3 ダイとルカ1
紅白のテントの中で、ドラゴンが二匹眠っている。
その奥に簡素な木製のベッドが置いてあり、こげ茶色の髪の毛の男が眠っている。
ピエロがテントに入ってくると、ベッドの横にあるストーブに薪をくべ、どこからともなく鍋を取り出してストーブの上に置いた。
やがて、スープのいい香りが漂い始めた。
「うまそうな匂いがする、ここ、天国?」
こげ茶色の髪の男が目を開けて、ぼそっと言った。
「ルカの天国にはピエロがいるのか?」
「いない、つまり、ここは地獄だ。トイレ行きたいんだけど、どうすればいい?」
「外だ」
ピエロはテントの入り口を指さした。
ルカはベッドから這い出すと入り口の布をまくり、すぐ降ろして叫んだ。
「さむっ、無理、出た瞬間死ぬ」
「それ使うか」ダイは、ベッドの脇に転がっている尿瓶を指さした。
「…ねえねえ、これ何のプレイよ。ショータはこれ使ってんの?」
「寝ぼけていたから覚えてないかもしれないけれど、ルカはおとといからそれ使っているだろ。その中身、毎回、俺が捨てていたの。もう少し、感謝してもらえる?」
「いや、もう俺、起き上がれるから、気を使ってもらわなくていいから、ほんと」
「だから、外行け、簡易トイレ設置してるから」
「すごい寒い、お前、よく平気で外出てるよね」
「まあね。この服が暖かいからね」
ダイが着こんでいるのは、「常春スーツ/温度攻撃無効、防御力+33」というとても有用なアイテムだ。
これを着用していなければ、「青き炎」という二つ名を持つじいさんドラゴンが近くにブレスを吐いただけで、ダイは消し炭も残さず消滅していただろう。二匹のドラゴンが再開してから、そういう危険な場面が繁にあった。常春スーツなしでは生き抜くことはできなかった。
不満と言えば、スーツのデザインが赤と白の縦じまで、道頓堀の食い倒れ人形の服によく似ていることだけだ。
まあ、突き抜けた性能を持つ防具のデザインが恥ずかしいのはゲームあるあるだし、とダイは思った。
なお、ダイたちがいるテントは、「常春テント/温度が常に一定に保たれているテント、バリア機能付き」だ。どちらもばあさんが無駄にため込んでいたアイテムだ。
ダイは、素晴らしいアイテムを死蔵させないため、現在、アイテム整理に燃えている。
「ショータ、それ、もう一着ないの?」
「ない」
「俺、寒いなー。ちょっとだけ、それ、借りれない?」
「来た時、変な格好って、言っていたよね。ダーメ」
「その仮面は」
「これな。別に対温度効果があるわけじゃないけど、取れないんだ」
ダイはツチャビッチたちに顔を見られて、ライラの侍従だとばれると困ると思い、一時的にばあさんが持っていた「道化師の仮面」をかぶった。ところが、のろいで どうけしのかめんが からだから はずれない!
それ以降、ダイは、ずっと「道化師の仮面」をかぶってすごしている。
「寒さをしのぐ方法、ない?」
「だから、その尿瓶だろ」
「それが、ほら、お腹も痛くってさ」
「おまるもある、いや、汚いな。外行け」
「……寒すぎて無理。そうだ、千里靴返して。家帰りたい」
「質問に答えてくれれば、すぐに連れ帰ってやるよ」
「なに?何か俺に聞きたいことある?できるだけ手短にお願いします!」
「結婚すると言っていたのは本当?相手はだれ?
なぜ、自分で用意した結婚パーティに来なかった?
あと、ツチャビッチ・ミトロヒナとボリス・サハロフをばあさんのなわばりに連れて行ったのはお前?
なぜそんなことをした?どうやってなわばりに入り込んだ?
