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20.『人形』とSNS

挿絵(By みてみん)

 SNSに上げられた写真、公園を歩いている少女のジーンズスカートと黒パーカーは……絵里香と慎太郎が視線を寄越す。

「わ、私……?」

どう見ても、私が今着てる服だった。


[え、人形? これってマモノビト?]

[らしい。目撃情報結構ある]


 じょ、女児に変装していたつもりだったのだが。

「バレてたのか……」

「みたいねー。結構“いいね”ついてる」

他にもベンチで缶コーヒー飲んでるのを撮られていれば、

[人形たん発見! #マモノビト #人形たん]

[ブラック意外w]


「姫、もうハッシュタグできてる」

「うええ」


 書店で棚の本を取ろうと背伸びしてる写真もある。

[人形たん届かない! がんばれー!]

[かわええ(笑顔絵文字)]

絵里香がスマホから顔を上げ、ジト目で私を見た。

「……あざと」

「ね、狙ったワケではない」

本当に高い棚に手が届かなかったんだ。そもそも撮られているとは思っていない。と、続く1枚では、

[あ、届いた]

[え? 手首切れてね?]

[どゆこと?]


「姫、“空間転移”撮られてる、てか拡散されてる」

「私の必殺技……」


 迂闊だった、けど予想外だった。ほんの小一時間の散歩で、思いっ切り人目を引き、ネットを介して人目に晒されるとは。

「明日からどんな顔して外を歩けばいいんだ」

「笑えばいいと思うよ」

「やかましいわ」

だが……図らずも慎太郎の正しさが裏付けられた。私は思う以上にちょんバレかつ人の注目を集める存在らしい。

 ならば慎太郎の言う通り、イメージを壊さないよう立ち居振る舞いを意識するべきなのかも……



 そう考えつつ#人形たんをスクロールしていたタッチペンが、ひとつの書き込みに止まった。

[じゃあここで秘蔵の1枚]

それは会社のオフィスらしき場所で、コンビニ弁当を抱えている少女人形。

[ちょ、フ○ミマの大盛カルビ丼www]

[人形たん、ごはん食べるんですね]

[チョイス(笑)]

会社の、オフィスらしき場所。


「……部下(キタハマ)ェ……」


 スマホを絵里香の手に返し、スカートのポケットから自分のを取り出す。

「父さん、ちょっと電話一本掛けてくる」

「うん……」

パタン、後ろ手に閉められたドア。残された子ども達が顔を見合わせる。

「キタハマって人、コンプライアンス」

「社会人が姫に怒られんのかよ。凹むよな」



「安治川だ。何で電話したかわかるな?……そうだ。消せ。スマホからもだ……ん、深山部長に垢バレしたいのか……?」




 **********


 部屋に戻ると、絵里香と慎太郎が神妙に話し合っていた。久々に子ども達の前で見せた大人ムーブ、少しは私がお父さんであることを思い出してくれたかな?

「ね、慎。ベア子はキャラ作んなくたって、素で可愛いんだって」

「く……それが世界の選択か」

うん、思い出してくれてないな。弟を言い負かした絵里香が私を振り返る。

「けどそれってさあ」

悪戯っぽく光った娘の目が、

「おとーさんが素で可愛い、ってことになるのかなあ?」

「う、うええ?」

きゅうっと弧を描いて笑う。


 それはそれでヤだな、と思う私から、姉は弟に矛先を転じた。

「てかさ、無口キャラがそもそも安易って言うか、慎、ちょっと古くない?」

絵里香のダメ出しに、慎太郎がムッとして言い返す。

「何だよ、ねーちゃん。ウ○コチ○チンって知らねーの?」

「慎太郎、温故知新だ」

「慎もまだまだだなー」

歳で二つ、口では三歩。追いつけない差で16年、背は抜いても慎太郎、絵里香の前では自然上目遣いになる。

「じゃあ、ねーちゃんはどんなのがいーんだよ?」

「そうねえ」

絵里香は自然、心持ち顎を突き出す上から視線。


「まずベア子、私のことはご主人様(マスター)と呼びなさい」

「パパに対してどこから視線?」



 気づけば背丈は一番低い私だが、一応親のはずだぞ、確か。

 しかし娘はフフンと鼻を鳴らして、

「感情はさー、無いんじゃなくて抑えるのよ。違い理解(わか)る? ベア子は私の使い魔だから、メイドさんな感じをイメージするといいわ」

「私、お前の使い魔なの?」

「“空間転移”のスキル名が欲しいわね……そう……“不可侵(Unsicht)領域を(bare Be)弄ぶ手(rührung)”ってとこかしら」

「意味はわからんが、語感はドイツ語っぽい」

何か絵里香サンのスイッチがONになったっぽい。


 慎太郎がそっぽを向き、皮肉っぽく口の端を曲げる。

「出た中二病。気をつけろ、姫。“零式”使わされるぞ」

「“零式”……」

「オタクは好きだからな、“零式”」

弟の憎まれ口を、姉がジロリと睨む。

「何よ」

「何だよ。好きだろ」

「嫌いじゃないわよ」

「否定しねーのかよ」

「だいたい慎がセンスないから私が考えてあげてんじゃない」

「いーや、明らかねーちゃんのがセンスねえ」


 ああっ、私のために争わないで(棒読み)。


 慎太郎と絵里香が胸と胸を突き合わせた。

「じゃあ勝負だ。ねーちゃん、姫をオレとねーちゃんのキャラで連れ出す。評価がいっぱいついた方が勝ちだ」

「望むところよ」

望むとこらない。

「今度の土曜、オレが姫と出掛ける。ねーちゃんは日曜な」

「私に後手を与えたこと、後悔させてあげるわ?」

想いは届かない。

 子どもたちが楽しそうに言い争っている、私は蚊帳の外の当事者で、慎太郎のベッドにぽすんと尻を投げた。

「やれやれ」

また面倒そうなことに巻き込まれそうだ。『魔王』が出てからこちら、すっかり巻き込まれ体質が染みついてしまった。



 ……でも、まあ。


 この頃では、娘とも息子とも、遊びに出掛けることなかったからな。お父さん正直、ちょっと楽しみになってきています。

「ところで慎太郎、絵里香」

ベッドから声を掛けると、二人が振り向いた。

「私、思いッ切り顔出し写真無許可で上げられてるけど、その辺ってどうなんだろうな、SNSの規約的に?」

慎太郎と絵里香が顔を見合わせた。


「非実在青少年の肖像権問題……!」

「実在してんだ、こちとら」

「歩くコ○ックLO……!」

「言葉が過ぎるぞ?」


「脱法ロリ!」

「ロリオジ!」

「新しいカテゴリーを作るな。いや、既にあるのか……?」


 マモノビト――……実在する(・・・・)非現実的な(・・・・・)存在(・・)は、いろいろ宙ぶらりん。そう言や私って今、免許は持ってるけど車の運転していいの?

 いずれは戸籍の名前も変えなきゃならないのかな、ベアトリーチェ・アルカネット・ドロシーローズに……それもイヤだな。


 法的、人権、各種名義の問題とか。小学生も中高生も面白がっている今だけど、この混乱が治まってから、本格的な混乱が始まるんだろうなあ……




挿絵(By みてみん)

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