第102話 魔王、普通の友を得る
アルマが今出せる限界のオーラを出すが、その色は紅には届かない。
(やはり、まだヤオと戦った時には及ばないか…。だが、奴に駆け引きを持ちかけるには十分であろう。)
アルマの予想通り、ローゼンは何やら思考を巡らせた表情をしている。
その隙を見逃さずに、アルマはローゼンに駆け引きを始める。
「どうしたのだ?弱い弱いと言っていた我と戦うのに臆しておるのか?」
「クッ…!そんな訳ないでしょ。今あなたと戦ったって私が負けるなんて有り得ないわ。」
「なら何故ボーッとしておる?良いだろう、我から攻めてやろう。」
アルマがオーラを手のひらに集めてバスケットボール程の赤い球体を作ると、それを見たローゼンが待ったをかけてきた。
「待ちなさい!」
「待つ?何故だ?」
「憎たらしいわね。あなたの狙いは分かっているのよ。ここで私と一般人を巻き込む戦いをして、この神の印を反応させるのが目的ね。
今のあなたを殺すのは簡単だけど、さすがに私だって周りを気にしながらってのは無理だわ。」
「ほー。魔王なのに周りに対して配慮するのか。さっきまで偉そうに魔王論の講釈をたれていた割には優しいのだな。」
「本当に嫌味な男ね。そんなのじゃ女にモテないわよ。」
「大きなお世話だ!で、どうするのだ?戦うか退くか、決めさせてやろう。」
ローゼンは『ギリリッ』と悔しそうに歯を食いしばると、空高くへと翼を羽ばたかせる。
「ここは…退いてあげるわ…。そろそろシュシュがこの印を解除する方法を見つけてる頃合いでしょうし…。
次に会う時は覚悟しておきなさい!瞬殺で噛み殺してあげるから!」
そう言い残すと、ローゼンは風のような速さで空の彼方へと消えていった。
アルマはローゼンが完全に退いた事を確認すると、その場で片膝をついて息が荒くなる。その様子を見たノンノはすぐに駆け寄ると、アルマの首が赤紫に変色しているのに気付いた。
「アルマ様!大丈夫!?」
「しばし待て…。噛みつかれた傷から侵入した奴のヴァンパイアの力を浄化する…。」
アルマはそう言うと、自分の魔王の力を伴ったオーラを首に集中させる。
すると、アルマのオーラによって、ヴァンパイアの力は薄い煙を上げながら徐々に浄化されていく。
「奴の『神尽』とかいう力…厄介だ…。オーラごと噛み千切る程の威力もそうだが、ウィルスのように入り込んでくる奴のオーラが自我を破壊してくる…。我ですらあの一噛みでこの様だ…。ミユミユの支配の力の上位互換という所か…。」
「でも…もし戦いになってたら勝ってたの?」
「無理だっただろうな。奴はまだヴァンパイアとしての能力をほとんど見せていない。
我がかすり傷一つつける間もなくやられていただろう。絶望的な力の差がまだある。」
「それじゃあ…もう…。」
「案ずるでないわ!ヤオと戦った時の力さえ戻ればなんとかなる。それに、奴は我の力がこの程度と勘違いしておるしな。そこにつけ込む隙がある!」
「さすがノンノのアルマ様ですぅー!」
「おい…ノンノ…一つ気になる事があるのだが…。」
「え?なんですか?」
「さっきからシリアスな感じで喋っておるのに!何故貴様の手は我の股間を触ろうとしてくるのだ!」
真面目な話の水面下で、ノンノが必死で股間をサワサワしてこようとするのをアルマは止めていた。
「だって…さっきノンノに求婚してきたじゃない…。だからノンノの腐らない愛をアルマ様に与えようかと!」
「き…!求婚だと!?そんなつもりではなく!配下として我についてくるかと聞いただけで…。」
アルマがそこまで言った所で、ノンノは目に涙を浮かべながら悲しそうな表情をする。
「いや…おい…。泣くな!なんかすっごい胸が痛くなるであろうが!」
「ぐす…ぐす…。じゃあ…アルマ様は…ノンノの恋心を弄んだんだね…。上手いこと利用して…力を得るためだけに…。」
「ぐお…。重い…重いぞ…。これが白石に改めて説明されておった地雷系か…!確か…スキルはメンヘラ!」
「せっかく…アルマ様と幸せな家庭を築けると…思ってたのに…。」
「い…いや…。別に貴様を傷付けるつもりなど…なくてだな…。あの…その…これからな…もし何かきっかけがあればだな…。えっと…。」
メンヘラ地雷系を手なづけてこそのホストなのだが、アルマには全くと言っていい程才能がなかった。
ここは優しい嘘で攻めるか、オラオラ系で相手のM心を上手く刺激してもっと沼らせるかなのだが、そんなテクニックを童貞のアルマが持ち合わせているはずはなかったのだ。
しかし、しどろもどろになるアルマに、ノンノは予想外の反応を見せた。
「あの…その…。えっと…。オェッ…。」
「ハァハァ…。さすがアルマ様です…。上げてから落とすの高低差が激し過ぎてよく分からない気持ちになってきました…!
