第1話「百年目の秋に、神主が死んだ」
はじめまして、霧原 澪です。
山奥の閉鎖的な村を舞台にしたホラーミステリです。
全24話、毎日10時更新。
神主が崖下で死んだ。
百年前に塗りつぶされた神の名前。
消えた子供。笑顔を崩さない村長。
一つずつ剥がしていく物語です。
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
※本作はAI(Claude)を活用してプロット設計・執筆支援・推敲を行っています。
※R15:子供の死、人骨の描写、火災シーンを含みます。
山が近かった。
県道から分岐した一本道を十五分ほど走ると、ガードレールの向こうが全て急斜面になった。十月の末、木々は燃えるように赤く、午後の光を受けてじっとりと輝いている。集落というより散居と呼ぶべき場所だった。山の斜面に張りつくように、十数軒の家屋が間隔を開けて点在している。人口は四十人を切ると案内サイトにあった。
宮乃木縁は助手席に投げたノートに目を落とした。
「比奈木神社、百年祭。今週末」
それだけが走り書きしてある。民俗学系のフリーライターとして全国を渡り歩いて三年——百年に一度の例大祭はそう珍しくない。しかしここへ来ることを決めたのは、仕事の依頼ではなかった。
直感だった。
古い神社には、名前を変えた神が宿ることがある。棟札を読むと分かる。塗りつぶしの痕跡、元の神の名の残滓。縁はそれを見つけるのが得意だった——得意だった、と過去形で考えるようになったのは三年前からだ。
駐車場と呼べるかどうかもわからない空き地に車を停めると、軽トラックから降りた男に声をかけられた。
「記者の方ですか」
五十代の顔だったが、疲れが年齢を上乗せしていた。
「フリーのライターです。百年祭の取材で」
男は口をへの字にした。「そうですか。あいにく今日は——」
言いかけて視線が路肩の先に流れた。縁もその先を追った。
消防の白いワゴンが一台、道端に停まっている。百メートルほど先、黄色いテープが風に揺れていた。
「何かありましたか」
「……神主が、亡くなりまして」男の声が落ちた。「津島守さんが。崖の下で見つかって」
詳細を知るのに一時間かかった。
津島守、68歳。比奈木神社の宮司を三十年以上務めた男が、神社裏手の崖下で発見されたのは今朝8時すぎだった。散歩中に気づいた村人が通報し、警察が現場を確認した。駐在の見立ては「転落事故」。これ以上の捜査は現時点で行わない、との話だった。
縁は境内の外から現場の方向を見た。黄色いテープの向こうに崖の上縁が見える。
違和感があった。
何に対してとうまく言えない。ただ、崖縁の土が黒く湿っているように見えた。昨日は晴れだった。少なくとも天気予報には雨のマークがなかった。
踏み固めたような跡——と思ったのは気のせいかもしれない。距離がある。光の加減かもしれない。
縁は視線を足元に落とした。自分の靴のつま先。
(また直感に従ってしまった)
この感覚を信じるたびに、何かが壊れる。それを知っているのに。
取材メモを開き、ページの端に小さな文字を書きつけた。
「また直感に従ってしまった」
書いてから、ペンを止めた。文字を見る。消しはしなかった。
日が傾き始めた頃、村長の三倉巌が現れた。
白髪で温厚そうな顔をした68歳だった。名刺を差し出す手は大きく、日焼けしている。
「遠くからよく来てくださいました。何でもお手伝いしますよ」
柔らかい声で言う。笑顔が崩れない。
「百年祭の準備はどうなりますか。神主が亡くなった今」
三倉は一瞬だけ目を細めた。それだけだった。
「守さんには孫娘がおります。咲といいます。十九歳で、神職の資格はありませんが——ここは彼女の神社ですから」
縁は本殿を見た。赤い鳥居が夕日に染まっている。百年祭まで、あと三日。
「もう少し村に留まっても構いませんか。守さんのことも含めて、取材させてほしいのですが」
三倉は笑った。
「何でもお手伝いします」
一度目と全く同じ言葉だった。全く同じ笑顔で。縁はそれを見て、なぜか財布の中の取材費を計算していた。なぜそんなことを考えたのか、自分でもわからなかった。
村に泊まることにした。
直感が、そう言っていた。今度こそ——と思いかけて、縁はその続きを頭の中で消した。
もう一つの連載「AIに仕事を奪われた僕は、感情を持つ君を拾った」
(以下「AI僕」)から来てくださった方も、
ここから初めての方も、ありがとうございます。
前作は2041年の近未来SF。今作は山奥の村のホラーミステリです。
振り幅がおかしいのは自覚しています。
主人公の縁は「直感」を信じられなくなったフリーライター。
僕も物書きとして、自分の判断を信じられなくなる夜があります。
「これ面白いのか?」「この展開で合ってるのか?」
その不安ごと、この物語に詰め込みました。
崖の下で見つかった神主は、なぜ死んだのか。
縁と一緒に、考えてもらえたら嬉しいです。




