余 ダイの休日4
前々々話から続くダイの話です。
ダイは思い出していた。
終電で寝過ごして知らない駅のホームで眠り、目が覚めると森の中にポツンとプラットホームがあるだけで、線路の前後は草や木が生い茂っていた。
しかも、幼児の体になっている。
文字通り、前にも後ろにも行けない状態で立ち尽くしていた時、遠くに白いドラゴンが見えた。
その白いドラゴンに見覚えがあった。
アル戦のチュートリアルの最後に登場する最強な敵で、かかっていっても必ず負ける、いわゆる負けゲーの相手だ。
ゲームのストーリーでは、自分の後ろにある道に沿って逃げることを選択するとムービーが始まり、主人公は村にたどり着いてドラゴンの接近を告げ、騎士団や村の自警団が戦う。
チュートリアルで仲良くなった子供に危害が及んだことで、主人公が聖なるスキルに目覚めてドラゴンを倒すことに成功する。
だが、村は焼け野原になっていたし、アル戦の本編で、その子供は出てこない。
だから、俺は、自分の後のけもの道に逃げることを選べなかった。
実は、俺はアル戦のゲームでも、チュートリアルで逃げないことを選択したことがある。
逃げますかという選択肢が出るたびに、3回「逃げない」を選択すると、アル戦ではドラゴンと戦うことになる。
だが、ろくな装備もなく、スキルも備わっていない状態で、ドラゴンに勝てるわけがない。
ドラゴンに殺され、しかも復活もなく、ゲームの進行をまだセーブする前だったから、ゲームアプリを消してダウンロードするところからやり直した。
俺は道の反対側、森の奥だと思われる方向にひたすら逃げ、ドラゴンが見えなくなると木に登って眠ったり、木の実をかじったりした。
幸い、ばあさんは面倒事が嫌いなたちで、俺に話しかけてくれた上、食べ物をくれたり寝床を用意したりしてくれ、異世界から来たと言う説明を信じて、こちらの世界で生きていけるように訓練してくれた。さらに最後はオルロー領の城近くまで送ってくれた。
だから、俺は、オルロー公爵に助けを求めることができたし、そのまま召し抱えてもらうことができた。
「最初に会ったドラゴンがばあさんでよかったよ。
ばあさんの旦那さんが相手なら、そんなふざけた態度していたら、俺は死んでいたかもしれないな」
ばあさんは、あの人も優しいところがあるとかなんとかむにゃむにゃ言ってから、聞いてきた。
「で、今回は、何を悩んでいるのさ」
「そうだな、この世界の主人公はだれかってことかな」
「人間はー、みんなー、自分の人生の主人公です!」
ルカは完全に酔った様子で、どこかの意識高い系みたいな紋切り型の「いいこと」を叫ぶと、そのまま倒れて寝てしまった。
「こいつ、このままここで寝かせておこうか」
「そのうち起きるだろ。あんたが前言っていたゲームの主人公の話かい?」
「そう、ツチャビッチ・ミトロヒナという女が、おそらく旦那さんの巣に紛れ込んだ人間だ。
ただ、聖なるスキルが発現したかどうかはわからない。
ゲームではドラゴンは討伐されていたけど、旦那さんが生き延びている以上、おそらく発現していないと思う。
だが、どういう手段を使ったのか、あの女は、アルテリア学園の9年生に編入し、3馬鹿攻略対象を攻略している。だから、あの女が主人公なのだと思っていた。
俺には聖なるスキルは発現していない。
聖なるスキル持ちが主人公だとすれば、あの女である可能性が一番高い。
ただ、不思議なのは、お嬢様が攻略対象に関与したことで、その攻略対象が覚醒した。
しかも、ゲームよりもいいスキルを取得していた。ということは、お嬢様が主人公なのだろうか。
だが、ライラ・オルロヴァ公爵令嬢はあくまでもキャラクターだし、、、」
「難しく考えるね。主人公というのは、いったいどういうものなのか、わからないのに議論しても無駄だろ?
私から見れば、転移だアイテムボックスだとよくわからないスキル持ちで、さらに訓練中に人間が通常取得できないスキルを取得したあんたは、物語に出てくる主人公みたいに感じるし、ついでに言えば、私が主人公じゃない世界があるなんて理解できないね。
ゲームの主人公なら、「ご都合主義な強制力」のおかげですべてがうまくいくとか、あんたは前言っていたね。
だけどここは現実の世界で、みんな、自分の立場から様々なことを考えて行動しているし、攻撃されたらやり返そうとするやつもいれば、面倒だからと関わらないことを選ぶやつもいる。
ご都合主義な強制力、がどこまで効力があるか、わからないよ。
そこに転がっている少年が言っていた通り、みんなが自分の人生の主人公じゃないのかい。
たまたま、あんたは、その「攻略対象」が取得する可能性が高いスキルを知っていた。
だけど、その人は、主人公として自分で違う道を選んだから、違うスキルを取得したんだろ」
「そうかもしれないな。
強制力がある一方で、ここに生きている人間たちは、それに抗う力を持っている。
あと、もう一つ聞きたいことがあって。
『猫にヴァイオリン、牛は月を飛び越える。それを見ていた子犬は大笑いさ。そして、逃げ出したお皿とスプーンを捕まえよう』って、どういう意味か分かる?」
「おや、それは、神官が使うスキル判定の呪文だね。
それは、こういう話があるのさ。
昔、神がもう少しこの世界に興味を持っていたころ、人間代表が神にささげものをして、自分たちは弱いから魔獣などと戦う方法を与えてほしいと乞い願ったのさ。
そこで神は、人間代表に試練を与えた。
自分の皿とスプーンを天から投げて、拾った者にスキルを与えると言ったのさ。
生まれつきいい当初スキルを持っている子供が生まれたら、銀のスプーンをくわえて生まれてきたというだろ、そういうことさ。
その時、空に輝いていた二つの星が消えたから、スキルは、人間の中に隠れている星の力が発現したものだという説もあるね」
「猫とヴァイオリン、牝牛と月、笑う仔犬は?」
「そうだね、空を見てごらん。
ちょうど今、北の空に聖獣座と竪琴座が出ていて、天空に牛座が、南の空の下のほうには狼座がちょうど上を向いた形でかかっている。
人間代表が神に祈ったのは、ちょうど今の季節の満月の日だった。
多分、スキルの判定をする時に、人間代表が神からスキルを授かった時の天の状況を再現することで判定を受ける者の幸運を祈っているのだろう。
人間のやることはよくわからないけどね」
森の中なので、星は、木の陰に隠れており、天空にある牛座しか見えない。
俺は牛座をじっと見つめた。
星が動いていることが感じられるぐらい長い時間、俺はそうしていた。
ばあさんは横で焚火を見ながら、ブランデーをなめていた。
ルカは草の上で眠っている。そろそろ風邪をひくかもしれない。
ああ、こういう休暇があるから、毎日の仕事を続けることができるってこと、あるよな。
その頃のライラ
スビートと一緒に眠っています。




