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コレが私のフライトプラン。Good Day‼【第1部 マイル修行】  作者: ちとせ鶫
第1章:おかえりなさい、蒼空

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7/22

第7話 またお会いしましたね

旅を重ねるほど、空はただの移動手段ではなく、ひとつの“居場所”になっていく。

雲雀蒼空にとって那覇も宮古も、特別な目的地ではなく、空の中で呼吸を整えるための通過点だ。

同じ海を何度見ても、同じ空港に何度降りても、決して同じ景色にはならない。

その微妙な違いを拾い上げながら、蒼空は今日も空を往復する。

この章は、そんな彼女の“空の生活”が静かに深まっていく物語です。

どうぞ、蒼空の歩幅とともに、この空のリズムを感じてください。

おかえり、蒼空。

 那覇に戻った。


 宮古から那覇、四十五分。

 那覇空港の搭乗口エリアに戻ってくると、もう次の便の搭乗準備が始まっていた。

 乗り継ぎ時間、五十分。

 売店でお茶を買った。水分補給は大事だ。

 シートに座って、お茶を飲みながら窓の外を見た。


 那覇の空は、朝より青くなっていた。

 太陽が高くなっている。

 南の光は、東京より強い。


 スマートフォンを開いた。

 フライトプランを確認する。

 今日ここまで、二便消化。残り六便。

 FCの積算を計算する。

 アレキサンドライトまでの距離が、少しずつ縮まっている。


 悪くない。


     * * *


 三便目、那覇→宮古。


 機内に入ったとき、蒼空は気づいた。


 さっきと同じクルーだ。


 ギャレーの近くに立っているCAさんが、目が合った瞬間に少し目を丸くした。


「あら」

「……どうも」


 蒼空は会釈して、席に向かった。


 窓側に座って、シートベルトを締める。

 今日三回目の宮古行きだ。

 同じルートを、同じ機体で、同じクルーと飛ぶ。


 変だろうか、と一瞬思った。

 でもすぐにどうでもよくなった。

 修行とはそういうものだ。


     * * *


 離陸した。


 高度が上がると、また海が見えた。

 さっきも見た海。同じ海。

 でも光の角度が変わって、色が少し違う。

 午前と午後では、海の顔が変わる。


 蒼空はそれを眺めながら、思った。

 同じルートを飛んでも、まったく同じ空はない。

 毎回、少しずつ違う。


 だから飽きない。

 たぶん、そういうことだ。


 CAさんが飲み物を配りにきた。

「コーヒーでよろしいですか」


 聞かれる前に、覚えていてくれた。

 蒼空は少し驚いた。


「はい、お願いします」

「ブラックでよろしかったですか」

「……はい」


 カップを受け取った。

 温かかった。


 地上で誰かに覚えてもらえることは、ほとんどない。

 職場では、仕事が回ればそれでいい。

 コンビニでも、スーパーでも、駅でも、誰も蒼空のことを覚えていない。

 それでいいと思っていた。

 覚えてもらう必要がない。


 でも空では、こういうことが起きる。

 たった一便のやりとりを、覚えていてくれる人がいる。


 蒼空はコーヒーを一口飲んだ。

 さっきと同じ味がした。

 でも、少し違う気がした。


     * * *


 宮古に着いた。


 ドンッ。


 今日二回目の着陸衝撃。

 コーヒーは飲み切っていた。

 今回は宙を舞わなかった。


 隣の乗客が、思わずといった様子で笑い声を上げた。

「毎回これですよね、宮古は」

「そうですね」


 蒼空は短く答えた。

 でも悪い気はしなかった。

 宮古の着陸は、そういうものだ。

 毎回ドキッとして、毎回笑いたくなる。

 それも含めて、宮古だと思う。


     * * *


 折り返し便の搭乗口前に座った。


 宮古空港の売店を、今日何度目かで眺めた。

 配置は全部覚えた。

 どこに何があるか、もう分かる。


 お菓子のコーナーに、雪塩のキャラメルがあった。

 前に来たとき買ったことがある。

 美味しかった。

 でも今日は買わない。荷物を増やしたくない。


 次に来るときに買おう。


 次に来るとき、というのがすでに決まっているような気がして、蒼空は少し可笑しくなった。

 また来る。たぶん、また来る。

 宮古と那覇の間を、これからも何度も往復するだろう。


 それでいい。

 それが、自分の生き方だ。


     * * *


 四便目、宮古→那覇。


 機内に入ったとき、またいた。


 同じクルーだった。


 今度はCAさんのほうが先に気づいた。

 通路の途中で目が合った。


 一瞬、お互い何も言わなかった。


 それからCAさんが、くすりと笑った。


「またお会いしましたね」


 今日何度目の「またお会いしました」だろう。

 蒼空は、ちょっとだけ照れた。


「……またお世話になります」


 自分でも珍しいと思う返し方をした。

 でも、それ以外の言葉が出てこなかった。


 CAさんは嬉しそうに笑って、先に行った。


 蒼空は席に向かいながら、なんとなく窓の外を見た。

 宮古の青い空が広がっていた。


 地上では、誰かとこういうやりとりをすることがない。

 必要な言葉しか交わさない。

 それで十分だと思っていた。


 でも空では、必要じゃない言葉が生まれることがある。

 「またお会いしましたね」なんて、別に必要な言葉じゃない。

 なくても、飛行機は飛ぶ。


 でも、あってよかったと思う。


 蒼空はシートに座って、シートベルトを締めた。

 那覇まで、四十五分。


 まだまだある。

 今日はまだ、続く。


     * * *


 那覇に戻りながら、蒼空は今日のここまでを振り返った。


 羽田を出て、雲を抜けて、那覇に着いた。

 宮古に飛んで、コーヒーが宙を舞った。

 同じクルーに何度も会った。

 コーヒーの注文を覚えてもらった。

 「またお世話になります」なんて言葉が、自分の口から出た。


 地上ではあり得ないことばかりだ。


 窓の外に、雲が流れていく。

 那覇が近づいている。

 もう二往復、宮古に行く。


 蒼空は窓から目を離さなかった。


 まだ飛び足りない。

 いつも、そう思う。

 飛んでいる間は、ずっとそう思う。


 それでいい。

 それが蒼空の、正しい状態だった。

読んでくださって、ありがとうございます。

那覇と宮古を往復するうちに、蒼空の中で少しずつ積み重なっていくものがあります。

コーヒーの味、強めの着陸、覚えていてくれるクルーの笑顔。

地上では生まれない小さなやりとりが、空では自然に生まれる。

その温度が、蒼空を今日も飛ばせているのだと思います。

もしあなたにも、旅の中でだけ感じる特別な瞬間があるなら、この章がそっと寄り添えていたら嬉しいです。

次の空へ、また一緒に。

Good Day!!

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