2 そのスキルでよかったの?
ちょうど、Fグループの会場近くまで来た時だ。
イヴァン殿下とボリス・サハロフ様のチームが対戦を始めていた。
まず、ボリス様が雄叫びを上げながら相手チームに突っ込んでいった。
相手チームの前衛はシールドスキル持ちらしく、右手に剣を構え、左手に火属性のシールドを展開し、その後ろでもう一人が魔法の詠唱を始めていた。
ところが、突っ込んでいくボリス様が左手を上にあげると、指輪がきらりと光り、シールドが消えた。
前衛の人は焦りつつも、右手の剣でボリス様の剣を受け流した。
そこに、ボリス様の後ろを走っていたイヴァン様が横から回り込み、前衛の人の背後から【雷】スキルで殴り掛かった。
前衛の人は、静電気程度とはいえビリっとしたようで固まっていると、ボリス様がそのまま【剣の兵】スキルを使い、剣で前方をなぎはらった。
相手チームの人は二人とも倒れたが、イヴァン殿下は何らかの方法で剣戟を避けたようで立っている。
審判の先生が試合終了を宣言し、イヴァン殿下とボリス様は喜びの声を上げたが、相手チームが起き上がってこないため先生は急いで様子を見て、救急班を呼んだ。
先生が相手チームの後衛の女性の体を持ち上げると、ダバッという嫌な音がして、服に溜まっていた血が闘技場に広がった。
会場が静まり返った。
「アンドレ先生をここに呼んで、すぐ!」先生が叫んでいる。
会場にいたミトロヒナ嬢のところに行って話していたイヴァン殿下が遠くから言った。
「先生、俺らが勝ちでいいですよね。早く勝者の宣言をお願いします」
「しょ、勝者、イヴァン、ボリス・サハロフ!」
「やった」二人は、喜びながら、ミトロヒナ嬢を連れてさっさと会場を去った。
動かすな、とか、すぐ止血だ、とか誰かが叫んでいる。
「ダイ、大変だわ。スビートを呼んできてはどうかしら。あの子、もう回復スキルを取得しているのかしら」
私は、あまりの恐ろしい出来事に、半泣きで言った。
ちょうどそこにアンドレ先生がやってきて、【水の癒し】スキルを使うと、傷が洗い流されて血が止まり、また茶色かった二人の顔がまっしろではあるが、まだ生きている感じになった。
「ライラ様!」アンドレ先生が呼んだ。
「はい!」
「この子たちの手を握って、ちゃんと生きろって、がんばれって、応援してあげて!」
私は必死で二人の手を握って言った。
「お願い、がんばって、今、先生が助けてくれるから!大丈夫よ、もう少しだから、ちゃんと助けるから!」
そして、私はダイに言った。
「スビートは?」
「お嬢様、しょうがないですね」
アンドレ先生が生徒会役員に搬送の指示を終えたタイミングで、ダイが先生を少し離れたところに連れ出し何かをささやいた。
アンドレ先生は、青ざめた顔でこちらに戻ってくると、生徒会の役員たちと一緒に救護テントに入った。
私も応援役として同行している。
「生徒会は、学園長に連絡して、この子たちの家族と連絡を取ってもらってちょうだい。
あと、ライラ様以外の人は外に出て、待っていて」
人がいなくなると、先生は言った。
「ライラちゃん、先ほどダイさんから聞いた話は本当なの?
オルロー家の家宝であるアイテム「水星の杖」を貸していただけるのかしら、あたし、感謝するわ。
もう、この子たちの命を助ける方法は、それぐらいしか思いつかないわ」
なるほど、スビートの存在がばれないように嘘を言ったのね。
私はにっこり笑って言った。
「もちろんです。同じ学び舎で学んだ人達をむざむざと見殺しにすることはできません」
ダイがテントの中に走りこんできて、先生に鈍く光る杖を渡した。杖は二本の蛇が巻き付いている彫刻がある。
「使いこなせるかは、先生次第です」
「わかったわ、やってみる」
アンドレ先生は、緊張した顔立ちで杖を前に構えると、祈りをささげた。
テントの中に金色の光が満ちた。
前衛の人がゴフッっとむせたが、その後は呼吸音が聞こえるようになった。
後衛の人も、顔色がよくなっている。
アンドレ先生は慌てて二人の脈をとり、始めて涙を流していった。
「よ、よかった。助かりそう」
その時、外から生徒会役員や、怪我人たちの友人らしき人達が救護テントの中に走りこんできた。
「先生、二人はどんな具合ですか」
「こら、まだ、静かにして。そうね、多分大丈夫よ。ここで、様子を見ていてあげて。
目が覚めたら、私を呼んでちょうだい。ライラ様、少しお話があります」
私たちは救護テントの外に出た。たくさんの人がテントの周りに集まっていた。
先生は、そういう人を避けて、少し離れた場所に行き言った。
「ライラちゃん、ありがとう」先生は、杖を私に渡した。
これは、ダイのものなのだけれど、と思いつつ、受け取る。
そういえば、この杖の名前は、確か、先生が覚醒後に取得するはずだったスキル名と一緒だ。私は少し気になっていたことを聞いてみた。
「いえ、大したことではありません。
先生、もしこの杖の様な効果があるスキルを取得できたら、よかったと思いますか?」




