第21幕 友達にならないか?
昨日は驚いた。
まさかあのシュウとかいう少年に見つかるとは思わなかった。
かなり注意して見ていたつもりだったんだけど――。
アダはそんなことを考えながら、今日も練習場にいる秋たちを見つけこっそりと覗いていた。
自分でも情けないと思うのだが――ペンディラムを使えば、秋のいる場所を高い確率で見つけ出すことが出来る。
さすがに『ズローバ』の中まで追いかけることは出来ないが――。
なんでこんなことをしているのか――それはあのメルとの手合いを見てからだ。
自分と変わらない歳で、メルと同じだけの剣術の腕前を持つ異世界の住人。
しかも今までは何の取り柄もないような振る舞いをしていたナオトまでそうとうの剣術の腕前だった。
気になったのでシュウのことを占ってみた。
導き出された結果は――『英雄』。そして憧れを抱いていたセスカとは既に夫婦になっているという。それだけではない。2人は相当太く強い絆で結ばれている。
あのアックスにも出来なったことを、わずか2週間足らずで全て成し遂げ、大公であるアレティすら懐いているらしい。
気にならないはずはない。知り合いになりたいとかそういうことではない。
ただ――自分にないものを全て持っているあのシュウという少年がどういう人物なのか?
それが知りたいだけなんだと思う。
だが、そう思い観察?し始めて数日。実は彼は、何か大きな悩みを持っている様子なのだ。あれだけ何もかも恵まれているのに、何を悩んでいるというのだろう?
それがすっごく気になった。実は自分と同じなのか?でもそれはただの野次馬だ。否。ストーカーなんだろうな――。
気持ちのやり場に困りながら、それでもアダは秋に惹きつけられている自分に自覚し、秋の観察を続けていた。
「いたな」
びくりとして後ろを振り向くと、セスカが笑顔で立っていた。
「せ…セスカっ!!」
「気になるなら話しかければいいだろう?昨日はアダに逃げられたと、シュウが落ち込んでいた。今日はちゃんと話しかけろよ」
「え…えぇっ!!」
待ち伏せされていたのかっ?!
パニック状態のアダを尻目に、セスカは大声で秋を呼んだ。
「わぁぁっ!!」
逃げようとするアダを片手で捕まえ、セスカは秋の到着を待った。
「おう、悪いなセスカ」
「いや。シュウの言うとおり今日も来たな」
「来てもらわないと、俺から行かないとならなかったからなぁ」
2人でとんでもない話をしている。
「ご、ごめんなさいっ。ごめんなさいっ!!」
きっとずっと見ていたこと怒っているに違いない。
それはそうだ。自分でもそんなことされたら、すごく気持ち悪い。
アダは必死に謝った。
「謝るなら、謝るようなことはするな。何か気になるからそうしたんだろ?」
秋に指摘され、アダは驚いて秋を見つめた。
怒ってないのか――?
「直人さーん。少しいいですか?!」
「構わないよ。話しておいで」
「ありがとうございますっ!!じゃ、行こうぜ」
「え、えっ?!」
直人から許可をもらい、セスカからアダを奪うと、秋は木陰へと移動した。
セスカはにこやかにいってらっしゃいと手を振っていた。
◆◆◆
「本当にごめんなさい…」
「だから…なんで謝んだよ?謝るならするなっつったろ?」
「…そうなんだけど……」
無理やり腰掛けるよう言われ、大木の根元に座ると、秋がその隣にどっかりと腰を降ろした。
「で?俺に何のようだ?!」
まぁ、そう訊かれるのは当たり前だ。ストーカーまがいのことをやったのだ。
アダは一瞬答えに困った。何から話せばいいだろう。と。
「しゅ…シュウさん」
「秋でいいよ。俺もアダって呼ぶから」」
「じゃ…シュウ。君は何を悩んでいるの?」
秋が驚いてアダを見た。やばい――怒ったかも?と、アダは慌てた。
「変わった奴だなぁ。俺からそれが訊きたくて、ずっと覗いてたのか?!」
「え…あ、いや…あ、う…う、うん。そうだね…」
吃りながらも、アダはなんとか秋に頷いた。
「面白しれぇ奴だな。でも、アダの言うとおりだよ。確かに悩んでる。訊いてくれるか?」
少しも隠すことなく堂々と宣言をする秋に、アダは驚きながらも、その潔さに憧れを抱いた。
「あ…うん。それが訊きたかったから……」
「すごいんだな。『綺晶王導師』ってのは…」
「そんなことないよ。僕は役立たずだったから……」
アダの悩みは少なからず秋にはワルーンやセスカから聞いただけだが、思い当たることがある。が、今はアダが訊きたいと言った、自分の悩みを話すことにした。
秋からこれまでの経緯と、秋の家のことを訊かされ、アダはただ呆然としていた。
何もかもが恵まれていると勝手に思い込んでいた。実はそうでない。
秋は望まずしてこの世界に来ることになったこと。そしてそれは直人も同じだということ。元の世界には待っている家族がいること。
それが自分だったらどうするだろう?きっと帰りたくて、ただ意味もなくパニックを起こしていたのではないだろうか――。
「じゃ、じゃぁ、シュウ。出来るかどうかわからないけど、妹さんのこと占ってみようか?」
「えっ!?出来るのか、そんなこと?!」
アダはペンディラムを取り出した。
「シュウがそんなに心配しているなら成功する確率が高いよ。
占いに、時間、場所の概念はないから…。
シュウはこのペンディラムの先にある水晶に集中して。そうしたら、僕が占うよ」
「おうっ。頼むっ」
アダがペンディラムをチェーンごと垂らす。
振り子のように揺れる水晶を秋は見つめ、妹の弥生のことを考えた。
アダが集中し、瞳を閉じる――しばしの沈黙。
「…妹さんは元気だよ。ただ、シュウとベンジーのことをすごく心配している。
それに…誰か異性で妹さんを支える人がいるね」
「…異性?」
「うん。誰か心当たりはいる?」
「親父じゃなく?」
「肉親じゃないね…友達…いや、たぶん愛情を感じる相手だと思う」
秋の形の良い眉尻がぴくんと跳ね上がる。
「…彼氏…とか?」
アダはそんな秋に、多少の恐怖感を抱きながら、「うん、たぶん」と答えた。
秋には心当たりがあった。
半年前ぐらいに――バイト先のコンビニを辞める少し前ぐらいか。
同僚から、弥生が同じクラスの友達なのか、仲良さそうに男の子と買い物に来たということを聞かされた。
それを弥生に問い詰めたとき「そんなことあるわけないじゃんっ」と否定されてのだ。
それからかなり気にはなってたのだが――。
しかし今では、その彼氏が弥生の支えになっているという――ということなのか?
