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第33幕  英雄になれ!!前編

 アックスは大あくびをした。それはアダも一緒だった。

 対照的に、秋とセスカはすっきりとした顔つきをしている。

「おはよう…」と、秋。

「…おはよう」と、アックス。

 正反対のトーンで2人は朝の挨拶を交わした。

「よく眠れたみたいだな」

「あぁ…俺も驚いた」

 秋の顔を見て安心したようなアックスと、逆に秋は怪訝な表情を浮かべている。

「どうしてあんなに快眠出来たのだろう?」と。

 それはセスカも同じだった。

「でも眠れたならよかったじゃない」

「そうなんだが……」

 アダに言われて、それでもセスカも納得していなかった。



「よぉ。朝飯済んだか?」

 メルがタオルを片手に清々しく声を掛けてきた。

「はい、おはようございます」

「おはよう。今日は気合入れていくぞ。覚悟しな」

「「「「はいっ」」」」

 メルの言葉に対して、4人の気持ちを表すように、その返事は同調シンクロしていた。



◆◆◆



 イレクスを欠いた騎士団は、再度『アート』を目指した。

 団員も、そして秋たちも、イレクスの弔い合戦としてその気合は並々ならぬものがあった。



 馬を降り、しばらく徒歩で進む。

 その間、騎士団の騎士たちも秋たちもその緊張はピークのまま、周囲の気配を探っていた。

 


 そして『アート』が目の前に迫ったとき、突然「それ」は始まった。

 樹上から、何人もの『デナモス』が降ってきた。

 先頭を行く騎士たちが、一斉に応戦する。

 間を置かず、秋たちにもその『デナモス』は迫って来た。



 ここで秋たちの前に立ち、メルとワルーンが盾となって『デナモス』を迎え撃つ。

 


メルは姿勢を低く保ち、一気に『デナモス』へと突進する。

 そして「突く」ことを主とし、前足に力を込めて一気に剣を突き出す。

 が、メルの『アトスポロス』としてのレベルは『第4級 (テタルトス)』。

 本来なら、秋やアックスのような『第2級 (ゼフテロス)』ランクの『アトスポロス』の100分の一の浄化能力しか持たないと言われている。

 しかし彼が持つ『スカサリ(甲虫)』という『神杯ネクトル』は、特殊な水晶だった。

 甲虫かぶとむしの角のごとく、メルの能力を込め突き出した剣は、一瞬だが、爆発的な浄化能力を発揮する。

 突く瞬間、切る瞬間。メルは器用にその力を使い、彼の膨大な戦闘経験も相まって、最少の力と動きで、力を爆発させる一瞬を見極め、その瞬間、瞬間に能力を使う。そしてその力を食らった『デナモス』たちは、爆発するように消えていく。

 『鋼の甲虫 (アツァリ・スカサリ)』の彼の異名は、まるで甲虫が敵と戦う姿のように、鋼の鎧を身にまとい、低い体制の独特な剣技を使うために付けられてものだった。

 そして彼は、エリュシオンのみならず、周辺諸国に名を馳せる「生きた英雄」と称えられた、「スィコ・ドリュアス(大地の精霊)・リザ・ニキティス」と肩を並べる「エリュシオンの双璧」として、大陸全土にその名を轟かせた豪傑でもあった。



 対するワルーンは、まるでダンスを踊るがごとく、「舞う」という言葉が似合うような、華麗な剣技を披露していた。

 彼女のランクは『第3級 (トゥリトス)』。彼女はメルのように剣に浄化能力を乗せるのではなく、自分の体に能力を発揮した。

 それは彼女の持つ『神杯』が『ホレフティス(踊り子)』であり、舞うようにステップを踏みながら敵を圧倒していく。が、普段、この『ティミ(名誉)』は恥ずかしくてほとんど名前に使用はしていない。

 もうひとつの彼女が持つ『神杯』である『ヒョニ(雪)』を好んで使う。

 彼女の使うサーベルは、片手で使うことを目的とされた、反りを持つ両刃の軽量な剣である。そして、そのサーベルに触れる相手をかまわず氷漬けにしていく。

 ワルーンと戦う相手は、彼女の軽やかなステップに圧倒され、その剣に切られたあとは氷のオブジェと化す運命にあるのである。



 この2人は秋たちのもとへ、1人足りとも『デナモス』を向かわせてはいなかった。

 が、彼らも人である以上、その体力には限界がある。

 メルもワルーンも――そして騎士たちも、物量に勝る『デナモス』に、序々に後退を余儀なくされた。

 このときにはアックスも、アダも戦闘には参加していた。

 だが、秋はセスカとベンジー、クララに護られ、戦闘には参加してはいなかった。

 

