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火球しか使えない私が、異世界最強の英雄に祭り上げられる(と、本人は不服である)  作者: SSS
火球しか使えない私が、異世界最強の英雄に祭り上げられる(と、本人は不服である)

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第1話 Cランクから始めさせなさい



 まず、状況を整理しましょう。


 私は湊ミライ。令和の日本が生んだ天才美少女。……なのに、なぜか今、見知らぬ異世界の石畳の上に、ぽつんと立っている。



  ◇



 話は少し遡る。


 ついこの間まで、私はとある殺し合いに放り込まれていた。十三人の異世界人が集められて、最後の一人になるまで殺し合う……悪趣味なデスゲーム。(まあ、私はうまく立ち回って、見事に生き残ったのだけど)


 で、あとでわかった。あれはただの殺し合いじゃなかった。「蟲毒」というやつだ。壺の中に毒虫をたくさん入れて共食いさせて、最後に残った一匹を最強の毒として使う……そういう儀式。つまりあのデスゲームは、「魔王を倒せる勇者」を選ぶための選抜試験だったのだ。


 そして、その栄えある「勇者」に選ばれたのが――五百旗頭(いおきべ)さん。


 私の大切な相棒。(いえ、……友達かしら。まあ、どっちでもいいわ)あのデスゲームで、ずっと私の隣にいてくれた……食えない人。


 で、勇者に選ばれた五百旗頭さんは、私が「ちょっと、待って」と言う間もなく、王国の兵士たちにぐいぐい連れていかれてしまった。魔王討伐の旅とやらに、強引に。……半ば拉致みたいなものだ。



  ◇



 残されたのは、私と、もう一人。あの気弱な少年。


 王国の人間は、私たちを見て、面倒くさそうに言った。


「お前たちは……勇者ではない。用済みだ。元の世界に帰してやる」


 そして光に包まれて……気がつくと、私たちは元の世界――ではなく、この異世界の別々の地域に、ぽいっと捨てられていた。


 ……はあ? 話が違う。「元の世界に帰す」んじゃなかったの? 嘘つき。詐欺。……許さない。


 気弱な少年は、飛ばされた先で、さっさと割り切って就職したらしい。


「ぼく……争いごと、嫌いなので。……ここで静かに暮らします」


 ……ふん。気の小さいこと。まあ、いい。あいつはあいつ、私は私。


 でも私は割り切れない。帰すと言って帰さなかった。相棒を連れていった。……この王国、このままにしてはおけない。


 だから、私は決めた。


 一つ、この王国に復讐する。いえ、いっそ乗っ取る。二つ、ついでに魔王とやらを倒す。三つ、勇者としてこき使われている五百旗頭さんを回収する。四つ、そして二人で元の世界に帰る。


 ……うん、完璧な計画。我ながら壮大。(計画って、大きければ大きいほど、語ってて気持ちいい)


 もっとも、壮大な計画には、まず力が要る。


 今の私は、悔しいけれど何の力もない。デスゲームのときの能力は(感情の揺れを読むやつ)、どうやらあの場限りだったらしく、今はほとんど使えない。かろうじて、相手が私に敵意を向けてるかどうか、なんとなくわかる程度。……つまり実質、丸腰。


 だったら、やることは一つ。――力をつける。


 この異世界で、手っ取り早く力をつける方法。それは決まっている。


 冒険者(ぼうけんしゃ)。


 この世界には冒険者という職業がある。魔物を倒したり、ダンジョンに潜ったり、依頼をこなしてお金を稼ぎ、力をつけていく。……なるほど、わかりやすい。ゲームでいうレベル上げね。


 私はその足で、街の冒険者ギルドとやらに向かった。



  ◇



 ギルドの建物はやたらと大きくて、中はむさ苦しい男たちでごった返していた。


 受付に座っていたのは、眼鏡をかけた、事務的な雰囲気のお姉さん。(名前? 知らない。「受付」でいいでしょう)


「いらっしゃいませ。……冒険者登録ですか?」


「ええ」私は頷いた。「登録してちょうだい」


「かしこまりました。……こちらにお名前を」


 私は差し出された羊皮紙に、さらさらと名前を書いた。……ちなみに字は読めるし書ける。なぜかこの世界の言葉が通じるから。(これが地味にすごいことだって、このときの私はまだ気づいていない)


「湊ミライさま、ですね」受付は羊皮紙を確認して、「では、ご説明します。冒険者にはランクがあります。上から、S、A、B、C、D、E、F。……新人の方は基本的に、一番下のFランクからスタートです」