「シュウはそうとう妹さんのことが大切なんだね」
「…シスコンって言っていいよ。自覚はあるから……」
ここまで潔いとは。アダは呆れつつも、ますます秋に好意を抱いた。
「仕方ないよ。たった2人の兄妹でしょ?」
「……アダには兄弟はいないのか?」
「僕は1人っ子だから。兄弟は憧れるな」
「…そっか」
秋は短くそう答えた。
「ありがとな。ちょっとモヤモヤが取れたわ」
「それは良かった……」
「お前、すごいな…アダ」
「そんなことないさ。いざというときに役に立たないんだから……」
また。秋はアダをじっと見つめた。
「それが理由で騎士団を辞めるのか?」
びくっと肩を上下させ、アダは驚いていた。
「……セスカから聞いたの?」
「いや。ワルーン団長から聞いた。すごく腕がいいのに、残念だって」
「それは…嘘だよ……」
「そうか。お前がそう思うのなら、そうなのかもな」
秋は躊躇いなくそうアダに言った。
アダが驚く――というよりは、プライドを傷つけられた怒りで秋を見据える。
「じゃ、騎士団辞めたら、やることないんだろ?」
「…ないわけじゃないよ。また『王導師』という役目を学び直したいんだ」
「駄目だと自覚している奴が、またやっても無駄だと思うぜ?」
「そんなこと…やってみなきゃ……」
アダが剥きになって秋に言い返す。それを遮るように、秋はにやっと笑ってアダを見た。
「なんだ…剥きになれるんじゃんよ。なら、やり返せばいい」
「…えっ!?」
どういうことだという目で、アダは秋を見つめた。
「俺と友達にならねぇか?」
「…はっ!?」
「俺はこの世界に来たばかりでなんも知らない。でも、お前が俺の友達になってくれたら、出来ることがそうとう増えると思うんだ。お前にはその占いの腕と、経験があるだろ?
色々俺に教えてくれよ」
「…シュウにはナオトさんがいるだろう?」
「直人さんは友達じゃねぇもん。俺の剣術の師匠だから。
セスカは…彼女というか……この世界に友達って言える奴が1人もいないんだよなぁ」
寂しそうに呟く秋に、アダは目を丸くした。
「騎士団は辞めちゃえ。邪魔なだけだろ?
俺、アレティを護りたいんだ。お前に協力してほしいんだよ」
一瞬言うべき言葉に詰まり――代わりにアダはぷっと吹き出した。
「笑うなよ…人が真面目な話をしているのに……」
「い…いや。僕は君のことを遠くから覗いていた奴だよ?それを信用しちゃっていいのかなってさ…」
「俺の悩み事聞いてくれるために、そのタイミングを探してたんだろ?
それにまぁ…俺の仲の良かった友達に少し似てたから…それでかな…」
そう言い返され――友達に似ているということなら、親近感でも湧いたのだろう。
アダは戸惑うが、とりあえず「うん」と小さく頷いた。
事実はちょっと違うけど――まぁいいか。
「じゃぁ、良い奴じゃん。信じるだろう?」
何の疑いもなく、秋はそう言い切った。
もう我慢できず、とうとうアダは笑い出してしまった。
「あぁ?笑うことはないだろうがっ!?」
「でも…シュウは本当に変わっているよ」
「お前には言われたかないぞ、アダ」
「ごめんっ」
「謝るなら言うなっ」
「そうするよ」
それでもしばらく笑いは続いた。
そしてアダは秋を真正面から見つめ、笑顔で言った。
「……ありがとう」
◆◆◆
翌日。アダは騎士団に正式に退団の申し入れを行い、受理された。
それは団長のワルーンには秋の言うとおりに、とても残念だと言われた。
でもアダはしっかりとワルーンの前でこう言うことが出来た。
「自分で決めたことですから」
こうして秋には同年代の同性の友人がこの世界で1人――出来たのだった。




