3 お友達が増えました
昼食後、コテージ宛にお手紙をたくさんいただいていたので、そちらを確認する。
あったこともない人からの挨拶状やあまり親しくない人からのお茶会の誘いなどばかりだ。
水星の杖関係の噂を確認することが目的だろう。
王妃様からもお茶会の誘いが届いていた。
もう王子妃教育は終わっている上、イヴァン殿下との婚約を解消する方向でおじいさまにお願いしている状況なので、お茶会に参加するかどうかはおじいさまに相談して決めたほうがいいだろう。
一応、すべておじいさまにお目通しいただくことにし、名前と内容、対応案をリストアップしておく。
リストを作成しつつ、しみじみと思う。
あらかじめ罫線が引いてあるノート、表を書くには便利だったわね。
ゲームの世界だけあって、主人公がデートイベントで食べた鯛焼きや、いじめにあった際に破られる教科書などは販売されている。
ただ、商品製造の背景には一定の技術がある。
教科書を印刷して販売できるなら、製紙や印刷技術が普及しているはずなので、罫線を引いたノートも販売できるだろうに、売っているノートは単に白い紙を綴じたものしかない。
こういった前世の便利な品を商品化すると売れそうな気がするけれど、アイデアは盗用されれば終わりだ。
ダイをオルロー家のタウンハウスにお使いにやって、私は王立図書館に行く。
本棚の高いところにダンジョン関係の本をあったので、取ろうとしていると、いつのまにか後ろにいたナザール・アウロフ様が私の頭の上に手を伸ばして取ってくださった。
「はい、これでよろしかったでしょうか?
ダンジョン関係の本とは、なかなか渋いですね」
私はアウロフ様が生徒会長だったことを思い出して言った。
「ありがとうございます、私、王宮の地下ダンジョンについて知りたいと思っていますの」
「おや、僕は3月のイベントを王宮ダンジョンでやっていましたから、王宮ダンジョンのことはくわしいですよ。
なんなら、聞いてみてください」
そこで、私は3月のイベントのことを聞いた。
王子妃教育でイベントには参加できなかったからだ。
「3月には、主に新入生や編入生向けのダンジョンについて学んでもらう遠足をしています。
王宮ダンジョンは、知ってのとおり、魔素が浄化されるという特殊なダンジョンですが、内部は古代遺跡のような感じで、ダンジョンの雰囲気は味わえますからね。
あと、先生方にお願いして、弱い魔物を捕まえて入れておいてもらって、パーティで魔物を倒す練習もやりました。
自由参加ですが、半数程度の人が参加してくれました」
「スタンピードみたいな事件はなかったのでしょうか」
アウロフ様は笑った。
「スタンピードは、ダンジョン内で魔素濃度が高くなったために多数の魔物が発生して生じる現象です。
王宮ダンジョンでは、魔素濃度が高くなることはあり得ませんから、理論的にはスタンピードが起こることはないと思いますよ」
「言われてみれば、そうね。
ごめんなさい、少し心配になったものだから」
私は、またゲームと現実との違いを見つけた。どういうことかしら。
考え込んでいるとアウロフ様がおっしゃった。
「ふふ、オルロヴァ様はやっぱり面白い方ですね。
ライラ様とお呼びしてもいいですか。ぼくのことは、ナザールとでも呼んでください」
「え、それってどういうことかしら」
「警戒させてしまったかな。たんに、あなたと友達になりたいと思いまして。
僕だけじゃなく、生徒会のメンバーはみなそう思っていますよ、ほら」
アウロフ様が指さしたほうを見ると、アウロフ様の侍従と一緒に几帳面そうな眼鏡をかけた男性が私のほうに近づいてきていた。
「実は、さっきあなたを見かけて、あわてて呼びに行かせておりました。
彼は、生徒会で会計主任を務めてくれている、ニコライ・ドミニエフ子爵令息です。
あなたに会ってお礼を言いたいそうですよ」
男性は私の前に来て、上位者への礼をとると言った。
「先日はありがとうございました。
覚えていらっしゃらないかもしれませんが、ボリスに切られて死にかけていた者です。
ライラ・オルロヴァ公爵令嬢のおかげで、こうやって生きています」
「まあ、そういえば。体調はいかがですか」
「俺は、いや、私はそこそこ回復しています。
自分の連れは、傷が重かったようで、ちょっとへばっていますが、生き延びることができたのはオルロヴァ様のおかげだったと感謝しています。
お嫌じゃなかったら、こんど連れにも会ってやってください。
あなたのファンになったみたいで、私だけ会ったと言うと怒られそうだ」
「まあ、あのきれいな剣士さんね。ぜひお会いしたいわ」
私は、前衛の凛々しい少女を思い出して言った。
「あと、私のことは、ライラでいいわ。
今、ナザール様から、お友達になりましょうと誘っていただいたところですの」
「そう、僕の口説きのテクも捨てたものではないね」
ナザール様が冗談をおっしゃった。
それから私たちは、闘技大会の話やお互いのことを少し話し合った。
どうも、ニコライ様と少女は幼馴染でお互い思いあっていたらしいのだが、少女の婚約が決まっていた。
しかし、今回の件で彼女はキズモノになったと言われて婚約解消された。
そこでニコライ様がさっさとプロポーズして結婚することになったそうだ。
「俺は、貧乏子爵の三男坊だからと遠慮していたけれど、いったん死にかけて吹っ切れた。
もうすぐ卒業だけど、彼女を大事にして仲良くやっていくよ」
ニコライ様は話すうちにくだけた口調になって来た。
それから、私たちは少し話をして別れた。
ナザール様によるとイヴァン殿下は王宮の宝物庫から国宝アイテムを持ち出して使ったことで、謹慎処分になったらしい。
あら、もしかして、断罪を免れる可能性がさらに上がったのかしら。
あと、ニコライ様の幼馴染さんの体調が心配だわ。
スビートに癒してもらいたいけれど、また問題になりそう。
やっぱり、さっさと温泉を見つけて湯治場を開いてご招待したい。