「へえ」私は鷹揚に頷いた。「なるほど。……でも」


「はい?」


「私は」私は髪をかき上げて言った。「Cランクから始めさせてもらえるかしら」


 受付の手が止まった。


「……はい?」


「Cランク」私は繰り返した。「一番下からなんて、時間の無駄でしょう。私、そういうまどろっこしいの苦手なの」


「あの……」受付は困惑した顔で、「Cランクというのは、ある程度実績を積んだ中堅の冒険者が」


「わかってるわ」私は遮った。「本当なら私の実力なら、Aランクからでもいいくらいなのよ。でも、ほら、いきなり上から始めると、周りがついてこられないでしょう。だから、肩慣らしも兼ねてCくらいで……手を打ってあげる」


 ……そう。これは私なりの譲歩、謙遜。本当はAランク級の実力があるけれど(※自称)、いきなりそれだと角が立つ。だからあえてCから始めてあげる。……なんて、私、優しい。


 ……ちなみに、普通のいわゆる「本当に強い」主人公は、力を隠すものらしい。わざと弱いふりをしてFランクから始めて、周りを「なんだこいつ、雑魚か」と油断させて、ここぞというときに本気を出して「し、しまった、こいつ……本物だ……!」と驚かせる。……らしい。


 でも私は逆。隠すなんてとんでもない。私は最初から高く見積もらせる。だって、隠したら誰にもわかってもらえないじゃない。それは……耐えられない。


 (この性分が、のちのち私をとんでもない目に遭わせることになるのだけど、このときの私は、やっぱり何も考えていない)


 受付はしばらく私の顔をまじまじと見ていた。それから眼鏡の奥で、……そっと目を逸らした。


「……あの、湊さま」


「なにかしら」


「気持ちはわかりました。ですが、規則は規則でして……いきなりCランクからは、ちょっと」


「あら、融通が利かないのね」


「……そのかわり」受付は助け舟を出すように、「もし本当にそれだけの実力がおありでしたら、"ランク認定試験"という制度があります」


「試験?」


「はい。在籍している上位ランクの冒険者と手合わせをして、力を認められれば、相応のランクから始められます」


 ……ほう。私はにやりと笑った。(いいじゃない。手っ取り早く私の実力を証明できる)


「いいわ。……その試験、受けてあげる」



  ◇



 かくして私は、ギルドの裏手の訓練場に案内された。


 私の相手に選ばれたのは、大柄な、髭面の、いかにも歴戦という風貌の男。(受付曰く「Aランク冒険者のガードナーさんです」とのこと。……名前は、まあ、覚えなくていいわ。「Aランク」で充分)


「嬢ちゃんが、Cランクから始めたいってのは、あんたか」ガードナーは面白そうに髭を撫でた。「威勢がいいな。……気に入った。だが冒険者は口じゃなくて、腕だ。見せてみろ」


「ふふ」私は余裕たっぷりに微笑んだ。「後悔しないでね。……お手柔らかに、なんて言わないわよ」


 ……で、結論から言うと、私はぼろ負けした。


 何が起きたのか、よくわからなかった。私は勇ましく「いくわよ!」と前に出て……そこまではよかった。でも、そのあとがいけなかった。私には剣もなければ、魔法も使えない(使い方をそもそも知らない)。ただの女子高生のパンチとキックが、歴戦のAランク冒険者に通じるはずもなく。


 ガードナーは私の拳をひょいと避けて、足を軽く払った。それだけ。それだけで私は、訓練場の地面に顔から……べしゃっと転んだ。


「……終わりか?」ガードナーは拍子抜けした顔で私を見下ろした。「嬢ちゃん、あんた……強がってただけで、ほんとに何もできないのか」


 (……おかしい)


 私は砂まみれの顔で呆然とした。おかしい、おかしいわ。私はあの十三人の異能バトルを勝ち抜いた女。盤面を支配する者。なのに、なんでこんな髭のおじさんに一撃で転がされているの。


 ……あ。わかった。――異世界チートを、まだ使ってないからだわ。


 そう、きっとそう。異世界に来た人間には、何か特別なチート能力が授かるはず。私はまだそれを覚醒させていない。だからこんなに弱い。……逆に言えば、覚醒さえすれば私はとんでもなく強い。うん、そういうこと。そういうことにしておく。


「……嬢ちゃん」ガードナーがため息をついた。「わかったら、おとなしくFランクからやり直せ」



  ◇



 かくして、冒険者・湊ミライは、いきなりCランクどころか、ごく普通に一番下のFランクからスタートすることになった。


 訓練場を出て、私は砂を払いながら、誰にも聞こえないように、ぼそっと呟いた。


「……おかしいわね。13人の異能バトルを勝ち抜いてきたのに。……異世界チート、使えないじゃん」


 まったく、異世界って……ままならない。


 でも、いいわ。まだ始まったばかり。私の壮大な、王国乗っ取り+魔王討伐+相棒回収の……偉大なる第一歩は、いま、このFランクから(※最下位から)始まったのだ。



(第1話 了)

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