 

「敵は本気で俺たちを潰したいらしいですなっ!!」

 メルが忌々しそうに、そう言葉を吐き捨てた。

「それに敵も考えたのだろう。『ペルセウス』の能力にやられないよう、地上ではなく、樹上から襲ってきている。どこかにこれらを操る何者かがいるのだろうな」

 呼吸の荒いワルーンだったが、メルに対して、冷静な分析をしてみせる。それも余裕を持って。

「同感ですっ」

 メルもワルーンの考えと同じであることを伝えた。

「メル殿。しばしここを預けられるか?」

「……承知っ!!」

 ワルーンはメルに『デナモス』の対応を任せ、駆け足で秋たちのもとへ向かった。



◆◆◆



「シュウっ!!」

 ワルーンがそう叫んで駆けてきた。

「ワルーンさんっ!!」

 他の騎士たちの応援もあり、秋たちのところへは『デナモス』は襲ってきていない。

 が、秋はそれも時間の問題だと感じていた。

 そんな矢先、ワルーンがこうしてやって来たのだ。

「団長っ」

 戦闘に参加していたアックスとアダも、秋のもとへ戻ってきた。

「時間がない。この量の『デナモス』を相手にするのも、限界がある」

「……はい」

 秋は冷静に――返事をした。

 ワルーンはそんな秋を見て、にやりと笑いを浮かべた。

「元より、これほどの『デナモス』は一度に湧いて出たりはしない。

 おそらくは君たちと我々を全力で潰す作戦に出たと見ている。

 この近くに必ず、この『デナモス』を操っている、『悪霊デナモス使い』がいるはずだ。そこで…アダ。君にそいつの居場所を突き止めてもらいたい」

「はいっ」

 アダはしっかりと頷いた。そしてすぐにペンディラムを取り出し、占いを始めようと構えたとき。

「そして…シュウ。君にこの『デナモス』ごと、その『悪霊使い』を『英雄ヘラクレス』で吹っ飛ばしてもらいたい…出来るか?」

「待ってくださいっ!!シュウは今怪我をして右腕を動かせないんです!!」

「そうですっ!!そんなこと私がさせませんっ!!」

 アダとセスカが同時にワルーンへ抗議の声を上げた。

「君たちには訊いていない。私はシュウに訊いているっ」

「……出来ます」 

 秋はほとんど間を置かず、ワルーンを見据え――そう答えた。

「シュウっ!!」

セスカが秋を見た。秋は笑顔でセスカを見つめた。

「さっきアダも言った通り、俺は右腕を動かせない。

 でもここにいるということは、ワルーンさんやメルさんが俺を信じて連れてきてくれたということだろう?だったら、ザイタンの街に俺を置いてくりゃよかったんだ。

 きっとこういう場面を想定してるんじゃないかって、なんとなく思ってた」

「…シュウ、君は本当に……我らを信じてくれるのだな?」

「じゃなきゃ、こんな面倒な遠征になんかついてきませんよ」

「…その通りだ」

 ワルーンが異世界の少年を見つめ、その覚悟に感心した。

「セスカ。動かない右腕の代わりに、お前の力を借りれるか?」

「えっ?!」

「お前の『ニケ』の力で、俺の右腕を動かして欲しい」

「……出来なくはないが…痛みが」

「帰ればすぐ治してもらえる…だろ?そこまで我慢するからさ」

 心配するセスカを、秋はそう言って安心させるように笑ってみせた。

「アダ。すぐその操っている奴とかの居場所を頼むぜ」

「……シュウ。わかった」

「俺は…」

 アックスが何かを言いかけた。

 全員の視線がアックスに集中する。

「俺はその間、お前を護る。それでいいんだな?」

「……アックス…」

 唖然とする秋に、アックスは胸に秘めた決意を口にした。

「俺はお前を護ると決めた。お前の右腕が動かないなら、お前の右側に立ち、お前の右腕の代わりとなる。お前が疲れ果て、膝を大地に付いてしまいそうなら、お前の腕を持ち、お前を無理やりでも立ち上がらせてやる。

 それはセスカもアダも…ベンジーも、クララも。お前を支えようと考えているはずだ。

 俺たちがお前を支える。支え抜いてやるっ。

 だからお前の考えを話せ。俺が…俺たちが必ず成功に導いてやるっ!!

