エピローグ
リンが目覚めるとそこは、魔王様のお部屋だった。
「まおーさま?」
魔王様を視界にとらえ、まだもつれる舌で呼びかける。
「そうだ」
魔王様は頷かれ、
「頼むから!」
声を荒げた。
「頼むから、二度とこのような真似はするな!」
リンの行為がどれほど魔王様を傷つけたのか、魔王様のお顔には深い苦悶の表情が浮かんでいる。
「ごめん、なさい」
「なぜ、毒を飲んだ?」
「魔王様は、悪く、ないから」
「リンも悪くないだろう」
その言葉に、リンは驚いたようだ。
「私は、悪い。魔王様を殺そうとした」
「いいんだ。リンが殺したいのなら、いいんだ」
リンはわからないようだが、魔王様の赦しは絶対だ。
リンは、この世で唯一、魔王様を殺せる存在となった。
「私こそ、謝らなければいけない」
あろうことか、魔王様はリンの手を取り、跪いた。
「リンを魔族にした」
「まぞく?」
「承諾もなしにしたことを許してほしい」
命を助けるためにしたことなのに、言い訳もしない。
「私、魔族になったの?」
「そうだ」
「…何も変わらない」
自分の身体を見て、不思議そうだが、それはそうだ。
その身に流れる血が変わっただけのこと。
「安心しろ。あまり変わりはない」
「魔王様」
戸惑いがちにリンは魔王様の手を引く。
「なんだ?」
「…魔法、使える?」
リンには魔力がない。
そのことによる恩恵は大きいのだが、リンには不満のようだ。
「残念ながら、魔法は使えない」
頭を撫でながらも、リンのリアクションは、魔王様の心にドストライクであろうことが伝わってくる。
表情を動かさないはずの魔王様の頬が、ピクピクしている。
「そっか」
抱きしめて、押し倒して、ぎゅーぎゅーぐりぐりしたいといのが伝わってくるが、この場では非常にまずい。
「コホン」
わざとらしく大きな咳をしてみる。
リンの身体がビクンとして、魔王様が私を睨んでくる。
仕事です。これが仕事です。
「ムラタ…いつからいた?」
「始めからです」
魔王様と一緒に入室し、ずっと実況していました。
「何用か」
「恐れながら、リン様の健康状態を診させていただきたく」
後にしろと言われないように、リン様のために、という気持ちを込めてみる。
「早くしろ」
ふう。小さく息を吐く。
気遣いが半端ない!
「恐れながら、リン様。ご気分はいかがですか?」
「えと、大丈夫、です」
魔族酔いなし、と。
「では、いくつかご質問を」
記憶の混乱の有無と、魔族用の戸籍を作らないといけませんからね。
「はい」
「名前は、リン様でよろしいですね?」
「はい」
「おいくつですか?」
「15歳です」
「…え?」
「今何と言った?」
突如として巻き起こる不穏な空気。
「年を聞かれたので、15と」
「15だと?」
魔王様が、御年536歳ですから、年齢差521歳ですね。
「ムラタ」
「はい」
「人間の成人はいくつだ」
「20歳かと」
「…結婚できる年齢は?」
「親の承諾があれば、16歳で」
「あと1年も我慢するのか?!」
「ちなみに魔族は、200歳です」
あと、185年の我慢ですね。
「あと、1年も…」
聞いてませんね。
「あの、魔王様?」
リン様。その疑問の表情は、魔王様には苦行かと思われます。
こうして、魔王様の理性との戦いの日々は始まったのです。
「いや、明日にでも式を挙げよう。私が法だ」
プロポーズもまだなのに?
リン様は見習い勇者を辞めて、メイドとなり、そしてまた大変な職につきそうですね。
ありがとうございました。更新に間が空いてしまい、申し訳ございません。最後、苦しかったです(現在進行形)。
またどこかでお会いできたら、幸いです。