ノンノの心をこんなに震わせるなんて…!アルマ様しかいないよ!一生ついていきますぅー!」
「え?おい!目がイッておるぞ!やめよ!股間に顔を埋めようとしてくるな!
怖い怖い怖い!メンヘラ地雷系怖過ぎる!」
ノンノの狂ったようなドM具合でなんとか窮地を脱したアルマであったが、そこに息を切らせながら白石がやって来る。
「アルマさん!なんか凄いビルが揺れたけど何かあったの!?
え…あれ?何やってんの…アルマさん…。ビルが揺れる程楽しんでたの?」
ノンノが丁度アルマにイチャついてるところに、タイミング悪く現れた白石は、その光景を見て呆れているようだった。
「ち…!違うぞ!これはノンノが勝手にだな…!」
「はいはい。お邪魔して悪かったですね。僕は店に戻りま…。えっ!?蘭さんとユウナさんが倒れてるじゃないですか!?」
白石は、アルマ達の奥でまだ気を失っている蘭とユウナに気付くと、そこへ駆け寄った。
「一体何があったんですか!?」
「白石よ。今は詳しく説明しておる時間がないのだ。その中で一つ頼みを聞いてくれぬか?」
「……。それは魔王とかに関係してる事?」
「あぁ…そうだ。我が良しとするまで、蘭とユウナを家で匿ってくれぬか?」
「分かったよ。」
アルマは、自分を魔王と信じていないと思っていた白石が、二つ返事で即答した事に少し驚く。
「本当に良いのか?」
「うん。この前アムーザビルでシルヴィアさんとアルマさん達の周りの人について話をしたんだ。
その時にシルヴィアさんと約束した事があって。」
「それはなんだ?」
「アルマさんを僕が支えるってね。だから、今回も何も聞かずに協力するよ。」
そして、白石の胸から光の玉が現れてアルマの宝玉へと吸い込まれる。
【善の力を手に入れました。 種類は友情。】
手に入れた善の力に込められた白石の気持ちを、アルマはしっかりと受け止める。
アルマはずっと人を見下してきた。それは魔王として当たり前の事であったが、そのせいで瑠偉のような戦友の者以外、普通の友と呼べる者は今まで出来た事もなかった。
そんなアルマに出来た初めての友がただの人間である。昔のアルマならばそんな者から友と呼ばれる事を許すなど有り得なかったが、今は胸の内から込み上げる嬉しさが心地良かった。
「ククク…。ただの普通の人間が我と友達か…。しかし、悪くないな…。」
「ん?何か言った?」
「何もない。では白石よ、頼んだぞ!
ノンノは目覚めた蘭の拘束と、ユウナと白石を守って欲しい。また狙われるかもしれん!」
「はい!アルマ様!」
「ちょっと待ってね。それは任せて欲しいけど、ロマネ・コンティ代はどうする?ちゃんと回収できる?400万円だけど大丈夫?」
「はぁ!?400万だと!?ワイン1本でか!?あのクソヴァンパイアめ!必ず回収してやるぞ!」
こうして、なんとかローゼンを退けたアルマは、蘭とユウナをノンノ達に任せ、これからのためにある場所へと向かうのだった。
そして、四大魔王の最後の一人であるレイヴァンは、意外な者達の所に姿を現す。




