↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/89

54.魔導兵装

挿絵(By みてみん)

「Dr.ボンダンス!」

「え、何で?」


 貴人である奇人の突然の訪(おとな)いに、『魔王』軍三将、獣王と魔女さえ面喰った。

 私は驚くどころではない。交戦中の魔剣士の存在さえ、頭からすっ飛ぶ。

「Dr! 何で子ども達を連れて来た!」

私の剣幕にDrは首をひねる。

「エー? シンタロー達が来たイって言ったカラ?」

「ボケかけの、孫に甘いおジイちゃんか!」

食って掛かると、Dr、ニヤッと笑って、

「うム。孫の言うコトには逆らえんン」

もうええわ、その設定。

 レッドドラゴンがぐいっと首を弧に曲げて、

「ありゃ、来ちゃったかい。絵里ちゃんに慎君」

「あ、おっちゃん」

「来ちゃいましたあ」

呑気なご近所付き合いも、いらん。


 ジルバに目をやると、大剣を下ろした。時間をくれる、ということだろう。こういうところの騎士道精神、素敵。

 こちらも会釈を返し、私はできる限り厳しい顔を作って振り向いた。

「何しに来た?」

私の叱り声に、姉弟は、幼かった頃イタズラが見つかった時のようにチラチラと目を交わし合う。

「だっておとーさん」

「姫のことが心配で……」

「バカなことを」

悪気がないのはわかるが、

「こんな危険なところに、ノコノコ来る奴があるか。自分の身を守ることさえできないくせに……」

と、ため息をついたその時だ。



 ヒトの匂いに興奮してか、モンスターの一匹が、『魔王』軍兵士の抑えを振り切って飛び出した。虎サイズのオオカミ、という具合のヤツだ。

「絵里香、慎太郎!」

私とジルバの頭上を軽々跳び越えたソイツは……マズい速い、見る間に我が子らに迫っていく。が、私が慌てて“全身転移”で追う前に、

「フン。躾の悪い犬ころダ」

Drがすっと絵里香達の前に出た。魔獣は猛り、相手お構いなく飛び掛かっていく。あわやと息を飲む私の視線の先で、

「吾輩を誰と心得ル。身のホドを知レ」

Drは動じることなく、涎滴る鼻面に指を突きつけた。


 ドン! ドン、ドン、ドン!


 バスケットボール大の爆発が、魔獣の鼻先から尻尾まで、舐めていくように炸裂した。私を特訓した時とは違う、容赦なしの殺傷の威力。

 跳躍は宙空で勢いを奪われ、Drの足元に落ちて煙を上げる。殺してはいないようだが、完全に白目を剥き、毛の焼けるヤな臭いが私のところまで漂ってきた。

 のし。竜の尻尾がダメ押しに、獣の乗っかり動きを封じた。


 Drが立てた人差し指に、フッと息を吹きかけた。

「吾輩の孫(・)には、指一本触れさせンよ」

「Dr……」

演出が過ぎるが助かった。そもそもお前が子ども達を連れて来たのが原因だ、というのは置いといて。連れて来たからにはちゃんと守る。その程度の良識はこの人も持ち合わせてくれている。

 恐怖の一瞬が過ぎ、絵里香と慎太郎は膝が砕けそうになるとともに、Drに畏敬の眼差しを向ける。

「ボンダンスさん……///」

おっと、絵里香の視線が……その、あーね、まーね。カッコよかったよね。

 うん……おとーさん、許しませんよ?



 この一幕に、色めき立ったのが『魔王』軍だ。

「Dr! 何をする!」

叫ぶのは“獣王”パチャンガ嬢。焦がされたモンスターは、魔獣団長である彼女の配下。それに人の子を庇って『魔王』軍の戦力を攻撃したのは、『魔王』への背信、明らかな裏切り行為である。

「気が違ったか!」

激高する獣王。しかしながら。


「いえ、いつものことでしょ」

「うむ。通常営業だ」


 魔女と魔剣士が言うのを聞いて、獣王はDrと同輩を交互に見る。

「そうか! Dr、いつもこんなもん!」

これを受けて奇人が高笑いする。それでいいのか『魔王』軍。それでいいのかDr.ボンダンス。

 “魔女”パソドブレが両手をメガホンにして叫ぶ。

「それでー? 今回はどういうつもりー?」

Drは金色の前髪をさらりと掻き上げて、

「我が最高傑作と魔剣士殿、ドッチが勝つか興味があル。今回はそんな感じー」

「わかったー」

それでいいのか『魔王』軍。ジルバはさすがに呆れ顔だ。

「そうダ、“魔女”殿。次の新作はどうすルー?」

「なるべくシリアル若いの、二つ予約―」

それで(以下略。



 で、えーと。ジルバとの戦闘と、子どもらと、Drと……どっから手をつければいいのかな、私は?

 魔剣士の沈黙をいいことに、私は絵里香と慎太郎を改めて睨んだ。

「今ので理解(わか)ったな? こんな戦場(ところ)まで来るなんて、考えなしにもほどがある」

「でも、姫のことが……」

「人様にご迷惑を掛けている!」

久々の“お父さん”の一喝に、二人はビクッと、それからシュンとした。

 私は呼吸を整え、絵里香と慎太郎を噛んで含めるように諭す。

「Drがいなければ、お前達は死んでいた。西九条さんも、お前達を守るのに手を取られるだろう。それに……」


「ジルバが情けを掛けてくれていなければ、私はもう負けている」


 私がそう言うと、ジルバは僅かに表情を変えた。

「『魔王』側にも“思い”がある。受け入れはできないが、受け止めるのが私の責任なのだと思う」

魔女、獣王も言葉を飲んで沈黙する。

 私は魔剣士を正面から見つめた。

「ジルバ。この子らは私の弱点だ。殺さないでくれ。頼む」

漆黒の騎士は、さっき私に殴られた顎を擦る。

「弱みに付け込むほど下衆ではない。邪魔立てせぬ限り捨て置く」

「感謝する……Dr!」

「ふム?」

「悪いが、子どもらを頼んだ!」

Dr.ボンダンスは鷹揚に頷いた。



 『魔王』軍の面々とDrに、礼を尽くした私に絵里香と慎太郎は居心地の悪そうに小さくなる。まあ、この子らも“思い”があってここまで来たのだ。これ以上責めるコトはあるまい……甘いか?

