それぞれの夢へと僕らを繋ぐ”エール”
新作です。完結目指して半分くらいまで下記溜めしています。
社会人経験を経ての一作目、どうぞご覧ください。
王都より少し北東に位置する田舎町、シーダストン。
この町の北には、大陸随一の標高を誇る山々が佇んでいる。
山颪によって運ばれた少しだけ冷ややかな空気と、清く、土地の味をふんだんに吸収した雪解け水は、麦芽の醗酵に非常に適した環境を産み出している。
此処、シーダストンは麦酒……つまりエールの特産地として非常に有名なのである。
「う~、ひっく」
町のギルドに併設された酒場の机の端で、顔を真っ赤にしながら一人飲みかけの木製ジョッキを転がす少年が居た。
その隣の空席には、空のジョッキが七本ほど並べられている。
「お客人。余計なお世話かもしれねぇが、少し飲み過ぎじゃねぇのかい?」
テーブルを挟んだ向こうで、髭を生やした店主が皿を拭きながら少年に声をかけた。
「うるせ~、こんな時くらい飲まずにやってられるかぁ~」
少年は、呂律の怪しい口調で答える。
「いや、でもねぇ。それで12杯目だろ? やけ酒はあまり身体に良くないぞ」
「おれにゃあ、解毒魔法あるんだぁ。やろうと思えばアルコールだって分解できりゃ~」
「ある……こーる? 何の話をしてるかわからんが、普通の解毒魔法じゃ酒気は抜けませんぜ?」
「うるへ~」
店主の制止も聞かぬまま、少年はエールを飲み干した。 芳醇な香りと仄かな苦みと旨味が口から鼻へと抜けていく。コクのあるハッキリした飲み口にも拘わらず、スッキリとした爽快な喉越しも感じられる、まさに至高の一杯だ。
「もう一杯!」と告げるその笑顔に、店主はもはや諦め気味である。
そして、少年と店主のやり取りの後ろでは、別の団体客が円卓を囲って酒を飲みながら報酬の分配をしていた。
「納得いかねぇッ! なんで俺の取り分がこれだけなんだッ!」
「ダスター。パーティは連携が大事だからどんなクエストでも全員が同じ取り分になるように分配するという決まりだったはずだろ?」
「うるせぇ、クロップ! 今日は俺の活躍がなきゃ、お前らは今頃ワイバーンの炎で灰になってたんだろうがよッ!」
ダスターと呼ばれた茶色髪の男と、クロップと呼ばれた金髪の男が言い争っている。ガタイがよく大剣を携えたダスターは剣士で、神官服に身を包むクロップは白魔法使いと言ったところだろう。
他にも3人ほどテーブルに座っているが、彼らはダスターの剣幕を恐れ、肩を縮ませて酒を飲んでいた。
「それでも決まりは決まりだよ」
「決まり決まりってまたそれかよ! 白魔法使いのお前には命を張って戦う前衛職の気持ちはわからんだろうよ!」
ダスターの太い腕がクロップの胸を捉えようとした──その時だった。
「暴力沙汰は止めろ~! 酒がまずくなるだろうがぁ~!」
先ほどまでカウンターテーブルに座っていた少年が、ダスターの腕を止めたのだ。
「んだよ、ガキ! 邪魔してんじゃねぇ!」
止められていないもう一方の手が少年の顔面に向かうが、少年はそれを華麗なバックステップで躱す。酔っている人間の動きとは思えないほど、その動きは俊敏だった。
2回の攻撃が不発に終わったダスターは、落ち着いて少年の姿を確認した。
「おい、マスター! いつからここは子供の遊び場になっちまったんだ? ここは昔から酒と女が溢れる『大人の町』だったはずだろ⁉」
「私にそれを言われても困る。それに、ダスター。それ以上するなら外でやってもらえるか?」
「マスターもそっち側かよッ! もういい、とりあえずそこのガキ、お前からやってやるよ!」
ダスターが本気で少年に向き合う。そして、その巨大な体躯を使って一直線に少年の身体めがけてタックルを放つ。
少年は先ほどと同様、軽やかな身のこなしでそれを躱し、ダスターの足元に蹴りを入れる。体勢を崩したダスターは大きな衝撃音を伴ってそのまま床に直撃した。
酒が入っていたこともあり、彼は完全に伸びきってしまった。
呆気に取られつつ、クロップは口を開いた。
「……驚いた。酒が入っているとはいえ、ダスターはB級の中でも上澄みの剣士だ。それをこれほど簡単に──」
「黙って聞いてりゃ、ガキだの、子供だのと! そんなに俺が幼く見えるかよ!」
「え?」
少年の目には悲憤の涙が滲んでいる。その姿は体格差が1.5倍程度ある剣士を一人で戦闘不能にした英雄にはとても見えない。
「なんだ? 身長か⁉ それともこの顔か⁉ なんだって俺をこう子ども扱いするんだッ⁉ そもそも俺は、19歳! 一年前に成人を迎えた、歴とした大人だッ!」
確かに、少年は19歳という年齢を信じさせないほどの童顔だった。
小顔で丸みを帯びた顔立ちと、黒目の大きいパッチリとした目つきは、女性と見間違うほどだ。更に、それに拍車をかけるように彼は低身長だった。さっきまで座っていたカウンターチェアでは足は勿論宙ぶらりん。背中に羽織った大きめのマントは、着ているというより、着せられているという表現が似つかわしいほどに分不相応だ。
クロップはかける言葉を失い、沈黙のまま佇んだ。
特にやることがなくなった少年は再び酒を求めてカウンターへ戻っていった。
「あぁ……クソッ! 嫌なこと思い出した! マスター、もう一杯!」
「はぁ……ったく。わかったよ。面倒ごとを未然に防いでくれた礼だ。次の一杯はサービスしてやる」
「まじすか! やり~!」
しばらくすると、店主はジョッキを三つ運び出し、それぞれ一席ずつ空けて座る三人のカウンター客に振り分けていく。一つ、二つと置き、三つ目のジョッキを少年の前に置いた。少年はジョッキを力強く握り締め、空中に向かって押し出した。
よく見れば、カウンター席には少年のほかに二人の女性が座っていた。
「子ども扱いなんて──」
「パーティ追放なんて──」
「婚約破棄なんて──」
「「「──クソくらえッ」」」
少年一人のはずだったその乾杯に、二人の声が連なった。それは、当然の如く示し合わせたものではない。
一人は、自分の年齢にそぐわぬ接遇について。
一人は、自分が所属していたパーティから受けた追放という処分について。
一人は、自分が過去に結んだ婚約という名の契約を破られたという屈辱について。
それぞれ対象は全く違うが、『自分の扱われ方に対する不服』という一点のみで、三人の叫びは重なった。
この物語は、不服を抱える三人が出会い、やがてかけがえのない仲間へと昇華するまでの葛藤と経緯を記した冒険譚である。
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