55.お嬢様カノン
意味不明の呪文を叫んだ、刹那、私の右手に開いた穴にパリ……パリ……とスパークのような電光が地った、と思うや――……
掌から腕、肩へと衝撃。後ろへカラダを突き飛ばされたようだった。
「何だとっ?!」
叫ぶジルバに目を凝らすと、
「……何か出てる」
私の手から、直径5センチの白いビームが今まさに放たれていた。
わー。カメハメ波出たー。
光は一直線にジルバを襲う。
「……くっ」
破壊力未知数の新兵器に、さしものジルバも回避を選ぶ。
身を躱した魔剣士の背後には、『魔王』軍本隊が位置していた。
「わあっ、何だコレ」
「あら、コワイ」
獣王と魔女は余裕の態で射線から退いた、が。
「う……ぐはっ?!」
間の悪い戦士が一人真正面にいて、甲冑の胸部にまともに直撃。そのまま数メートル吹っ飛ばされ、動かなくなった。
シュウウウ……ようやく閃光の放出が終わった。私の手の穴と、あっちの騎士の胸から白煙が立ち上っている。
戦場で誰もが言葉を失った。
魔剣士、魔女と獣王、『魔王』軍の兵達。こっち側の警官と報道者、我が子の絵里香と慎太郎、西九条さんまでも。
一番唖然としてるの、撃った本人ですけど。
あのね。こういうの、出す気で出すんじゃないと、それって暴発よ? ぶっ飛ばした騎士が介抱されている。息はあるようで、敵ながら良かった。戦う覚悟はして来たけど、過失致死はイヤだ。
静寂の元凶であるDrが、重々しく言った。
「“Death,know”……即ち“死を知レ”といウ宣告を意味していル」
「明らか後付けだよね」
私のツッコミを無視して、
「コレが『人形姫』の新魔導兵装、『お嬢様砲』ダ」
「ネーミングよ」
「貴様だろウ、カワイイ技が欲しいといっタのは」
え……ああ、うん? え、カワイイの要素の部分なの?
あー、もういいや名前はどうでも。
「それより、え、何が出たの?」
「何が、と問われれバ“魔力”ダ」
「魔力? だってDr、前に人間には魔法は使えないって」
「あたしもそう認識してたけどお?」
ほら、魔法の本職だろう魔女さんも、唇に指を当てて首を傾げている。
するとDrしたり顔をして、
「そう考えてた頃が吾輩にもありましタ。だガ吾輩最新の研究によるト、どうもコチラの世界の人間にも、魔力に相当するチカラがあるようでナ」
そう言ってちらっと、呆気に取られたままの絵里香と慎太郎を見た。
「人間の感情、ソレから生じるチカラは、我々の魔力と同一の性質を持つエネルギーであルようなのダ――……
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これは後にDrから聞いた話。
魔法とは。
魔力という精神エネルギーで事象に干渉して、炎や冷気といった現象を引き起こす技術、それが魔法だ。
魔法を使えない者やモンスターにも、魔力自体はあって、身体能力の強化や特殊能力の形で発現する。自分自身に干渉する魔法、と言えるだろう。
魔力とは意思の力である。それは生きとし生けるものの中に存在する。
「では何故、人間に魔法が使えナイのカ?」
それは単純に、使い方を知らないからだ。術式の知識がない。魔力を認識していないから自分の内側での発動もしない。
しかしながら……
例えば、アスリートがモチベーションによって、普段以上のパフォーマンスを発揮することがある。わかりやすいところでは、火事場の馬鹿力。こういうのは無自覚ながら感情の昂りが、僅かに魔力からチカラを引き出しているのだと、Drは理論を組み立てる。
「知は力なリ、逆もまた然リ。知らぬチカラは出しようがナイ」
これが、後でDrから聞いた話だ。
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しかし今この時はもう、ワケわかんなさでお腹いっぱいである。
「ソコで吾輩、術式プロセスを機構化して『人形姫』に組み込んダ」
うん。わからん。
「お嬢様カノンは貴様に内在すル魔力を、『魔砲撃』に変換する仕組みダ。単純な分威力はあるゾ。ジルバ相手を想定しテ、属性も“打撃”に設定してあル」
ふむ。中世の剣は甲冑の内部にダメージを与えるよう、打撃武器だったと物の本で読んだことがある。知らんけど。
魔力ウンチクは後聞きの話。この時は自分に魔力があって、“お嬢様砲”で撃ち出せる、取り急ぎそれだけを飲み込んだ。
「これ、何発撃てる?」
目下戦闘継続中、のんびりしてる余裕はないよ?
「ククク、フハハ……ソレこそ我が魔導兵装の新機軸!」
余裕、ないんだよ?
しかしDrを急かせるのは、亀にハイパーダッシュさせるより困難だ。だってこの人、この戦いも完全他人事なんだもの。せめて二段笑いで止めただけ、Drも少しは急いてくれているのかもしれない。
「貴様の魔力だけでハ、後2発か3発というところだろウ。だガ……コレはシンタロー達に暗示が効きにくイ、というコトからの逆転の発想でナ。どうやら貴様らには、ある種の“感情のつながり”があるらしイ……」
Drがぽんぽんと、我が子、彼の“孫”らの肩を叩いた。
「その“つながり”を通ジ、シンタローとエリカが“貴様を想う感情”と『お嬢様砲』の接続を構築しタ」
「うん?」
何か今、さらっととんでもないこと言わなかったか?
