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第8章 弔いと決断

更新:2021.10.20

「俺を殺すか?」


 声に驚き翠は飛び退く。小刀を構えて警戒すると、隆盛はクスリと笑った。


「…気付いていたのか。」

「おっ、本当にしゃべるんだな。安心したぞ。」

「茶化すな。」

「真面目だねぇ…。そうだと言ったら?殺すか?」

「…。」


 動けないでいる翠に、やれやれと隆盛はため息をついてから続ける。


「お前がただ者じゃないことは、気づいてたさ。」

「いつから?」

「初めからだよ。」


 表情が動かないが驚いているのだろうなと、隆盛は感じた。だから、彼の答えを待たずに続ける。


「怪しいと思ったから、お前がいた勅任官の屋敷を、確認したんだ。」

「疫病だったらどうする…」


 つもりだったのか。と、言いかけて奴隷を使ったのだと思い至り、隆盛に蔑んだ眼差しを向けた。


「…奴隷でも使って確認させたのか。」

「俺を他の官吏と、同じにしないで欲しいね。自分で確認したよ。全員、毒で殺されてたな。病死に見せかけるつもりだったんだろうけど、詰めが甘かったな。俺なら、素肌の出てる首や手などではなく、服の中に毒針を刺しただろうな。その方が万が一にも見つからないだろう。まぁ、俺ならそこまで調べていたから、どうせ気付いたさ。」


 おどけて見せる隆盛に、隠密として忠告まで受けた翠は不愉快に感じた。


「…なら何故、俺を連れて帰った?」

「雪の友達になってくれると、思ったからだ。」


 はぁ?と、今度は翠が呆れ顔で隆盛を見る。


「俺の感は当たるんだよ。ただ、思っていたより仲良さそうで、ちと妬けるけどな。」


 隆盛は苦笑して、寝息を立てている雪を見る。だが、その視線はすぐに翠に向けられた。


「で、どうするんだ?俺を殺すか?今なら、可能かもな。李珀は本気で酔い潰れてるし、剣も手元にはない。」


 さあどうぞ。と、言わんばかりに手を広げて、おどけて見せる隆盛に、翠は躊躇いを見せた。それは隠密として警鐘が鳴っているというのもあったが、それよりも本当にここで隆盛を殺して良いのかと、翠は考えあぐねていた。

 そんな翠を見て隆盛は彼が何かを悩んでいるのだろうと、彼の葛藤に決着がつくまで待つことにした。


「…じゃあ、殺される前に聞いてくれないか?」


 しばらくの沈黙のあと翠はそれだけ言うと、構えていた武器を下ろした。そんな彼の態度に隆盛は苦笑してから、何でもどうぞと答えたのだった。


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