だから…お前は…「英雄えいゆうになれっ!!」」

 秋はアックスの、強い輝きを自分へと向けるオレンジ色の双眸を見て、ぞくりとした。

 「英雄」という言葉に強い違和感と戸惑いを覚える。だが、この気持ちはなんなのだろう?恐怖ではない。感激――深い喜び。嬉しい――こんなに嬉しいことは、初めてかもしれない。気持ちがいい。最高にいい――その想いは秋の沈んでいた心に一気に力を与えた。

 立ち上がるのは今だっ!!

「おう。俺の考えは……どこまで出来るかわからない。でも、俺は護ると決めた人たちを必ず護りたい。護り抜きたいっ。

 それをもし『英雄』って人が言うなら…『英雄』にでもなんでもなってやるっ!!

 だから、アックスたちには…俺と一緒に戦ってもらいたいっ。仲間としてっ」

 秋は抑えられない高揚感から一気に口にしてしまったが、言っている途中で――恥ずかしい台詞の連発に気がついてしまった。

 俺――勢いに任せて、とんでもない恥ずかしいこと口走ってないかっ!?

 でも止められない。これは嘘ではない――まったくの本心だから。

 でも恥ずかしい――だが止められなかった。

 言い切った秋の顔を見て、アックスが満足げに笑ってみせた。

「……任せろ」

「おうっ」

 2人の視線がアダへと向かう。何故かその行動は秋もアックスも一緒だった。

「僕は君の友達で『綺晶王導師』だよ。迷うことがあったら、僕がその迷いを断ち切ってあげるよ」

 昨日と少し言い方変えたな。アックスは密かにそんなことを考えたが、それはアダの名誉のため、黙っておいてやった。

「頼むぜっ」

 秋の言葉に、アダはうんと大きく――しっかりと頷いた。

 そしてここで秋はセスカを見た。

 セスカは黙って秋をじっと見つめ返している。

「俺にはお前が必要だ…だから、俺の世界に一緒に戻るまで……協力してくれ」

「ついていく…どこまでも。それが私の答えだ」

「おう」

 そして足元にはベンジーとクララ。秋の言葉を待っている2匹。

「頼むぜ相棒。先はちょい長そうだ」

「しかたないね」

「クララ。面倒な連中かもしれないけど」

「はい。楽しいですから」

 秋の決意はワルーンへも届いている。輝ける力強い未来の象徴として。

「ワルーンさん。これからもよろしくお願いします」

「…いや。それは我々の台詞だろう?」

 秋に言われた言葉に、ワルーンは拍子抜けしてしまった。

「じゃ…早速俺の今の考え言っていいですか?」

「今のがシュウの考えじゃなかったのか?」

 ワルーンは呆然としてしまう。秋は小さく首を左右に振ったあと、にっと清々しく少年らしい――無邪気な笑みを浮かべた。

「違います。さっきのは「未来」の考えです。これから話すのは、「今」のことです」

「どういう意味だ?」

 怪訝な顔のワルーンに、秋は一息つき、その考えを口にした。

「まずアダにその『悪霊使い』の居場所を突き止めてもらいます。

 その対角線上に俺とセスカが移動して、アックス、ベンジー、クララ…そしてワルーンさんたちは、出来るだけ多くの『デナモス』をその対角線上の位置に集めるだけ集めてください。それまで俺とセスカは力を貯めておきます。

 集まったところで、この『アート』ごと、俺がセスカの力を借りて、吹っ飛ばしますから」

「待てっ。それは無茶だっ!!」

「無茶ですが、無謀じゃないです。出来ないじゃなく、やるんですっ」

 ワルーンの否定に、秋はまったく動じない。その決意は――仲間の想いを得て、より強度を増していた。

「……まったく…君は……」

 それ以上、ワルーンは掛ける言葉が見つからない。

「じゃ、決まりだな」

 アックスが何でもないという落ち着いた表情でそう言った。

「じゃ、占うよ」

 アダも同じだった。

「頼むぜ、セスカ」

「…任せてくれ」

 秋とセスカは互いの顔を見合わせる。 

 ベンジーとクララも、秋の足元に仲良く付き添っていた。

「団長っ!!まだですかっ!!」

 メルがさすがに声を掛けてきた。騎士たちの援護もあるが、その態勢が押されているようだ。

「メル殿、今行くっ!!」

 凛と通る声を上げ、ワルーンが答えた。

「……わかった。それで行こうっ!!」

 やはり騎士団団長たるワルーンには凛々しい笑みがよく似合う。

 そんな余韻を残し、ワルーンはメルの元へ踵を返した。

 






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