第107話 魔王と優しい愛
ヨルカとキョウが今にも攻撃に移ろうかと気を放っているにも関わらず、シュシュはそんな事を意にも介していないのか、テーブルの上の食べ物に目をやった。
「あー!美味しそうなもの食べてるじゃん!もーらい!」
そう言ってシュシュは満面の笑みでピザを頬張る。そんな気の抜けた状態を見せられ、思わずヨルカの力が緩んだ瞬間だった。
シュシュは一気に距離を詰めて、ヨルカの首元に手刀をかざす。
「ほらね、ちょっと隙を作ればこれじゃん。やっぱ弱過ぎるよね。」
「お前こそ油断し過ぎアル。後ろを見ろアル。」
ヨルカにそう言われたが、シュシュは後ろを見なくても状況を把握した。自分の背後に、刃物を持ったキョウがいる。
「へー!やるね!ちょっとだけ見直したよ!わざと君が気を抜いてあたしの隙を作ったんだね!」
「少しでも動けば後ろからズバッと終わりでありんす。」
「でもなぁ、弱いのには変わりないんだよね。」
またシュシュが魔眼の力を利用して、2人に見えない攻撃を加える。
だが、先程のハルとは違い、ヨルカとキョウはそれをガードして防いだ。
「おー!凄いね!一度見ただけで防げるんだ!さっきの子とは違うんだ!」
「お前は舐め過ぎアル。ハルは運が悪かっただけアル。頭に血が昇れば周りが見えなくなるのがハルの悪い癖アル。」
「その眼から何か出たのが確認できたでありんす。もうその攻撃は受けないでありんすよ。」
「う〜ん。まだまだあたしの魔眼に対しての理解は浅いね。まぁいっか!君達はあたし達の敵になるって事で良いんだね?
どちらにせよ、勇者側につく魔王候補になんてもう興味はないけど!」
「私達はあいつらの味方になるわけじゃないアル!ただお前がムカつくから敵になるだけアル!」
「あっそ!じゃあ…用はないし殺すね…。」
そうして、シュシュが魔王の力を解放してヨルカ達を攻撃しようとした時だった。
今の位置から東の方角に、シュシュにとっては嫌な気配が膨らんでいる事に気付く。
「あら?これは一体なんだろう…。神の力かな…いや、この世界の女神は今神界で幽閉されているはず…。ちょっと見過ごすには不確定要素過ぎるね。あたしは用事ができたから行くよ!」
「私達を放っておいて良いアルか?」
「うん!問題ないね!邪魔してきたらしてきたで瞬殺できるしね!じゃあバイバイ!」
シュシュは感じ取ったナニカが、自分達の計画を邪魔する前に行動するため、隠れ家に戻るための魔法陣を発動させる。
「お前の首、必ず取ってやる。覚悟しとけアル。」
「あはは!楽しみにしてるねー!ザコ魔王!」
シュシュはそう言い残して魔法陣の中へと消えていった。
「ヨルカさん。今のわちきらではあの者を殺す事はできんせん。やはり、悪の力を返してもらうしかありんせんかと…。」
「そうアルな。あの勇者達とあいつらはぶつかるみたいアル。その時がチャンスアルな。」
「わちきらのリーダーはヨルカさんでありんす。全てお任せしんしょう。その前にハルさんを起こすでありんす。」
こうして、四大魔王と魔王候補は対立する構図になってしまった。だが、ヨルカ達が大人しくラヴィ達の味方になるわけもなく、不安要素が消える展開とはならなかった。
――そして、ローゼンを退けたアルマは、五右衛門町の外れのある場所に訪れていた。
そこは花屋であり、シャッターは人が屈めば入れるぐらいだけ隙間を残して閉まっている。
その前で、アルマが店に入る事に躊躇って立っていると、中から髪を小さく纏めて、可愛いエプロンをした優愛が出てきた。
「え!?アルマ!?こんな所に珍しいね!どうしたの?」
「いや、用があったわけではないのだが…。」
困ったように話すアルマを見て、優愛は何かを察したように小さく息を吐いて笑顔を見せる。
「はぁ…。また何かあったの?魔王らしくもない顔をして!」
「む!違うぞ!ちょっと貴様の顔が見たくなっただけだ!」
「へー。あたしの顔を見たくなったんだ。可愛いとこあるじゃん。」
「勘違いするでないぞ!少しまたややこしい事になりそうでな…。もしかしたら、しばらく会えんかもしらんから来ただけだ!」
「そうなんだね。最近は顔も見せないからあたしの事を忘れてると思ってたよ!
あたしが仕事帰りに歩いてたら、アルマが魔女の格好した女の人とか、バリバリのキャリアウーマンみたいな人とこの辺ウロウロしてるの見てたから!」
「あれは違うぞ!ノンノやユウナは我の店に飲みに来てくれているだけだ!」
「ノンノさんとユウナさんって言うんだ。へー、あたしとは遊んでくれないくせになぁー。」
「だから違うと言っているだろう!ペルソナを継いでから忙しかったのだ!」
優愛の言葉に、ワタワタ慌てながら弁解するアルマを見て、優愛は楽しそうに笑った。
「あははは!うそうそ!アルマがホストを頑張ってるって噂で聞いてるから大丈夫だよ!」
「貴様だけは本当に…!」
「で、次はどこに行くの?危険な事をするの?」
「うむ…。」
アルマは、ローゼンの底の見えない実力に、死を覚悟せねばならないと思っており、その戦いに赴く前に、優愛の顔を一目見たかったのだ。
だが、事情を知らない優愛にどう説明すれば良いのか分からずに言葉に詰まる。
その様子を見ていた優愛が、アルマに気を遣って話を続けた。
「ねぇ。アルマ。」
「なんだ?」
「どこに行くのかは…今は深く聞かないよ。でもね、次に会った時にアルマの事を全部話してよ。あたしだってバカじゃないからさ、アルマが普通の人とは違うってのは分かってるから。」
「優愛…。」
「アルマはあたしを底から掬い上げてくれた。こうやって夢を追いかけられるのもアルマのおかげなんだよ。
全部話してくれたら、もっともっとあたしがアルマを支えてあげられるから。」
「フ…。そうだな。我も苦しい時はいつも優愛に助けられてきた。なんだかんだで我の今があるのもあの時優愛と出会ったからだ。
だから次に会えた時、我の事を全て話してやろう。我が唯一愛する者としてな!」
「え!?それはどういう!?」
アルマがゴブリンのウンコぐらい臭い感じで話を終わらせると、優愛の質問には答えずに背を向ける。
「ではいってくる!いつも我に勇気を与えてくれる事を感謝するぞ!」
優愛がアルマの後ろ姿をよく見ると、隠し切れないほど真っ赤になった耳が見えた。
「本当に素直じゃないんだから…。いってらっしゃい!待ってるからね!」
優愛がアルマに少し呆れながらそう言うと、優愛から光の玉が現れて、アルマの宝玉に吸い込まれる。
【善の力を手に入れました。 種類は相愛。】
「優愛よ!感謝する!ではな!」
そして、アルマは優愛からの力を手に入れ、そのまま高くジャンプして夜の街に消えていく。
優愛が見えなくなった事を確認すると、アルマは雑居ビルの屋上で立ち止まる。
「まずはラヴィの所に行かねばならんな。あいつらなら詳しい事情も知っているだろう。」
アルマがそう考えて一本橋の方向へ向かおうとした時、後ろから聞き覚えのある声で名前を呼ばれる。
「アールマちゃん!お久しぶりだね!」
その声を聞いたアルマは、何故か自然と口角が上がり、ニヤリと笑うのだった。




