3 面談を受けました
夕方、学園の先生方がお見えになった。
園長先生と学年主任でスキル理論担当のレオニード先生、そして、なんと、SSRの保健医のアンドレ先生もご一緒だ。
アンドレ先生は、背が高い上、白衣の上からでもわかるムキムキ筋肉、角刈りに金縁で薄茶色のサングラスをかけた、いかつい感じの方だ。
本当に、癒し担当なのかしら。
私はドレスを着たまま、客間でお迎えさせていただく。
ダイはお茶を給仕している。
ダイは、ハロウィンイベントで化け物を討伐したため、レオニード先生やアンドレ先生と顔見知りのようであり、あいさつを交わしている。
園長先生が、私の体調についてご質問され、私は答えた。
「私、体調不良で、お休みをいただいておりますが、見ての通り、普段は健康そのものなのです。
ただ、最近、私の婚約者のイヴァン殿下が、特定の女性と特に親しくしているご様子でございましょう?
私、特にその女性に何ら含むところもございませんけれど、ただ、殿下のそういった有様を拝見しておりましたら、心臓に激しい動悸を感じましたの。
今月1日から、私、学園に伺おうとすると、そのたびに動悸やめまいおこりまして、学園に登校できない状態が続いております」
アンドレ先生が言った。
「まあぁああ、かわいそうに。ストレスよ。それ。
あっら、園長先生、お話途中で口をはさんでごめんなさいね。
そして、ライラさん、つらいわね。わかるわ。
つらい気持ちが体の調子を崩しちゃっているのね。
それでも、一生懸命学園に行かなくちゃっていうあなたの気持ちもよくわかるわ。
でも、あなたはあなたを一番大事にしてあげなくちゃダメ、今のあなたに必要なのは、心の傷を治すことよ。
そして、恋の病につける薬は、一人の時間しかないの。
学園を少しお休みしてもいいかもしれないわね」
園長先生は、アンドレ先生の診断を聞き、言いにくそうにおっしゃった。
「オルロヴァ公爵令嬢のご心痛、お察し申し上げます。
ただ、イヴァン殿下は、御存じのとおり高貴な身の上です。
王族が愛妾を迎えるのはよくあることであり、愛妾への対応も含め、今こそ正妃、ええ、正妃になるご予定の令嬢の器量の見せ所ではありませんか。
まあ、その、少し早いとは思いますが」
園長先生は、話している途中で、まだ私が婚約者に過ぎないことを思い出したようだ。
政略結婚とはいえ、両家の中を深めることが目的である以上、結婚当初は夫婦睦まじくなるよう努力するのが常識である。
どうにも相性が合わない場合はお互いの話し合いの結果、他の愛妾を迎えるなどはあるが、婚姻前から愛妾を囲う場合、ないがしろにされたほうの出身家にとっては体面を傷つけられたようなものであって、面白くないのは当然であり、仲たがいの原因になる。
それなら結婚しないほうがましである。
ただ、園長先生の価値観からすれば、女が我慢しろと言われるだろうと予想はしていた。
「器量の話については、園長先生のご指摘の通りだと思います。
ただ、私、婚約者がいるにもかかわらず、また普通は人に見られれば恥ずかしいと感じるであろうことを、人目もはばからず平気で行うような人を、不潔と拒絶してしまうのです。
ですから、きっと、私には、王子殿下の正妃を務める器量が欠けているのではないかと心配しておりますの」
私は、言外に婚約解消の意向を匂わせる。
国のトップシークレットにあたるであろう王族の婚約の事情を知った園長先生は明らかに動揺した。
園長先生は、中立派の派閥に属していらっしゃったはずなので、政治的なもめごとに巻き込まれたくないのだろう。
「そんな、めったなことを!
