2 婚約解消ですわ!
2022.09.25 最後のダイの発言の順番を変えました。
「これ以降、参集した者の退出を認めます。
次は、王の裁定です。
一件目の案件は、王家の名のもとに結んだ婚約の撤回です。
王家及びオルロー公爵家の当主及びその付添者は前にでなさい」
宰相の呼び出しに応じて、おじいさまと私が壇上に上がると、居合わせた貴族たちがざわめき、退出しようとしていた人たちも歩を止めた。
「王家の第三王子、イヴァン及びオルロー公爵家の長女ライラ・オルロヴァの間の婚約を撤回する。
両家ともよろしいか?」
両家の当主が了解し、婚約撤回の書面にサインして、私とイヴァン殿下との婚約はなかったことになった。
そのまま、王がおっしゃった。
「今回の婚約撤回は、ひとえにイヴァンの不徳のいたすところである。
ライラ・オルロヴァ公爵令嬢になんら瑕疵はない。
本来なら、イヴァンもここに立ち会わせるべきであったが、イヴァンは国の宝を毀損したため謹慎を申し付けている。
オルロヴァ公爵令嬢の今後の活躍と幸運を祈念する。
次に、ピョートルをここに」
壇の端に控えていたピョートル殿下が進み出た。
ただ、かつらでもかぶっているのか胸まである長髪を片三つ編みにして、銀縁の眼鏡をかけ、フォーマルなフロックコートをお召しになっているので、レオニード先生とはまるで別人のようだ。
「お召しに応じ参上しました」
ピョートル殿下が壇上で王への礼をとると、陛下が宣言された。
「来年、立太子の儀式を行う。心して準備するように」
「謹んで承ります」
貴族たちは異様な静けさで壇上を見つめている。
宰相が本日の裁定の終了を宣言し、王が退出した。
私たちも壇上から降りようとした時、私が少しふらついてしまい、前を歩いていたピョートル殿下がさっと手を出して支えてくださった。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、社交界の華にたとえられる美姫、オルロヴァ公爵令嬢を助けることができて光栄ですよ。
……昨日の話、考えてくれたかい?」
ピョートル殿下は、よくある社交辞令を口にした後、私の耳元でこっそりとささやいた。
私たちが寄り添う姿を見て、広間にひときわ大きなざわめきが広がった。
おじいさまと一緒にコテージに戻り、軽くお昼をいただく。
「まったく、私の目の前でライラにちょっかいをかけるとは、やつはなかなか大胆不敵じゃないか」
おじいさまはにこやかにおっしゃったが、少し怒っていらっしゃるのがわかる。
「ごめんなさい、ちょっと緊張していたみたい」
私は、ふらついたことを詫びた。
「ライラ、気にしなくていい。
話がなかなかまとまらなくて、ちゃんと説明する機会が取れなかったからね。びっくりしただろう。
司法卿の娘が【正義の女神の法具】スキルを授かったことを神の思し召しと考えた連中が一気にこちらについたのでね、女性も当主になれることになった。
まあ、他の国では当たり前の話だからね。
本当は、もう少し時間がかかるだろうと思っていたのだが。
ただ、これは承継権の範囲にもかかわる問題だから、そこらへんはこれからもう少し行政部が詰めていくだろう。
婚約解消は、第三王子が国宝を使ったので、こんな婿が来るとオルロー家の聖遺物の管理もままならないと言うと、あっという間に整った。
王家は、水星の杖を軽々と使われて壊されると、いざという時に自分たちに使ってもらえなくなるとでも考えたのだろう。
いきなり、我が家の宝が増えた時はどうしたものかと思ったが、まあ、悪いことがあれば、いいことがある、さ。
さあ、ライラ、王妃と女公爵、どちらになりたいかね」
「王妃、ですか?」
「ああ、第一王子は国内の貴族の支持基盤がない。
私は国内政治にあまり興味がないから詳しくは知らないが、今まで婚約者を決めていないのは、そういった理由だろう。
オルロー公爵が支持していると周囲が考えれば、今後、新しい支持者も出てくるだろう。
ライラが、やつを憎からず思うなら、王妃も悪くない選択肢だ。
だが、オルローは、誰が王でも同じだ。
常に王に敬意を払い、アルテリア王国のために力を尽くす。それはだれが王であろうと変わらない」
「それは、以前お話を伺ったオルロー家の覚悟に関係するお話でしょうか」
「ほう。覚悟、そうだな、ライラはどう思う?」
「オルロー家は、アルテリア王国の創設王の弟を始祖とし、その後。両家が交わったことはありませんが、王位承継権を保持しています。
その権は、王家の在り方を正し、アルテリア王国のためにつかうためにある。私たちはその力を行使する覚悟を引き継いでいる。だから、私が王家に嫁ぐ時は、オルロー家のバックアップを期待することはできないと思っています」
「……やはり、ライラは賢い子だね。
お前のお父さんには、いくら伝えようとしてもなかなか理解できないようだ。
だから、いつまでも私が、こうやって当主を務めている。
第一王子は、オルローの役割をまだ知らされていなかったようだ。
王は、独自派の第三王子を立太子させようという意向を無視できずに、だらだらとひっぱっていたが、国宝毀損事件が起こって、第一王子を立太子することを決意したのだろう。
第一王子は、浮ついて、私のライラに近づいてきたようだが、今後、オルローの役割について真実を知れば目が覚めるだろうさ。
さて、ライラ、オルローの覚悟の意味を知り、それでも覚悟を決めることはできそうかね。
私も、もういい歳だ。そろそろ引退して、お前のおばあさまとのんびり暮らしたいよ」
私は、レオニード先生が考え込んでいた姿を思い出して、少し残念な気持ちになった。
彼は、私の「困っているから、進路の相談に乗ってほしい」というお願いに答えるために真剣に考えてプロポーズしてくださったのだろう。
そこに愛はなかったようだけれど、少なくとも、私を助けようという思いやりは感じられる。優しい人なのだろう。
教師という立場を気にして生徒へのプロポーズを言いにくそうにしていたことも、責任感のある人だと思う。
なんといってもイケメンだし。
ま、彼のプロポーズからは、かけらも愛は感じられませんでしたけれど。
もちろん、悔しくなんかありませんわ。
私がおじいさまに答えを言う前に、ダイが食堂に入って来た。
おじいさまが盗聴防止の魔道具を操作して、ダイも会話に参加できるように設定しながらおっしゃった。
「ああ、療養地開発の件で、彼が戻ったら入室させるように命じていたのさ。
やあ、ダイ、おかえり。森の貴婦人はお元気だったかね」
「失礼いたします。お休みをいただいていたため、参上が遅くなり申し訳ありません。
公爵に報告すべきことがございます。
森の貴婦人のになわばりに何者かが侵入しました。
また、森の貴婦人の件に関係があるのかわかりませんが、貴婦人の家に一緒に行ったことがある私の友人が行方不明になっています」




