第109話 女神が信じるもの
一本橋の神社の御神木の前で力を使っているシルヴィアがいる。その世界樹の力により、みるみる内に御神木に力が漲り光が辺りを照らす。
「イリスさん!これが限界です!」
「十分です。ではルルさん、私に魔力を注いで下さい。」
「はい!分かりました!」
ルルは、両手をかざすと指示された通りにイリスへと魔力を分け与えていく。
イリスは、その魔力と自分の神の力を使って、御神木を中心に神社全体を覆うような魔法陣を生成した。いかにイリスが神に匹敵する力を持っているとしても、10人以上も遠いエルサンガへ転移させるのは骨が折れるようだ。
「これで…完成です…!ルルさん、シルヴィアさん、この状態を保ってほしいのですが、どれぐらい耐えられるでしょうか?」
「私は世界樹の力で御神木を維持しているだけなので、数時間は大丈夫ですが…ルルは…。」
「私も魔力を展開するだけなら同じく大丈夫です…。でも…この状況を不審に思った人が来た時の対処として睡眠魔法をかけたりするとなると…厳しいです。」
「それなら心配いりません。周りからは静かな夜の神社に見えるように結界を張っていますから。
では、転移させる者達の元に門を出現させます!」
そして、イリスは一層力を膨れ上がらせる。するとその異常な力に反応する者が現れた。
それは、ヨルカ達の所から隠れ家に戻ってきたばかりのシュシュである。
「うわ!なんだよこの力は!?神クラスの力が突然湧き上がったね!どうやら戻ってきて正解だったみたいだ。この力の形式…魔法陣の気配…時空の歪み…転移魔法か…。
どうやら、僕達をどこかに転移させるみたいだね。恐らくはこの世界で戦う事ができないと判断した苦肉の策か…。」
遠くから感じた僅かな情報だけで戦況を読み切ったシュシュは、神の印の解除を試みる。
シュシュが両手を合わせてブツブツと呪文のようなものを唱えだしたタイミングで、ワインを片手にローゼンが戻り、寝ていたシャクレンも目を覚ました。
「なんじゃ?寝とる間に大層な事になっておるな。何があった?」
「これはワインをゆっくり飲む時間は無いようね。少しは楽しくなる事を願ってるわ!」
そして、シュシュは神の印について、全ての解読が完了し、瞑っていた目を開ける。
「よし!これで神の印は解除できるよ!」
「さすがじゃな!やっと自由に戦えるんじゃな!」
「うん!でも…ベルゼが刻んだにしては、なんだか雑な印だったね…。なんだかきな臭い匂いがプンプンするけど関係ないね!何があろうと全てぶち壊して大暴れだ!」
そう言うと、シュシュが両手をパンっ!と鳴らして神の印を破壊する。それぞれに刻まれていた神の印が弾けるように消えると、シュシュ達の身体からとてつもない量の悪のオーラが溢れ出る。
「いいわねー!これよこれ!」
「ほっほっ!何を考えておったか知らんが、ベルゼも阿呆じゃのー!」
「レイヴァンの神の印も解けた気配がしたからこれで万端だ!今からたぶん転移させられるから準備しててね!」
そして、シュシュの神の印の破壊とほぼ同時だった、四大魔王とそれに挑む者達を、半ば強制的に転移させる光で出来た渦が現れて、全員がエルサンガの世界へと誘われるのであった。
全員を転移させた後、イリスが最後にその渦の中へと入っていく。
「では、後は頼みました。」
「イリスさん…みんなの事をどうかお願いします。」
「みんなが無事帰ってこれるように、私達が絶対にここを維持しておきますので!」
シルヴィアとルルの言葉をしかと受け止めて、イリスは静かに頷くと、世界の…いや…宇宙の命運を分けるかもしれない戦いを見届けに行くのであった。
――場所は変わって、セリーナが幽閉されている神界にある塔の一室に、たった一人でベルゼが訪れる。部屋の扉を開けると、窓辺で椅子に座り、外を眺めているセリーナが居た。
「なんだ、意外と大人しくしておるようだな。」
「私が暴れても何も変わりはしないので…。」
「ふむ、そうか。あちらの世界では、イリスが転移魔法を使ってそなたの勇者や四大魔王をエルサンガに送ったみたいだが、これはそなたの指示か?」
「何も存じませんが、エルサンガには広大な山岳地帯があります。そこが戦うには最適だとイリスが判断したのでしょう。」
「まぁよい。私はそなたの言う可能性さえ見れれば良い。しかし、四大魔王の神の印が破壊されてしまったようでな。歯止めが利かなくなった。
もしかしたら、本当にそなたの味方である者達は死んでしまうかもしれんな。」
「何を今さら言っておられるのです?あなたが本気で神の印を施したのなら、いかに四大魔王といえど破壊などできぬはずです。」
「私がわざとそう仕組んだと?」
「あなたは昔からいつもそうです。全て自分が正しいと思い込み、新しい変化を良しとせず、今までどれだけの可能性を壊してきたのですか?
今回も四大魔王に罪を被せ、自分は手を汚さずに新しい芽を摘もうとしているのが丸分かりです。」
「何とでも言うが良い。証拠など何もない戯言だ。それに、そなたも諦めているではないか。」
「演技じゃ。」
「ん?何と言った?」
セリーナが座っていた椅子から勢い良く立ち上がると、その顔は自信に満ちた表情で笑っている。
「演技じゃと言っておるのだ!」
「意味が分からん。そんな事をする必要がどこにあった?」
「四大魔王の話が出た時に、わしは全ての事を頭の中で絵に描いた!お主が失脚するように!
私利私欲のために世界を滅亡の危機に晒すなど、神法の中でも最も重罪とされておる!
不完全な神の印をわざと施し、その後、四大魔王にやられて全員が死ねばヴァーニーを使っての証拠隠滅!これらがめくれれば言い逃れはできんぞ!」
「私を演技で泳がしたという事か…。ではイリスもそれが分かっており、証拠を掴むために向かったのだな…。
だがな、セリーナよ。あの者達が四大魔王に勝てなければ全て水の泡なのだぞ。」
「勝てる!!」
「不可能だ。あれらは神ですら怪物に感じるほどの異物だ。ヴァーニー以外で討伐できる者などおらん。そなたも四大魔王の名を聞いて慌てていたではないか。」
「それも演技じゃ!わしの子らがそんな簡単に負けるわけない!あの子らは悪神となったヤオを退けた者達じゃ!あの時!あの子らが戦い、乗り越えねば全ての世界がどうなっておったか分からん!
その経験という力がある限り!四大魔王なんかよりも遥かに強い!
そして、エルサンガを選んだ事にも意味はある!ラヴィ達を一番初めに転移させた際に施した仕掛けが今活きるからじゃ!」
「吠えるだけでは薄っぺらいぞ。結果が全てだからな。ではここでその様子を一緒に見届けようではないか。」
ベルゼがそう言うと、右手をかざして部屋の壁に光の画面を召喚した。そこには、エルサンガの何もない荒れ果てた山や荒野が映っている。
「良いじゃろう!ラヴィ達が勝った瞬間、わしがお主を捕らえる!」
「叶わぬ事をさっきから…。」
「よく見ておれ!度肝を抜かれたお主の吠え面が楽しみじゃ!」
今回の事件が始まり、瞬時に対応して計算を重ねたセリーナの計画は、ベルゼの思惑を打ち砕く事ができるのか…。
その全ては勇者一行に託されるのであった。