それから、「復讐」って、何をするつもりだった?」
「長いよ、っていうか、もう漏れる、やばい、やばい」
「尿瓶、使うか」
ルカは、脂汗を流しながら、涙目で言った。
「…お答え、します」
結局、ルカは、文句を言いながら外に出てトイレに行くと話し始めた。
結婚するつもりだった。相手は、幼馴染で、ドラゴンに追われて村に逃げ込んできた少女、ツチャビッチだ。
結婚パーティは、ツチャビッチとその仲間の男たちに監禁されてしまったため行けなかった。
アンのなわばりにツチャビッチとボリスを連れ込んだのは自分だ。方法は、千里靴と誓いの指輪を組み合わせて使った。
復讐については、当時の自分は、ドラゴンをおびき出して兵団に攻撃させてけがをさせることで、母や妹、そして村の仲間たちの仇を取りたいと思っていた。だが、正直、今となってはどうしてそうしたのかわからない。
「だって、お前とアンさんの会話を聞いた後、やっぱり俺が復讐するべき相手は彼女だ、ようやく思い出せた、と考えていたはずだった。
なのに、なぜ、彼女と一緒になって、村を襲撃していないアンさんに復讐しようと思ったのか、あの時は頭がぼうっとしていたとしか言えない」
「……魅了、されていた、からな」
いきなり、眠っていたじいさんが口を出した。
「じいさん、魅了、って、闇のスキルだよな」
「…そう。……魅了された生き物、は、通常と違う、変わった行動をとる、…から、危険。
そいつは、魅了されていた。…オーラの色に黒い部分ができるから、わかる。俺は、その黒い部分を焼いた」
「ありがとう、じいさん。
ルカ、お前、あの女にかけられていた魅了をじいさんが解呪してくれたみたいよ」
「え、つまり、俺、彼女に操られていたってこと?」
「かもね。あ、あと、丁度いいから紹介しておく。
こちらは、ばあさんの番さんで、ダイナの鉱山の青き炎というあだ名があるエンシェントドラゴンさん、ルカの村を襲撃したドラゴンさん本人です!
先日、この近くで凍えて倒れていたルカを掴み上げて、ここまで連れてきてくれたルカの命の恩人でもあります!
ルカ、なんか言いたいことあったら、今がチャンスだから言っちゃえよ!」
「あ、あの、始めまして?」
「……ふふふ、孫の友人か。いいだろう、…この偉大なドラゴンである我が、発言を許そう」
「あ、ありがとうございます?
いや、そうじゃなくて、ほんとにあのドラゴンなの、……10年前、あなたが俺の村を襲撃して、かわいい妹が、ほんと何も悪いことしていないのに、まだ3歳だったのに死んで、母もあなたから妹をかばおうとして、俺の目の前で死んで、何も悪いことしていない、優しい母で、俺の友達もたくさん死にました
村は焼け野原になって、収穫の見込みもなくなって、俺たちは村を捨ててダウリポリに移住して必死で働きました。
父は、あなたの襲撃の際に怪我をして、今も足が動かなくて…。
俺たちは、すごい辛くて、すごい苦労して、あなたが来なければ、そんな目にあわなかったのに。
恨んでいます。許せない、死んでほしい。せめて詫びてほしい」
「……?」
「じいさん、ほら、10年前に、じいさん、けがをしたから、ばあさんが心配していたんだけど、その時、人間にやられただろ。
で、人間にやられる前に、村を襲撃したのは覚えているか?」
「……怪我、我が愛しの嫁殿が心配してくれた。……今も少し痛いから、眠って治している。
…この怪我をする前、…人間がなわばりに来て、うるさいから追いかけた。
……追いかけるうち、村、壊した、かもしれない、が、……興奮していたからよくわからない」
「覚えてもいないのかよ!そんなことのために、俺は、俺の母ちゃんは、妹も、家族も、友達も!」
ルカは泣き出した。
ダイは何も言わなかった。
「……ごめん、俺出直すわ」
「千里靴、返してもらったから。送っていくわ。実家でいいね」
ダイは、ルカを実家に送り届け、また帰ってきた。
じいさんドラゴンは、また眠っていた。