オルロー公爵にはもうご相談されたのですか」
「遠方ですので、一度おじいさまにお会いして、今後の私の進路についてご相談させていただきたいと思っておりますの。
ですから、まだ、外部にはお話ししないでくださいね」
園長先生は、家長の決定を経ていない段階と聞き、先ほどの匂わせがたんなる私の愚痴だと思ったようで、あからさまに安堵した。
「もちろんです。先生方もよろしいですよね!」
園長先生があわてておっしゃると、先生方もうなずいていたが、まあ、間違いなく噂になるだろう。
むしろ、それが狙いなのだ。
「ただ、気が早いようですけれど、私、今後、留学したり、仕官したりといった進路を考えておりますの。
よろしければ、ご相談させていただきたいです」
「進路ですか。
無駄になるかもしれませんが、それで公爵令嬢の気持ちが落ち着くなら、なんでも協力いたします。
興味のある分野について、どの先生にでもご相談されるとよろしい。
学年主任、便宜を図ってあげなさい。いいですね。
ただ、公爵令嬢も、少し、気が早いのではありませんか。
落ち着いて考えられることをお勧めしますよ」
園長先生は訳知り顔になだめているが、相談自体は受け入れてくれた。
【公爵令嬢のお願い】スキルの効果かもしれない。
「はい、私としても、様々な進路について知りたいと考えています。
実は私、ようやくスキルを授かったようですの」
私は第二の爆弾を投下した。
「え、今さら、いえ、おめでとうございます」
と園長先生が祝福してくれる。
今さら、とか、考えたことが全部口に出ていらっしゃいますわよ。結構、園長先生は貴族としてポンコツかもしれない。
スキル理論の講義も担当しているレオニード先生が、我慢できないように口をはさんだ。
「もう、神殿の鑑定は受けられたのですか?」
「おじいさまに相談してから、受けようと思っていますので、まだです。
ただ、仮に私の予感が的中し、スキルを授かっていた場合、スキルの正しい使い方をちゃんと学びたいので、スキル実技の科目は受講したいです。
ただ、そうなると今年卒業できないのでしょうか」
「ああ、ご心配になる必要はありません。
確かに、いくら理論が完璧でも、スキルの使い方は学んだほうがいいですし、使い方はスキルごとに違いますから、マンツーマンレッスンになります。
卒業間際にスキルを取得する学生も、珍しいですがいないわけではありません。
神殿の鑑定結果をいただければ、すぐ手配できるようになっています。
あと、スキルの性質によっては、学校に登校して授業を受けることができない学生もいます。
ですから、スキル実技の講義は自宅で受けることができるよう、特別コースも用意されています。
ライラさんが当てはまるかどうかはわかりませんが、学園に登校するのが難しいというご事情があるようですので、特別コースで受講できないか、調整してみます」
「ありがとうございます。
仕官も考えているので、できるだけ上位の成績で卒業したいと考えています」
「ああ、今の成績でも、そうですね、一部の科目を除いては、素晴らしい成績を収めていると思いますし、今後の頑張り次第で、最優秀生徒は十分狙える位置でしょうね。
今後も学校を休みつつ最優秀生徒を狙うのであれば、受講している科目の先生に、卒業のみならず、欠席したままで優等をもらえるかをよく確認してみてはいかがでしょうか。
そういえば、私が担当するスキル理論の卒業論文を拝見しました。
なかなか素晴らしい出来でした」
「ありがとうございます。
なにか不足がありましたでしょうか。
まだ、先生のご指導をいただいた上で再提出ができる期間でしたよね」
私は、「なかなか」優秀と言われたことからなにか不足がありそうだと思い、最優秀生徒になるために必死で質問をした。
「そうですね、最先端の論文まで抑えた内容で、学園生レベルとしては、十分優秀です。
ただ、まだ推論段階の議論と実証済みの理論を区別できていません。そこを区別した書き方をしていただけると、いいように思います。
あとは、参考文献を引用してください。
さらに上を狙うなら、一部、あなたの推論が入っているように思いますので、そのように推測した根拠となる論文を上げ、またそのように推測した論理過程を記載していただければ、飛び級で修士資格を差し上げたいぐらいですが、まあ、それは難しいでしょうね」
「わかりました。ご指導ありがとうございます」
「神殿の鑑定結果が出たら、早めに教えてくださいね」
レオニード先生は、にこにこしながらおっしゃった。
最優秀生徒、とれるかも。ピョートル殿下に会うためにも、がんばりますわ!




