりあえず口には出さず堪えた。

 だが更に無理に自分が背負うと主張するので、アレティが怒り、その場を治めた。

 アックスという名前らしいその少年は、けして納得はいっていない様子だったが、アレティに諌められ、仕方なく引き下がっていた。

 


 しかし――オレンジ色の双眸が、今でも秋を睨んでる。

(セスカが大好きで仕方が無いってか…)

 たぶん間違いはないだろう。セスカはこれだけの美少女だ。

 こいつの他にも、今の自分に嫉妬してる奴はそうとういるんだろうな――。

 そう考えるだけで頭が痛くなってくるが、今のセスカを動かすのは得策とも思えない。

 それに軽いし――胸あるし。

 どうせすぐにでもおいとまするしな。秋はそんなことを考えながら、アックスの突き刺さるような視線をやり過ごしていた。

 終始アレティとベンジーが秋とセスカの傍についていてくれたおかげで、それ以上の横槍が入ることなく、この小さな少女が君主を努めるという国の、『宮殿』が見えてきた。



◆◆◆



 多くの臣下がアレティを迎えたが、アレティは真っ先に秋を医務室へと案内した。

 アレティが言っていた『医術師』たちにセスカの容態を伝え、セスカの治療が始まった。

 秋はベンジーと肩の荷が下りたという感じで顔を見合わせると、アレティに『ナオト』という人物について尋ねようとした。

「ナオトっ!!」

 アレティがそう叫び駆け出した。

 見れば秋より少しだけ身長の低い――黒髪の眼鏡をかけ、細身の体躯をした青年が早足で歩いてくるのが見えた。

「アレティ様、心配しましたよっ!!」

 青年はまずはアレティを抱きしめ、そう声を掛ける。

「話は聞いたか?」

「はい。何でも僕と同じ世界から来たらしい少年だとか?」

「そうじゃ、シュウという名前じゃ。とても良い少年じゃぞ」

「そうですか…」

 興奮気味のアレティとの会話を済ませ、青年――ナオトは秋を見るなり涙を浮かべて歩み寄ってきた。

 秋はナオトになんとなく見覚えがある――錯覚にも似た感じを抱いたが――まさかこんなところでとその考えを頭の中から一蹴した。

「うん、うん、うんっ。間違いないっ。君は日本人だねっ」

 ナオトは何度も頷いて――さも懐かしそうに――秋には一抹の不安を感じさせる態度なのだが、愛想笑いでナオトに応じた。

「はい、高守秋たかもりしゅうといいます」

「僕は風間直人かざまなおとです…3年ぶりの日本人だぁ……」

 さ――3年ぶりぃぃぃっ!!マジか、おいっ!?

 だがその名を聞いて――確信してしまった。俺は間違いなく「この人」を知っている――と。

 しかし、直人の方は秋を覚えていない様子だった。

 まさか――どうしてこんなところで。そんな驚きが――ますます秋の混乱を大きくさせていた。

 直人の台詞に呆然としている秋を尻目に、アレティが直人の脇に走り寄ってきた。

「ナオト、懐かしいか?」

「はい、それはもう。たしかに良い少年ですね」

 アレティは、今度は秋を見上げた。

「ナオトはこの国の――わらわの『王導師』を勤めておる。ナオトは頭が良くてな。

 シュウもナオトと同じ国から来ているのであれば、とても頭が良いのであろうな」

 それは比べちゃいけない内容だ。秋は口元を引きつらせ、満面の笑みを称えたアレティを見た。

「…いや…それは期待されない方が……」

「そうか。それでもシュウはとても強いし、何より良い奴じゃ。それで良い」

 頭の方を期待されないだけでもいいか。秋はとりあえず、納得した様子のアレティに安堵し、思考を再度直人の台詞に戻した。

 だが、それは別の人物によって邪魔さられることになった。



「アレティ様っ!!」

 数人の取り巻きを連れ、1人の男性が、廊下を直人以上の早足で近づいてきた。

 その男性を見るなり、アレティがびくりと肩を震わせ、秋の背後に身を隠した。

「あれほど勝手に宮殿の外に出てはいけないと申しておりましたのに…貴女はこの国の大公なのですぞっ!?何度言えば自覚されるのですかっ!?」

「…すまない……」

「今日は…あの『迷宮の森』まで行かれたと言う…。私も我慢していたが…無断で貴女を連れ出したセスカも、今回ばかりはその咎を負わせねばなりません」

「待てっ!!セスカはわらわの我侭を……」

「いいや。もう何度その言葉に騙されてきたか…元々、『神聖騎士団』はエリュシオンの所有。このロバロ公国には何の関係も持たない機関です。

 そこの騎士がこともあろうに、一国の君主を連れ出し、かのような危険を負わせるなど…絶対に有るまじき行為。エリュシオン王国には厳重に抗議し、即刻『神聖騎士団』の解体を…」

 男性は怒りに任せ、一気に捲くし立てる。

 アレティは何とか止めようとするが、男性は口を挟む暇を与えない。

「…ちょっとっ!!」

 それを止めたのは――秋だった。

「すみません。よそ者が言える立場じゃないんでしょうけど……」

「君は?――あぁ、『ヘラクレス』を使いこなしたという異世界の少年とか?!

