1 始まり、それは解体寸前
ヒーロー事務所、アストラルプロダクション。大手ヒーロー事務所であるプロミネンスエンタープライズを親会社とし、「ヒーローの地方展開」を目的として設立された。
二十数年前から「怪人」と呼ばれる人型の怪物が出現し、それに伴い、「ヒーロー」と呼ばれる、いわば怪人退治を専門とする者が現れ始めた。だが怪人もヒーローも、その多くが都市部にしか現れない。ごくまれに地方に現れる怪人に対しては、依然として対策が手薄な状況が続いていたのだ。
アストラルプロダクションは、そうした地方での怪人出現に備え、地方で怪人退治に従事するヒーローの排出を行うことを主たる事業目的としている。
「あと一か月か……」
龍太郎は、オフィスの壁に貼られたポスターを見つめて、しみじみと感慨にふけった。ポスターには、アストラルプロダクションからデビューする最初のヒーロー、クワトロフォースの面々が写っている。
「なしたの、龍太郎くん。そんな孫を見るような目で見ちゃって」
声をかけてきたのは、同僚の佳奈巳だ。龍太郎とは同い年で、ともにクワトロフォースの計画立ち上げから携わってきた。
「いやなるよ。最初っからずっと携わってるもん」
「……あんなに残業したのに?」
佳奈巳は苦笑する。
「でもさ、デビューの会見も大々的にやるし、大手とのスポンサー契約もうまくいってる。どうせうまくいかないだとか、地方なんてほっときゃいいとか、そんなこと言うプロミネンスの連中に一泡吹かせてやれると思うんだ」
「でもほんと、うまくいくといいよねぇ」
「いかせるんだよ、這いずり回ってでもさ」
だが、そこへ息を切らしながら駆け込んできたのは、龍太郎の上司、統括マネージャーの井村だ。その顔は、ひどく青ざめている。
「……え、どうしたんですか?」
「脱退だ!」
「はぇ?」
ぽかんとした表情で首を傾げる龍太郎。佳奈巳は苦虫を嚙み潰したような表情で井村と龍太郎の顔を交互に見ている。
「砂田くん、水原さん、五十嵐さん……この三人が今さっき、揃って辞表を出してきたんだ!」
「はぇ?」
龍太郎は今度は反対側へ首を傾げた。その横で佳奈巳はため息をつく。
「残ったのは、赤井さんひとり……。このままじゃ、クワトロフォースは解体だ!」
「はああああああ!?」
ようやく事態の飲み込みが完了した龍太郎の絶叫が、オフィス内に響き渡った。




