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ヤハラにも不安定なときはある

イズモとナンブは人種が同じなのか、似たような町並みである。

私のような白色人種が好む石造りの建物と、木造に障子や襖の混在した奇妙な情緒の街の作りであった。

しかしそれを抜ければ田園風景。


そこはどの領地も同じである。

旅から旅へ。

ナンブの領内で旅をしたかと思えば、今度はイズモ領地での旅。


まるで流浪の民ではないか、私たちは。

なにかこう、おのれの安定しない身の上すら笑えてくる。

そして戦い、また戦い。


三男坊なのだから、なにもかも戦って掴み取っていくことは仕方ないのだろうが、それにしてもナンブ・リュウゾウ、精力的すぎる。

私などはあれやこれやと気を揉んでいるというのに、単純な人間というのは幸せなものだ。


本当に幸せなのだろうか、ナンブ・リュウゾウ?

ふと思う。

貴族の家に生まれている。


だから貧乏人のくるしみは知らない。

しかし彼は彼なりに貴族社会というものの息苦しさを感じているのではなかろうか?

それ故の戦さに継ぐ戦さなのではないだろうか?


コイツはコイツで、身悶えするような生きづらさを感じていたりするのだろうか?

ナンブ・リュウゾウ、その行動は簡単である。

生きるか? 死ぬか? それだけしか無い。


むしろ己の人生をシンプルにまとめているのではないだろうか?

そんな仮定を投げかけてみよう。

そうして単純な生き方に自分を作り上げてしまえば、貴族社会の煩わしさなど気にせず生きられよう。


しかし、乱世では英雄だろうが平時に生きていて良い人種ではない。

世が平らげば、また息苦しさしか感じないんだぞ、ナンブ・リュウゾウ?

そのとき君は、どう生きようというのか?


もちろん世の中の生き難さを感じているのは、ナンブ・リュウゾウだけではない。

庶民一人ひとりがすべからく感じていることだ。

集団の中に暮らすには自分を偽り擬態して、人との関わりに気を揉んで、職種によっては朝から晩まで働き詰め。


頼んでもいないのに身分の差をつけられ、弱い者がさらに弱い者を見つけ、叩いて喜んでいる。

弱い者は叩かれるのがイヤで、集団を形成する。

ほら、また小さな集団ができた。


みんな生きることには苦労している。

そんな中ナンブ・リュウゾウは、集団の先頭を歩いてゆく。

小さな集団の期待を、未来を背負いながら、生きるか死ぬかしか無い荒野を歩いている。


ときに口にするのは、国家存亡などという単語だ。

この上君はまだ、国家を背負おうというのか?

王室の旗の元に、生き死にを賭けようというのか?


確かに私はこの男に賭けてみようと思った。

差し支えなければ「友」と呼んでもかまわぬほどに親しくもなった。

ならば友よ、私に国家存亡を背負うだけの器はあるのだろうか?


私はナンブ・リュウゾウという男の手綱をとっている気でいた。

しかし彼の方が実は、私の鼻グリを握っていたのではないのだろうか?

俺が君を離す訳なかろう?


そう言ってナンブ・リュウゾウは笑いそうな気がする。

そして死地へ赴くに、私のことを誘うのだろう。

「ゆくぞ、友よ。死地が俺たちを待っている」などと言って。


俺が君を離す訳がなかろう。

いま一度、ナンブ・リュウゾウの言葉を幻聴で聞く。

どこまで昇り詰めようとも、俺には君が必要なのだよ。


似合わない爽やかな笑みが、すでに目の前に浮かんでいた。

ウソを言え、ナンブ・リュウゾウ。

私は幻の主君に背を向けた。


お前にはもう、さまざまを相談できる兄上がいるではないか。

私などはもう、必要ないはずだ。

そうすると幻のナンブ・リュウゾウは私の腕を掴んだ。


兄上は兄上だ。

君ではない。

ともに戦場を駈けて泥を噛み、剣林弾雨をくぐり抜けるのは、君しかいないんだ。


そんな場所に連れて行くなよ。

軍師とか大将ってのは後方に控えてるもんだろうが!

するとヤツは意外そうな顔をする。


俺ひとりじゃ、敵の陣地の急所を、見抜けねぇんだよ。

行こうぜ、行くんだよ、なぁヤハラ……。

いやらしくからみついてくる幻覚を、頭から振り払った。


しかしあの男、どこまで行こうというのか?

その視線の先にあるものは何なのだろうか?

私には、「死」という不吉な文字しか見えないのだが……。





夕刻には目的地の手前の街。

ここで全員お得意の変装をする。

明日の朝の出発には、バラバラに出てゆくのだ。


宿に入るのではなく、イズモ・キョウカが会長をつとめるたぬき商会という商いグループの倉庫に泊めてもらう。

食事、夜具、酒などの手配はすでにされていた。

ここで、明日の行動予定を確認する。


まずは町へ入るなり造り酒屋、藤兵衛に入る。

その店の倉庫が集合場所で、すでに手配はできていると、ダイスケどの。

そこで支度を整え、無頼どもの拠点である繁華街へ。


無頼どもの大将はゴーギーという野盗もどき。

これはまず、首を取りたいという。

なんでも殺し盗み火付けに拐かしと、悪事ならばなんでもござれという悪党らしい。


あまりに凶暴なので、捕り方町方もほとほと手を焼いていたそうだ。

そして取り巻き連中が三〜四人。

これも首を飛ばしたいということ。


凶悪犯と呼べるのはさらにいるが、身元の確認など不要で片っ端から斬り捨てて構わないということだ。

「なるほど、話が早いや!」

みちのく屋の男衆から声があがった。


確かにその通りだ。

大変に話がわかりやすい。

敵と見ればすべて斬れ。


しかしそれでは軍師の出番は無くなってしまう。


「不満そうだな、ヤハラどの」


ナンブ・リュウゾウは笑いかけてくる。


「これでは拙者の仕事がありませぬ」


「不満かね?」


「軍師は軍師の仕事をしてこそ軍師にござる!」


当たるべき相手ではないのだが、ついつい墳然としてしまう。

しかしナンブ・リュウゾウは軽く受け流す。


「軍師の仕事をしなくとも、ヤハラどのは俺に必要なのだ。すまんが付き合ってくれ」


気遣いなど下手くそなくせに、私には頭を下げる。


「赤子の手をひねるような仕事だろうが、知恵をさずけてやってくれ」


キャラクターのモデルは私の友人知人なのですが、今回でようやくヤハラがヤハラとしてひとり立ちした気がします。

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