2 温泉構想
「おじいさま、昨日からの問い合わせとは、どういったものですか」
「いきなり大量に金品を送り付けて、茶会だの食事会だのの手紙を送り付けてきたりといった感じだな。
あと、被害者の家族から、書状が来て、面会を求められている。
最初は何があったのかわからなかった。
たまたま、うちの派閥の伯爵が面会を求めに来て、自分の娘の体調が悪いので助けてくれと地に頭をこすりつけんばかりにして頼まれた。
事情を聴いてみたら、うちに水星の杖なる、死にかけた者をも癒す聖遺物があるというじゃないか。
とりあえず、その伯爵は腹芸を使える奴だから、水星の杖は、最近ライラが手に入れたもので、1回使うと時間をおかないと再使用できないが、再使用できるようになればお前の娘に優先的に使ってやると説明して、その伯爵に連絡があった者たちの状況を探らせている。
最悪、そのようなアーティファクトがなくても、聖獣様がその娘を憐れんでくだされば、どうにかなるからな」
おじいさま、さすが、黒いですわね。
「これから、どうすべきでしょうか」
「ああ、通常のアーティファクトなら、持っていると知られてもたいした問題はない。
だが、今回は、命に関する奇跡の力が込められたアーティファクトだ。
死にそうな者や、その家族にとっては、少しでも希望が示されたのに、その希望を奪われたら、決して納得しないだろう。
噂を打ち消せば疑われ、断れば恨みをかう。
難しいな」
「考えが足りず申し訳ありません。
現状を前提にすると、噂を打ち消すだけではだめ、救命を断ることもだめ、ということですね」
「そうだな、皆必死だからな」
「例えば、私が貸したアイテムは体力回復効果はあるけど、それほど大した効果ではなく、学生たちは大きなけがをしたわけではなかったから助かった、という噂を流すのではどうでしょうか」
「ふむ、一応、噂は落ち着きそうだが、デメリットはどんなものがあるかな?」
「そうですね。
噂が完全になくなるわけではないので、何かを隠していると疑われる可能性があること、あと、イヴァン殿下をかばうような形になってしまうことでしょうか」
「ふむ、そうだな」
その時、事情説明後、ひたすら黙っていたダイが言った。
「隠された救済の道を作るのはどうでしょうか。
こうなったら、森の貴婦人や聖獣様のお力を借り、なんらかのハードルを設定した上で、ハードルを超えれば奇跡の恩恵にあずかることができるという方法を示すのです」
「ほう、例えば」
「そうですね、まず、今回のことについては、アンドレ先生に頼み、大したケガではなかった、こちらがお貸ししたのは先生のスキルの効果を多少上げるありふれた魔道具だったと説明します。
ただ、それだけでは、疑う者もでてきます。
ですから、一方で、オルロー領で体力回復の奇跡の温泉が発掘された、使ったアイテムはその温泉の水だった、という噂を流すのです。
そして、温泉を湯治場兼観光地として開発し、大々的に売り出し、そこで一部の人を対象に、たまに奇跡を起こすのです。
奇跡の対象者は、宣伝効果やオルロー領への貢献度などに基づいてこちらで選定します。
まあ、水星の杖は、使用者を選ぶので、奇跡を起こす部分はアンドレ先生のご了解及び協力をいただかないと無理ですがね」
「ふむ、二重に嘘をついておけば、一つ目の噓を見破った者は二つ目が真実だと思い込むということか。
うまくやれば、オルロー領に新しい産業を興すことができるな。
そういえば、例の神官、というか保健医は、ちょうど今年で学園への派遣が終わるのだが、オルロー領の教会での勤務を希望しているらしく、空きがあるか問い合わせがあったようだ。
ライラを守りたいと言っているらしいが、どうしたものだろうね。
水星の杖を使える者が限定されているのであれば、オルロー公爵家の使用人にして責任を取らせるのも手だな」
私は、ダイは温泉に入りたいだけではと疑いつつも、いいアイデアなので聞いてみた。
「温泉にあてはあるの?
奇跡とまでと言う以上、普通の水を温めただけのお風呂だとお客様が許してくれないわよ」
この世界では、お風呂はあまり一般的ではない。
実は、特に男性は、結構臭い。みんな体臭はあるのが当たり前だと思っている。
ゲームでは、攻略対象のにおいについて言及はなかったけれど、あのシーンもこのシーンも彼らは臭かったのかと気が付くと、思い出が汚されるようで悲しくなる。
もちろん、私は、大きなたらいにお湯を沸かしてもらって、洗い場で体を拭いたり洗ったりして気を使っている。女子寮もそんな感じらしい。体臭をごまかすために香水を使っている人もいる。
そんなわけで、前世を思い出してから、お風呂や温泉を懐かしく感じていた。
お湯につかって体を温めるだけでも体によさそうだし、少なくとも衛生面では効果がある。
だから、湯治場を作るというのはいいアイデアだし、奇跡が起こるとなれば、慣れていない人でも入浴にチャレンジしそうだ。
ただ、奇跡を起こすと嘘をつくからには、ちゃんと舞台を整えないと炎上してしまう。
「温泉については、私に腹案があります。
森の貴婦人は、体内で高濃度の魔素を生成しています。
ですので、彼女がトイレとして使用している穴周辺は凄まじい魔素が溜まっています。
森の貴婦人の勢力下ですので、今のところ魔獣が湧くことはありませんが、何かに使えないかと思っていました。
この穴周辺に水路を通して水を流し、その伏流水を掘り当てて、出てくる高濃度魔素水を温めれば、あっという間にヨウ化水素の療養泉の出来上がりです!」
「汚いわね、森の貴婦人、というかダイが言うばあさんってどのようなお方なのかしら」
「エンシェントドラゴンです。神が天地創造する際にうっかり生み出してしまった古代生物です」
エンシェントドラゴンをばあさんと呼ぶなーと私は内心突っ込みながら、言った。
「方向性はおもしろいけれど、魔素って体にいいのかしら」
「魔素含有物を食べると力が湧いてくるような気がしますので大丈夫です!
たまにアンドレ先生が奇跡を起こしてくだされば、観光客はプラシーボ効果も相まって、みな満足して帰っていきますよ」
「プラシーボコウカ?」
おじいさまが怪訝そうな顔をしたが、ダイは気付かず、お座敷でビールを出せだの、昼寝できる場所を設けろだの、混浴もありだの、自分の妄想をしゃべり続けた。
うん、間違いない。
ダイは、オルロー公爵家の財力と権力を利用して温泉作って入りたいだけだわ。
温泉、いいなー、行きたい。
2022.08.18
二重になっていた個所を修正しました。
保険医→保健医に修正しました。ご指摘ありがとうございます。
これより前のところも、ぼちぼち修正していきます。




