第24話「次の土地神は、どこで死んでいるか」
翌朝、六時に宿を出た。
宿の主人が玄関まで出てきた。何も言わなかった。ただ頭を下げた。縁も頭を下げた。それで十分だった。
村を出る道に咲が立っていた。
神主の装束ではなく、普段の服だった。縁が車を止めると、咲は助手席の窓に近づいた。
「気をつけて」
それだけだった。縁はうなずいた。
バックミラーの中で、咲の姿が小さくなった。村の入り口の木立が通り過ぎた。
比奈木村が、後ろになった。
山道を抜け、県道に出た。
縁はしばらく走り続けた。ラジオをつけなかった。音楽も流さなかった。
正午近くなって、道の脇に車を止めた。
助手席に置いたスマートフォンを取り上げた。調査中は通知を止めていた。未読の表示がいくつかある。仕事の連絡。知人からのメッセージ。それらをスクロールして——
手が止まった。
差出人:桐谷 隆
受信時刻は、五日前だった。比奈木村にいた頃、縁が通知を止めていた間に届いていた。
件名:頼まれていたことについて
縁はしばらく画面を見ていた。
三年前に消えた人間からのメールが、いまここにある。
「頼まれていたことについて」——頼んだ覚えはない。いや。桐谷が最後に残したメモのことを考えた。『あとは頼む』と書いた人間が、何かを受け取って、返信している。
開けばわかる。
縁の指が画面の上にあった。
開かなかった。
スマートフォンを助手席に置いた。
今ではない、という感覚があった。これは今すぐ読むものではない——直感がそう言っていた。
(桐谷先生は生きている)
それだけで、今は十分だった。
エンジンをかけた。
ハンドルを握った。
前を向いた。
直感が、また何かを感じ始めていた。
今度は、止めない。
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「土地神殺し ―比奈木村の百年祭―」 完
「土地神殺し」最後までお読みいただきありがとうございます。
この作品はWEB小説の右も左もわからないまま書き始めた初期作品の一つです。
文字送り、改行、シーン転換等、作法もできていないまま文章に起こしたものでしたが、最後まで投稿を続けようと思い今日にいたりました。
途中から形式を変えるのも違うかな、と思い、形式を変えずにそのまま投稿を続けましたが、やはり読みにくかったですね。続きを書くときがあれば、その際にリライトしたいと思います。
そのような中、ここまでお付き合いいただけたこと、感謝の限りです。
ありがとうございました。




