タニマチと武芸の関係に言及はしていないが表現はしている話
南区画では有名人とも言われる猛将、ナンブ・リュウゾウがその剣術流派南部無双流の秘技を公開するという。
道場に集まった応募の者たちは色めき立った。
なにしろ剣術を飯のタネにと集まってきた連中である。
食いつくようにして身を乗り出してきた。
それは観覧席の大店連中も同じである。
「あれがナンブさまの三男坊か」
「いい面構えだ」
「それにしても身の丈は少々寸足らずのようだが?」
「なに達人ってものはみんな身の丈が低いものさ」
などと口々にナンブ・リュウゾウを評価している。
さて、我らが愛しの寸足らず、ゆったりと懐も大きく木刀を構える。
「まずは一手」
「応!」
と飛びかかる勇敢な若者。
遠慮もへったくれもなく面に打ち込んできた。
しかしナンブ・リュウゾウ、これを音も無く受け止め、スルリと流す。
しかし若者はガムシャラに、グイグイと押し込んでくる。
ナンブ・リュウゾウは若者を中心に右へ左へ、クルクルと回る。
「だが、おかしいな?」
不思議な感じだ。
「なにがおかしいかな?」
忍者がニヤニヤしている。
「なんだろう、このおかしさは……そうか! お互いの木刀が離れていないんだ。いや、殿が木刀で相手を操っているのか?」
「正解。あれが南部無双流の手、飯糊さ。触れ合った剣が糊付けしたように離れることなく、それでいて相手の動きを封じ、操る術」
相手をいいように、オモチャにする、という表現があるが、これはまさにその通り。
若者を中心に動いていたナンブ・リュウゾウだったが、いつの間にか彼を中心に若者を操っている。
そしていいように走らされていた若者は、足がついていけずにゴロンと転がされ、毛だらけのスネを観客にさらしていた。
お客さんも大爆笑。
手を叩いての大喜び。
若者もどうにか顔をあげたが、ぜーはーひーひー。
「もう一本お願いします」とは言えない。
息も絶え絶えの様子であった。
「カグヤ、この者を合格とせよ!」
「御意」
いいようにされてすっ転ばされた若者だが、ナンブ・リュウゾウの一声で合格と相成った。
そしてナンブ・リュウゾウは腰に木刀を落とす。
「次は、君。太刀筋が正確だったな」
娘のように美しい少年を指さした。
美少年は木刀を提げて前に出る。
いささか緊張しているようだ。
美少年は中段、いかようにも応じることのできる構え。
ナンブ・リュウゾウは木刀を腰にして無手。
両腕をだらりと開手でさげている。
居合を見せるのか?
私は単純にそう考えた。
どうぞというナンブ・リュウゾウの言葉に応じるがごとく、美少年も躊躇いなく袈裟を打ってきた。
これを寸足らずは半歩さがっただけで太刀をかわし、木刀の峰に手を添えるだけで切っ先を押し下げる。
あらあらあら、と思っていたら木刀は美少年の股間をくぐり、自ら金の宝物を切り落とす格好になってしまった。
寸足らずはまだまだ峰を押し上げる。
木刀の刃は、ますます美少年の聖なる宝物を刺激した。
「ナンブさま! それは少々切のう御座る、いっそ、いっそひと思いに!」
この言葉に、お客さんはまたもや爆笑。
美少年を散々に懲らしめた寸足らずも、ようやく手を離す。
「カグヤ、この者も合格じゃ!」
ナンブ・リュウゾウはまたまた宣言した。
忍者はチッと舌打ちして笑う。
「大将のヤツ、演武相手に手練ばかり選んでやがるな」
「え? 殿はさっき道場に来たばかりだぞ?」
私は疑問に思った。
しかし忍者は難なく答える。
「見ていたんだよ、大将は。そのわずかな時間でな。剣の良し悪しを」
そのナンブ・リュウゾウは三人を指名する。
何を始める気か?
今度は木刀をシロガネ・カグヤに預けてしまった。
襲いかかる若者たち。
そこに太刀が降ってくると知っていたかのように半歩だけでかわすナンブ・リュウゾウ。
その小手を取り、一人をひっくり返す。
当然ナンブ・リュウゾウの動きは止まる。
そこへ打ち込まれるひと太刀。
しかしまるで誘いでもあるかのようにナンブ・リュウゾウはかわす。
ただの半歩でだ。
そして事前にそこに小手が来ることを予想しちたかのように、当たり前の顔で小手を取り、これもひっくり返した。
先にコケていた者の上にだ。
ここで私も気付いた。
ナンブ・リュウゾウは三人の若者に誘いをかけて、動きを操作していたのだ。
それが証拠に、三人目は打ち込んで来る寸前に小手を捕らえ、大きく投げ飛ばした。
先に折り重なっていた二人の上にだ。
三人の若者たちが、なす術もなく積み重ねられていた。その上に腰を降ろすナンブ・リュウゾウ。
真っ白な扇子をパッと開いて、カンラカラと笑い声をあげている。
これには観客たちも「お見事!」と術席を立って拍手した。
「このナンブ・リュウゾウある限り、南区画は安泰に御座る! されど我ら、熱意溢れど資金は乏しい! 心ある方々はなにとぞ! なにとぞ!」
つまりは実力を見せつけ、提供者を集めていただけなのだ。
なんのこっちゃい。
呆れていた私に、クサナギ先生が耳打ちしてくれた。
「いくら強くても、それだけじゃ腹は膨れないからな」
そんなリアルな話は私の領分だろうに。
ナンブ・リュウゾウに財布の心配をされるとは、算盤方としては情けない話である。




