第111話 勇者と忘れぬ想い
シャクレンが、能面の翁のような不気味な笑顔でラヴィ達に近付いてくる。ガイアスと戦った時と同様に、決まった構えは無く、無防備なままで歩いている。
「ほっほっほっ!まだまだ若いメイド服の女の子を斬るのは忍びないが、恨むなら自分達の運命を恨めよ。」
シャクレンの放つユラユラとした赤黒いオーラと、妖刀神斬の異様な雰囲気により、ラヴィ達へピリピリとした圧力を与えてくる。
「アヤネ、レナ。ガイアスの話によれば、あいつは斬る素振りなく斬ってくるらしいからな。気を付けろ。」
「なんだよそれ…。どう気を付ければ良いんだよ。」
「ニャハハ!そういった時はどうすれば良いかレナがお手本を見せてあげるよ!」
例に漏れず、レナがいつも通り四足歩行の構えを取り、真っ直ぐシャクレンへ向かって猛ダッシュをかます。
「あっ!レナのアホ!ラヴィの話聞いてたのかよ!また特攻しやがった!」
「ははは!良いじゃないか!私達がフォローすれば!」
「そういうお前は聖剣を出せんのか?」
アヤネにそう言われ、刃の無くなった聖剣の柄をラヴィは握りしめる。
「それがな。今はやっぱり出ないんだ。善の力が足りないのか分からんが…。」
「おいおい。どうすんだよ?」
「大丈夫だ。たぶん、ヤオと戦った時の力は取り戻せる気がする。その間は時間稼ぎ頼んだぞ!」
「またかよ!お前はいっつもそれだな。」
「アヤネ。信じているぞ。」
「あぁ、分かったよ。」
「ほら!レナがあいつとぶつかるぞ!早く行ってやれ!」
「チッ!やれるようになったら合図をしろよ!」
「任せろ!特大の合図を上げてやろう!」
そして、アヤネがレナのフォローをするために走り出した頃には、レナがシャクレンの目の前にまで迫っていた。
猛スピードで近付いてくるレナに対しても、シャクレンは構えもせず、冷静に笑っている。
「ほー!獣人独特の攻め方じゃな!じゃが所詮子猫よな…お前の攻撃は儂に届く前に斬られて終わりじゃ。」
「おじいちゃん!手加減できそうにないから死んだらごめんね!」
レナは、走り出した勢いをそのままに、シャクレンの目の前で右手を大きく振りかぶった。力を込めたその筋肉は、大木のイメージを大きく超えて、硬く滑らかな金剛石を思わせる域に達している。
「心配ありがとうな、お嬢ちゃん。でも、死ぬのはお前じゃ。いや、もう死んどるか…。」
シャクレンは、見えない剣技でもうすでにレナを斬っており、いくつもの刀傷がレナの全身に突然現れて血飛沫が舞う。
斬撃により、前のめりに倒れそうになるレナを見て、勝ち誇った笑顔を見せるシャクレンだったが、歯を見せるのはまだ早かった。
なぜなら、レナは倒れずに片足で地面を思いっ切り踏みしめて倒れなかったのだ。
「ニャー!痛いけど我慢できるもんね!」
「な…!なんじゃと…!儂が斬り損ねたのか!?いや…違う…!これは単純に…!」
驚きと焦りで避けるのが遅れたシャクレンに向かって、レナの大地を割るほどの右拳がシャクレンの胸元に叩き込まれる。
「ウニャラーーーッ!!!ぶっ飛べーー!!!」
「ブッ…!!!ガハーーッ!!!」
レナの拳をまともに食らったシャクレンは100m程ふっ飛ばされる。なんとかオーラで守ったとはいえ、ダメージは深く、刀を杖のようにしてフラフラ立っているのがやっとであった。
「ゲホッ!ゲホッ!このクソガキ!なんという硬い体をしておるのじゃ!まさか神斬で斬りきれんとは…!」
「おい。じいさん。相手は一人じゃないぜ。」
シャクレンがレナの追撃を警戒していた時、突然後ろからアヤネに声を掛けられる。
そして、シャクレンが反応する前にアヤネが英雄のオーラを展開して、背中にゆっくりと掌底を打ち込む。
「内壊掌。」
アヤネはそう呟くと同時に、シャクレンの身体の中にオーラを流し込んで内部で爆発させる。
その威力は、技の概要を知らずに食らったシャクレンに大ダメージを与えるには十分だった。
「ガッ…!!!!衝撃が…!内部から…!!これはオーラでは…防げんっ!!!」
まともにレナとアヤネの必殺を受けたシャクレンは、堪らずその場で崩れ落ちる。その受けたダメージは、思わず刀を手放してしまった所を見ると、致命傷に近いものだろう。
「な…なぜじゃ…。貴様らの強さは…シュシュの見解では大した事なかったはずじゃ…。」
「うちらはあの四天王やヤオ様と死闘を繰り広げたんだぞ。弱いわけないだろ。」
「四天王とは…あの魔王候補の子らか…。あれらも儂らに比べたら…格下な…はずじゃ…。」
「あんたが何言ってんのか知らねーけどさ、そのシュシュって奴が間違えたんじゃないの?
それに、うちらなんかよりももっと強いのがあそこにいるぞ。」
アヤネが指差した方にはラヴィが目を瞑って集中している姿があった。もう一度真の勇者の力を発揮するために模索しているのだろう。
(私の力は時が戻って失われた。だけど、善の力を手に入れた時に感じたみんなの気持ちは覚えている。そうだ…忘れるわけがない…。
途中から善の力を与えてくれた相手の気持ちが、宝玉を通じて理解でき始めた事には意味があったんだ。
みんなの…あの熱い気持ちや…託された想いを…私は失うわけにはいかないんだっ…!!!)
ラヴィは、あの時の想いを全て細かく思い出し、その気持ちを心の中で爆発させると、ヤオ戦で見せた以上の勇者のオーラを空高く放つ、その蒼いオーラは天を穿つようだ。
右手に持っていた聖剣の束からも、蒼いオーラの刃が神々しく輝いている。
「おーおー!こりゃまさに特大の合図だわ。じいさん…終わったな。」
シャクレンは、自分が斬った英雄や神よりも凄まじいオーラを放つラヴィを見て、身動き一つ取れなくなっていた。
「こんな…事が…あるのか…。儂が…恐怖を抱くなど…。」
恐怖に体が震えるシャクレン。そんな四大魔王を圧倒するラヴィ達を見て、1番驚愕していたのは、神界からセリーナと共にその様子を見ていたベルゼであった。
「これは…一体何が起こっている…。勇者ならまだしも、ただの獣人や人間が四大魔王を追い詰めるなど…。」
「がっはっはっ!だから言ったであろうが!お主が度肝を抜かれる所が楽しみじゃと!」
「何かの間違いだ!他の四大魔王達がこれから蹂躙するはずだ!シャクレンもこのままで終わるわけがない!!」
しかし、ベルゼのその予想とは違い、ラヴィ達が起こした快進撃が、他の戦いの場でも、等しく起き始めるのである。




