3 スキル実践講義中級
アンドレ先生は、ちょうど通りかかったマリに言った。
「ちょっとライラ様のお願いを聞いて、それから、この木刀を振ってみてほしいの」
「あ、はい、いいよ、でございますよ」
私に気が付いたマリが慌てて敬語らしきものを使い始めた。
え、どうしよう、ダイ以外の人にバフをかけさせられるとか、考えてなかった。
私は、どう対応するか考えようとしたが、何も思いつかない。
『嘘に対する予想外のリアクションがあったときに、うまくごまかす方法』は、「職場の人間関係に疲れたとき読む本」に載っていなかったわ。
私が困っていると、ダイが先生の背後から口パクで《やれ》と合図しているのに気が付いた。
私がお願いを言いかけるとダイに制止された。
「お嬢様、先に私のお願いを解除していただかないと効きませんよ」
そうでしたわ。対象は一人、という設定でしたわね。
「ダイ、もういいわ。次に、マリ、私を守って」
「うん、じゃなくて、はい。
ええっと、あとは、この棒を振ればいいの、でございましょうか?」
「じゃあ、かわいいメイドさん、私のほうに向けて打ち込んでちょうだい。
こう見えても鍛えているから大丈夫よ」
アンドレ先生は筋肉を見せびらかすような構えで、木刀を受ける態勢をとった。
「はいでございまーす」
マリは、きょとんとしたまま、片手で木刀を握ると、予備動作なしで踏み込んでアンドレ先生の左下から上に向かって切り上げた。
アンドレ先生は、受け止めきれずに白衣の裾をひらめかせながら吹っ飛んだ。
「せ、先生」私はかけよってアンドレ先生を介抱した
「やばあ、あたし、やりすぎた?え、ダイさん、なんかまずかったですか?」
「いや、大丈夫。ありがとう」
「マリ、ありがとう。もういいわ」
ダイは、アイテムボックスから金属のヤカンを取り出し、アンドレ先生に水をかけた。
先生は目を覚まして言った。
「すごーい。バフ効果高いのね。
ただのメイドさんでも、あんなに力が出るなんて!
ねえ、私にもバフしてほしいわ」
え、マリはたまたま見た目以上に強かったけど、先生にかけるとバフ効果がないとわかってしまうわ。でも、しかたがない。
私は、ばれるかもと、震えながら先生に言った。
「アンドレ先生、お願いします。私を守ってください」
奇妙な間があった。
アンドレ先生は、目を見開いて固まっている。
「くっ!こ、これは!
ええ、もちろんよ!絶対に守るわ!
・・・ああ、どうしたのかしら、生徒に対してこんなこと言うのはいけないけれど、あなた、かわいいわ。
ずきゅーんときたの、もう、絶対守っちゃう。ああ、これが、バフ効果なのかしら、、、」
それ、おそらく、【公爵令嬢のお願い】スキルが本来の働きをしただけですよ。
ダイは言った。
「先生、どうもバフ効果にはお嬢様との雇用関係や忠誠心が関係しているように思います。
お嬢様に忠実な使用人にしか、バフ効果はないように思います。
もしかしたら、先生の攻撃力や防御力はあまり上がっていないかもしれません。
あと、カボチャの化け物の時は、お嬢様が僕に「私を守って」とお願いした状態を解除していませんでした。
あの時は、普段より攻撃が効いている感じがありました」
「まあ!言われてみれば、攻撃力は上がっていないかも?
でもね、なんだか、こう、ずきゅーんと来たのよね。ずきゅーーんと!」
アンドレ先生は納得してくれたようだ。
それから先生は、支援系のスキルは、発動時の型(発動させるポーズとか呪文)を決めておくと効果が高くなるとか、対象者やバフが届く範囲、バフが続く時間を丁寧に調べ、体で覚えることが大事、など、たくさんの有益なアドバイスをしてくれた。
例えば、ケイトリン様は、バフ系スキルなのだが、発動にあたり、対象者の額に祝福のキスをするらしい。
え、そんなの、だれでもやる気が出るわよね!
私は、ダイと先生からたくさんダメ出しをされながら、発動時の型を決めることになった。
「いいわー!かわいいわー!ライラちゃん、最高よ!ニコッと笑って!
そう!そういう小悪魔な感じ、いいわ!
決め台詞は、お願い、という言葉が入ったほうがいいのかしら。
あと、守って!ってこう、言いきっちゃうとか!」
「いっそのこと、対象者の名前を呼ばずに、お兄ちゃんと呼びかけていただくというのもありかもしれません。
あと、ポーズはもっと上目づかいに内またで、手は胸の前で組んで、ついでにぎゅっとして寄せて上げてください」
最初は、そんなものかと思って付き合っていたが、いや、まて。
「結局、みんなミトロヒナ嬢みたいな庇護欲そそる系が好きなのね」
私がぼそっと言うと、ダイとアンドレ先生がひゅっと息をのみ、黙った。
結局、私のスキル発動の型は、「対象者の1m以内に近づき、相手の目を見て、名前を呼んでから、『私を守ってください、お願いします』と言う」という無難なものになった。