「実際、さっきの一発はシンタローの魔力から消費しタ」
「へえっ?」
そうなの?! 慎太郎も驚いて、自分の手、私、Drをきょろきょろ見比べてる。Drは私達の反応にいたくご満足そうに、
「シンタローの貴様への愛……より、もうちょっト性的な感情を、破壊エネルギーに変換して放出したのダ」
ヤな言い直しすんな。
ホント、頼もしくて不安にさせる男だよ。私は創造主サマをジトっと睨む。
「おい。それは、子ども達の身に危険はないんだろうな?」
「生命力を使うワケではナイ。魔力が尽きれば撃てなくなルだけのことダ。まア、多少の精神的疲労くらいはあるガ」
「信じるぞ? 後で問題が出たとなれば、こればかりは許さな……」
「姫」
Drに念を押している横から、不意に慎太郎が割り込んだ。
見るといつになく真剣、というか引き締まった顔つきで、
「今はそんなこと言ってる時じゃない。目の前の敵を見て」
静かに、父親の私を戒めた。
「姫は、命を懸けて戦っている。オレとねーちゃんだって、ちょっとくらい命を削っても平気だよ。むしろオレは、こんなことでも姫と一緒に戦えるのを、Drに感謝したいんだ。だから今は、オレ達のことを心配せず戦いに集中して」
「慎太郎……」
息子は父よりよほど冷静で、眼差しはどこまでも真っ直ぐに澄み切っていて、
「慎、あんた賢者タイムでしょ?」
娘がそれを一発で台無しにして。
あーね。性的な感情、破壊エネルギーに換えて発射したんだもんね。何とも言えない気持ちになる私に、慎太郎は額に手をやり、
「あー……姫が手で出してくれたから、スッキリしてるのか」
「言い方ァ!」
頭がね、スッキリしてるのね! スポーツ的な発散の意味でね!
慎太郎が私を見て、不敵に笑った。
「心配無用。残弾、オレの煩悩は108まであるぞ」
「我慢しないで? 全部出しちゃっていいよ?」
お父さんはヤケクソになった。けど娘よ、スカートでウ●コ座りになって腹抱えて笑うのはヤメなさい。
と、ここでハタと気づいた。
「Dr? お嬢様砲をこの腕に仕込んでるなら、何で前もって教えてくれなかったんだ?」
尤もな疑問を受け、Drはさも当然と答えた。
「ソレは吾輩自らお披露目したかっタからダ!」
「バカなの?」
Drは一歩踏み出して大仰に胸を開く。
「死闘の最中、危機に瀕しテ新必殺技が!って方が盛り上がるだろウ」
「戦争は遊びじゃないんだよ?」
いや遊びなのか、この人にとっては何もかもが。
私もまた賢者モードで、何度目になるか、魔剣士に向き直った。
ジルバもまたウ●コ座りになっていて、「おっ?」って感じで立ち上がった。手には既に私の弾き飛ばした兜を拾ってきている。中断、多くて長かったよね。ほんとゴメンね。
「待たせた」
「ん、いいよ。いい、いい。大丈夫、俺も今来たとこ」
達観すんなよ。申し訳なくなるから。
魔剣士が砲弾型兜を被り直した。地に突き立ててた大剣を引き抜いて肩担ぎにする。
兜の中で、吸ってえ吐いてえ、の深呼吸の音が聞こえる。
「さっきのがお前の奥の“手”か。倒されたのは我が手下の精鋭。それを一撃とは、俺とて油断はできんな」
私が過失傷害した戦士が、仲間に搬送されていく。
「時間をくれたことを感謝する、が、悪いけど恩は仇で返すよ」
「望むところ。お前の必殺の一撃、俺に入れてみせろ」
ジルバの肩から、大剣が弧を描いて、私をぴたりと指した。
「不完全なお前を破壊しても勝ったとは言えん! 人形、俺はお前の“お嬢様カノン”を捻じ伏せ完全にお前を叩き潰す!」
おっとォ。こんな状況だけどグッとくるね。敵ながら魔剣士は正々堂々で、私のこともいつしか格下でなく対等と目している。展開熱いわー。
「はは! ジルバ、武人キャラ!」
「男の子よねー」
魔界女子には温かい目で見守られてますけど。
大剣片手正眼が魔剣士の構えなら、戦い方なんて知らず、無形なのが私の構え。
来ていいよ、そう頷いたのが戦闘開始の合図。
ジルバは腰から身を振り返らせ、味方、魔女と獣王を見やった。それからおもむろに向き直り、敵、私の子ども達やDrを見た。そして、どうやらこれ以上の邪魔は入るまいと見定めたようだ。
さすがにもう、ここから先は決着まで私とジルバ二人の間に立ち入れる者はないだろう。たぶん、Drを除いて。
人形と黒騎士は、同時にアスファルトの地面を蹴った。




