22. 逃げ出す理由とその兆し
自分の命とエイレル村の住民たちの命を守るため、レグルは逃げ出すことにした。
しかし、四方を村人たちに囲まれている状況で逃げるのは簡単ではない。残された方法は、村人たちを飛び越えるか、地面に潜り込むかの二つくらいしかなかった。
もちろん、レグルが選んだのは前者だった。
彼は跳躍するために膝を曲げた。そのとき、いつもより自分の体がずっと軽くなっていることに気づいた。
そして地面を蹴った瞬間、レグルの体は勢いよく空へと舞い上がった。
村人たちは地上に取り残され、驚きと怒りの入り混じった表情で彼を見上げていた。
「えあああっ! 高い!」
しかし、空中に飛び上がった喜びは長くは続かなかった。
ある程度の高さまで到達したところで、レグルの体は一気に地面へと落下し始めた。
(くそっ! このままじゃ地面に叩きつけられる! 死ぬ! おい、内なる声! 助けてくれ!)
『助言:心配する必要はありません』
(はあ!? 助けてくれてありがとうよ! まったく、役立たずな補助機能だな!)
地面がどんどん近づいてくる。
レグルは目をぎゅっと閉じ、衝撃に備えた。
次の瞬間、耳をつんざくような轟音が響き渡った。
地面に激突した衝撃で、小さなクレーターができていた。しかし、当のレグルはというと、仰向けのまま両足を上に向けて、なんとも間抜けな格好で倒れていた。
驚いたことに、本人はまったくの無傷だった。
「ふぅ……」
レグルは慌てて立ち上がり、周囲を見回した。
どうやら、まだエイレル村の中にいるらしい。ちょうど村の出口にある門の前だった。
「もう行くのか? それとも、何か用事でもあるのか?」
少し離れた場所には、あの小柄な男が立っていた。
レグルが高いところから落下し、地面に小さなクレーターまで作ったというのに、男はまるで気にしていない様子だった。それどころか、レグルが無傷で立ち上がったことにも、特に驚いていないように見える。
その一方、近くからは村人たちの話し声が聞こえてきた。
※ ※
(村人たちの会話)
「このクソガキめ! ブランさんが拾ってやったっていうのに、奥さんの記憶を消した挙げ句、ブランさんまで殺しやがった!」
「早くあいつを見つけないと!」
「私は、あの子は良かれと思ってやったんだと信じてるわ。あの子がどれだけ心配していたか、私は見ていたもの……」
「シトラ、またそんなことを言っているのか!?」
「……」
「クララ、君からも何か言ってやってくれ……。クララ?」
「……」
「私は、あいつに復讐する!」
※ ※ ※
(逃げなきゃ!)
「すみませんが、そろそろ失礼します。門を開けてもらえませんか?」
「ああ、もちろんだ」
男はゆっくりと門のほうへ歩き始め、レグルもその後についていった。
重厚な門は、まるで意思を持っているかのように、ゆっくりと開き始めた。
そのときだった。
突然、後ろにいた小柄な男がシャベルを手に取り、レグルに向かって振り上げた。
しかし、次の瞬間、レグルの体から刀を携えた少女の霊体が飛び出した。
彼女は驚くほど美しい姿をしていた。身にまとっている服装は、まるでパジャマのようだった。
少女は一瞬で刀を鞘から抜き放ち、目にも留まらぬ速さで一閃させた。
そして、刀を再び鞘に納めると、そのままレグルの体へと戻っていった。
レグルはゆっくりと振り返った。
そこには、地面に倒れた小柄な男の姿があった。
そして、そのすぐそばには、胴体から離れた男の頭部がシャベルの上に転がっていた。




