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武術と武芸とまでは行かない

南の区画は老役人、コシダ・ゲンジロウにまかせることとなった。

しかしそれだけでは人手も足りなかろうということで、ナンブ・リュウゾウは男爵さまに一筆。

真面目で男爵家、あるいは王国への忠誠心厚い、有能な事務方を派遣されたし。

という文である。


その者を片腕に、南区画の世直しをするということにした。

これでほぼほぼ、南区画の問題は肩がついたというところだ。

ただし、まだ問題はある。


北区画にあるナンブ・リュウゾウ一派を頭とするならば、手足となって働いてくれる人材である。

いま現在親衛隊の面々が各剣術道場へ檄を飛ばしに回っているが、南区画はあまり武芸に熱心ではない。

どれだけの人材が集まるやら。

その辺りはナンブ・リュウゾウも気にかけているというか、好き者であるから、先程からフカフカの椅子に腰かけていながらソワソワし通しである。


「殿、そろそろ徴募の具合でも視察にまいりますか?」


「おぉ、そうだな。カグヤたちにばかり任せてはおれんからな」


素早く椅子を降りるや、いそいそと支度を始める姿に、つい舌打ちしてしまう。

他のことに関心は無ぇのかよ、と。

しかしこの男、イズモ・キョウカと婚約してからこっち、あのタヌキになにやら入れ知恵されているらしく、経済云々にも目を配っていやがる。

おう、タヌキ。あんまり生半可な知恵つけんじゃねーよと、毒づいてやりたくなる日々だ。


「なな、ヤハラどの。早う剣術見に行くべよ、ホレ!」


まるで物見遊山の芝居見物にでも行くような無邪気さだ。

いや、私は無邪気という文字をバカと読みたいのだが……。

執務室をコシダ・ゲンジロウにまかせ、北区域面々は市中へ繰り出す。

もちろん私も一緒。


「クサナギ先生、南区画いったいではどのような武術が流行っておりますかな?」


旅人気分のナンブ・リュウゾウは、気楽そうな顔で師匠に問う。


「そうさな、建国当時のカビが生えたような剣術を、旦那連中が有難がって金をおとしているってとこかな」


「それは合戦や戦さにおいて南部無双流遅れをとること無し、と解釈しますぞ」


「俺の剣術以上があるなら、かかって来やがれってんだ」


まあ、そうだろうな。

クサナギ先生が一敗地にまみれ、歯ぎしりして未熟を悔やむ姿など想像もできない。


「しかし先生、それはそれで問題ですな。南区画を守る剣が存在しないということになります」


「なになに、どこの世界にも英雄はいるものだ。どこからともなく、トンパチは現れるもんだ」


トンパチとはどういう意味だろうか?

すくなくとも私に関係ある単語ではなさそうだ。

とか言っていたら、道場に到着。


「ナンブ男爵さま三男、ナンブ・リュウゾウさま御入場!」


玄関で番を張っていた者が宣言する。

私たちが玄関から上がって道場に入ると、親衛隊も門下生も膝を着いて出迎えてくれた。


「いや、邪魔をしたかな? 審査を続けてくれ」


ナンブ・リュウゾウが言うと、親衛隊隊士が立ち上がった。

審査を受けている若者も立ち上がる。

その顔は腫れ上がり、小手もブス色になっていた。


頑張っているんだなと思ったが、道場には稽古と無縁の者たちもいた。

上物の羽織を着た大旦那、というような連中である。

おそらくは商家か大店おおだなであろう。


さて、いかなる用向きか?

そう思っている間にも、ナンブ・リュウゾウが反応した。


「イズミ、あそこに控えてるお歴々は何者でぃ?」


「南区画の治安を安定させてもらって、商売を円滑に運びたい大店連中よ」


いつの間にか控えていたイズミが答える。


「だとしたら、南部無双流の奥義を披露せにゃならんな」


「あぁ、大将自らな」


ナンブ・リュウゾウは前に出た。


「よし、審査中断! 入隊審査は一時中断だ!」


剣士たちは左右に別れる。

ナンブ・リュウゾウは木刀片手に、道場の中央へ出た。

そして先程の、顔面を腫らした若者を指差す。


「そこの君。そうだ、根性見せとる君だよ。少し相手をしてくれんか? なに、殺しゃしねぇ。ちょいとお客人たちに南部無双流の秘伝を披露しようと思ってな……」


なにをするものか?

とりあえず忍者とクサナギ先生はニヤニヤして、シロガネ・カグヤは天を仰ぎ見ていた。


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