 魔女は全くの余所事のふうで、

「人間界(こっち)でも、親業ってのはタイヘンなのねー」

私の労苦を汲んでくれたのを、獣王が見上げる。

「パソドブレ、もうケッコンしないのか?」

「んー、するほどのオトコがいないって言うか、すぐ目移りしちゃうって言うか。そう言うアンタはどうなのさ?」

問い返されて獣王、チラッとどこか(・・・)を見て、

「パチャンガは強いオトコの仔を産みたい!」

「あー、うん。直球だけど直球じゃないのねえ」

だねえ。たぶんダイタンではなくピュアピュア発言だねえ。

 いや、魔界女子トークに耳傾けてる場合じゃねえって。


 と、二人を見た絵里香と慎太郎が話しているのも耳に届く。

「何かモ●ハンみたいなカッコの子いるねー」

「ぽいなー」

あー。あの爪牙や革やの生物由来(ナチュラル)な装備、どっかで見た感があると思ったら……だから、そんな場合じゃないのよ。

 私、魔法人形(オートマタ)。現在魔剣士と交戦中。うん!


 気合を入れて両頬を叩くと、マグカップで乾杯するような音がする。

「ジルバ、ゴメン待たせた」

「半分はこっちの(・・・・)身内(・・)のせいだ」

魔剣士も大剣の柄を握り直す。よし、仕切り直し。ラウンド2だ。


「ア。そうダ、人形姫」



 ……ワザとか?

「何? 取り込み中なんだけど?」

ジルバが剣の柄を握る手を緩めた。そう思ってみると、もしかしてジルバ、魔界の連中にイジられてない?

 私は嫌々Drを振り向く。創造主サマはどこまでもマイペース……だが。

「先刻から戦イぶりを見ていタが、どうも貴様、魔剣士殿に対して決め手に欠ける気がせんかネ?」

「……!」

そ、それ。さっきから、私が思ってたこと。


 一見互角に渡り合ってるふうな魔剣士と私。その実、こっちは大剣一発でオシマイなのに対し、奴を倒すのには5発10発ヒットしても足りなさそう。火力差が圧倒的に歴然としてる。

「どうしよう、Dr。確かに決め手がない」

「ふム、決め手……んン? “手”と言ったかネ?」

それは魔法人形の製作者が一番理解しているはず、だが。

「んー……そう言えバ、確か吾輩、新しい魔導兵装を考えテおく、そんな約束をしておらなかっタかナ……?」

これは……ここぞとばかり勿体ぶるDr。ということは、つまり……!


「あるのか? 『人形姫(わたし)』の新しい武器が」

「ククク……フハハ……フーハッハッハーア!」


 期待に身を乗り出すと、Drは三段笑いで応じた。

「無論! 吾輩を誰だと思っておル? “至高の頭脳”たる魔導工学の第一人者、“至宝の指”たる神に背きし芸術家(アルテイスト)、Dr.ボンダンス!」

はい、それ聞くの記憶を失くしてた時を含めて3回目です。

「こうして出向いタのは、可愛い娘(・)に新たな力を授けルために他ならン。この吾輩が、見物だけにワザワザこの埃っぽい戦場を訪れルとでも?」

「違いましたか」

「物見遊山は8割ほどダ」

「ほぼメインじゃないですか」

いや、そんなことより。

「“ある”んなら、ともかく渡してくれ!」

「ククク……まあ、そう慌てるではナイ」

いやそう仰いますけど。


 お宅の魔剣士さん、こっちを超ガン見なんですけど。



 と言って、ジルバに私の邪魔をする気はなさそう。彼、あえて敵をパワーアップさせてから叩き伏せたいタイプだ。けどこっちは余裕ないですよぉ。

「は、早くください、創造主サマ」

「フフ、何だ? もう我慢できンのカ」

「できません……ください、お願い……」

「フハハ、しょうのナイ奴め」

いや、何ぞこのプレイ?

 Drの指が、すっと私の鼻先を指した。

「奥の“手”は、既に貴様の“手”の中に在ル」

いい加減、私にはDrの言う意味を理解できる。

「新調した腕に、既に……?」

「左様。組み込んであル。『人形姫』、魔剣士(ヤツ)に掌(てのひら)を向けるのダ!」

言われるがまま、右手を開いてジルバに突きつける。相手は即座に大剣を防御に構える。次の瞬間――……


 かこん。

「うええ?」


 私に手のひらに、直径5センチの穴が開いた。何ぞコレ? 穴を通し、さすがにギョッとするジルバが見える。え、気持ち悪っ!

「コレぞ『人形姫』の新魔導兵装、“お嬢様砲(カノン)”ダ!」

「おじょうさまかのん」

魔剣士が唖然としている以上に、私がどうすればいいかわかんない。

「今ダ! 人形姫、“ですの”と叫ベ!」

「で……“ですの”?」

困惑募る私に、Drが有無を言わせず命ずる。

「術式を発動させる“呪文(キーワード)”ダ。考えるナ、言エ!」

うん……えーと、わかった←わかってない。



「で……“ですの”ォーっ!?」




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想、お聞かせいただけると励みになります♪ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。