 たしかに君はよそ者だ。まったく関係はないっ」

 断言かよ。秋はため息をついた。

「たしかに。でも、このアレティ様がセスカを――セスカ…殿を連れて来てくれなければ、俺たちは『ディアボロス』って奴にやられてました。

 君主が真っ先にこんなよそ者でも体を張って来てくれる。

 こんな幸せな国、そうないですよね。俺たちはそれで助かったんだし…こんな立派な王様を誇るって言うならわかるけど、ただ怒るってのはどうかと思います」

 秋の言葉を、アレティはじっと見つめながら聞いていた。

「フォマー様。彼は僕の同郷ですが、僕たちの国や世界の国を見ても、アレティ様のような勇敢で立派な大公はそうはいません。

 よそ者だからこそ、余計に彼も僕もアレティ様の良さがわかるのだと思います。

 今回はアレティ様の勇気と英知、セスカ殿の機転があったからこそ、シュウ殿は救われた。アレティ様にはどれほどの礼を尽くそうと、返せないだけの恩をいただきました」

 秋は驚いて直人に視線を移すと、彼はただ笑みを浮かべるだけだった。

 そのうち男性の怒気が引いていくのが感じられた。

 おほん――と咳払いをひとつ。男性は秋を一瞥し、

「…自己紹介が遅れたな。私はこのロバロ公国宰相、フォマー・ヴェーチェル・フルーメルだ」

「…俺は…高守秋です」

 フォマーと自己紹介した男性は、それなりの身分を示したのだろうが、何分秋にはイマイチ伝わっていない。

「宰相というのは、王様の補佐するような人のことだよ。2番目ぐらいに偉い人だ。

 それにこのフォマーさんは、このアレティ様の叔父さんに当たる人なんだ」

 直人がこっそり耳元で、フォマーの立場を教えてくれた。

「アレティ様が世話になった礼が遅れて申し訳ない。少々気が立っていたようで、失礼なことを言ってしまった。君の処遇は、追って伝えよう。今は長旅の疲れを癒されるといい。

 ナオト。彼のことよろしく頼む」

「はい。フォマー様」

 直人は右手を左胸に当て、軽く頭を下げた。

「…ど、どうも」

 秋がぎこちなく続けて頭を下げた。

「よかった…」

 アレティがはぁと大きくため息をついた。

「アレティ…君はこの国で一番偉いんだろ?叔父さんかもしれないが、負けんなよっ」

 秋はアレティの耳元で、小声で囁いた。

 アレティは驚いたように、秋を見返し、秋はにっこりと微笑んだ。

「アレティ様っ、行きますよっ!!」

 フォマーがアレティを呼んだ。

 アレティはすぅと軽く息を吸った。

「まだじゃ。友人のセスカの容態も聞いておらぬ。それにシュウのことはわらわが決める。

 シュウはわらわの命の恩人じゃ。わらわの客人に無礼な態度は許さぬっ!!」

 アレティが四肢に力を込め、気合を入れてフォマーへ宣言した。

「…アレティ…一体誰に向かって…」

 再度、フォマーがアレティを怒鳴りつけようと歩み寄ってきた。

「わらわはこのロバロ公国の大公なるぞ。何か問題があろうか?」

 ラベンダー色の瞳は、叔父というフォマーではない――『宰相』であるフォマーに、君主たる『大公』として申し渡した。

「…そうですか。大公のお言葉なれば従うしかございません。ならばご勝手に……」

 フォマーは忌々しげにそう吐き捨て、踵を返し、アレティの前を去っていった。

 そしてフォマーが見えなくなると――わっと拍手が湧いた。

 秋やベンジーが驚いて背後を振り返ると、それまでフォマーとアレティたちのやり取りを傍観していた、騎士、医術師、アレティの侍女たちから湧いた拍手だった。

「アレティ様やりましたねっ!!」

「さっすが姫王様っ!!」

 『姫王』とはアレティの愛称だ。たった12歳の大公。それが臣下や民たちにはそう呼ばせるほど、アレティの頑張りが伝わっているということなのだろうか。

「ありがとう、皆……でもこれは……」

 アレティがそう言い掛けたとき、女性の声でアレティを呼ぶ声が廊下に響いた。

「……アレティ大丈夫だったか!?」

 真紅のドレスに身を包み、やたらと目立つ女性がアレティの傍に駆け寄ってきた。

「アンナ叔母様っ!!」

 アレティや周囲の安心したような対応から、今度は先ほどの叔父という人物とは違う、アレティにとっては味方と言うべき存在が来た――そんな印象を受けた。

 それにしても目立つなぁ。秋はそう口にしそうになったが、なんとか喉の奥で止めていた。

「怪我はないようだな。安心したぞ」

「大丈夫じゃ。このシュウとベンジーとセスカが助けてくれた」

 アンナとアレティの和やかな雰囲気に安心し、秋はベンジーを見た。

 ベンジーは無用な混乱を避けるため、ずっと人の言葉を話さず、先ほどの秋とフォマーのやり取りも我慢して見つめるしかなかった。

 何やらアレティが秋を指差し、アンナに言っているようだったが、秋は今まで蚊帳の外にしてしまっていたベンジーを抱き上げ――その直後だった。



「おぬしが『ヘラクレス』かっ!!よくぞこの国の大公を助けてくれたっ!!ロバロ公国の民に成り代わり礼を言うっ!!」

 アンナにベンジー越しにぎゅうっと力任せに抱きしめられ、「…ぅぅ」と秋とベンジーが呻き声を上げても構わず、やっと離されたかと思うと、今度は右頬にぶちゅうと激しいキスをしてもらった。それはまるで秋の生気をすべて吸い取らん勢いだったが――。





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