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イズモ領地での戦闘

さて、夜が来た。

とはいっても、たぬき商会の倉庫ではない。

すでに敵地。


造り酒屋の倉庫で戦さ支度の最中である。

ナンブ・リュウゾウ隊の面々はすべて黒羽織に黒袴の黒ずくめに、真っ白なたすきがけ。

額の鉢巻も鉄を飲んだ白鉢巻。


それに剣術稽古用の胴をつけて、甲冑武者などにくらべればはるかに身軽な戦さ拵え。

これに脚絆で袴の裾を絞り、足さばきも軽やかなものであった。

イズモの若君ダイスケどのは、陣笠に軍配と、立派な指揮官姿。


そのわずかな手勢は股引に脚絆の捕物装束である。

合戦前の腹ごしらえ、造り酒屋が握り飯を振る舞ってくれた。

ナンブ領、イズモ領、ともに独自の文化を持ち合わせていて、どちらも米を主食としていた。

パンの食文化で育った私などは、箸ひとつ使うのにも慣れが必要だったものだ。


「リュウの字、ヤハラくん。これが現場の見取り図だ」


ろうそくの灯りの下、ダイスケどのが図面を広げた。

宿の間取りのようである。

洋風建築だ。


一階がバーになっている。

そして入ってすぐ、二階への階段。


「二階の一番奥の部屋に、頭目のゴーギーがいる。それまでの部屋にも、悪党どもがうようよしている」


「片っ端からシラミつぶしですな」


「そう、とくにゴーギーは油断ならん」


「では最奥にはカグヤ隊長にクサナギ先生、お願いします」


「ヤハラどの、俺を忘れてもらっちゃ困るな」


ナンブ・リュウゾウがにやにやと笑っていた。


「一番危険な場所に、殿をやる訳にはいきませぬ」


「しかしオイラが行かなきゃ話にならん、のう兄者?」


「うむ、お家の事情もわかるがヤハラくん。折れてはくれないか」


義兄義弟の出撃で、巨悪の首を討ち取る。

そのような手柄を与えたいのだろう、イズモ伯爵は。

要するにこの領地でのリュウゾウ人気を高めたい。


イズモ・キョウカの婚約が格落ちなどではないことをアピールしたいのかもしれない。

大人の事情というやつだ。

そして大人の事情というやつは、ときに私たち若者を救ってくれる。


「なに、心配はいらんよ。ヤハラくん、リュウゾウを斬れるヤツなんざ、早々いやしない」


クサナギ先生に言われては、ナンブ・リュウゾウを配置しない訳にはいかない。


「兄者、他に手練と見えるのは?」


「うむ、今夜は大規模な賭場が開かれているようだ。みなこのバーに集まっている」


「でしたら親衛隊はバーに配置しましょう」


「みちのく屋の郷士たちは?」


「必ず逃亡者が出ますので、隣家の屋根に槍を持たせて。それと裏通りや辻辻に人数を裂きます」


「采配はお任せするぞ」


私の考えで人数を割り振り、それぞれの配置を決定した。

それを告げたところで、殺気がみなぎる。


「では各々方……」


イズモ・ダイスケが立ち上がった。


「討ち入りにござる!」


出口に近い者から次々と表に出た。

私はナンブ・リュウゾウとともに殿《しんがり》である。

そしてイズモ・ダイスケ。


これは巨体を馬上に乗せる。

信じられないほどに身軽であった。


「ゴーギー討伐隊、出撃!」


イズモ・ダイスケの号令ひとつ、隊は駆け足で現場へ向かう。

なにしろ百を越える手勢だ。

目立つことはなはだしい。


あっという間に見張りの者に見つかり連絡に走られる。

しかしそこは勢いだ。

真っ先にダイスケどのが賊の拠点に到着。


「イズモ伯爵次男イズモ・ダイスケ! 御用の筋あって詮議いたす!」


脊髄反射のような速度で、宿から若い者が出てきた。

口々に罵声を吐き出している。

しかしその一人を、ダイスケどのは一発殴りつけた。


色めき立つ若い衆などまるでいないかのように、ダイスケどのは続ける。


「手向かいいたすは斬り捨てるぞ!」


その頃にはリュウゾウ軍が追いついた。

追いついたというよりも、そのままの勢いで宿の中へ飛び込んだ。


「なんだこの野郎!」


「なにしに来やがった!」


立ちふさがろうとした者を、ナンブ・リュウゾウの剣が切り裂く。

悲鳴があがる。

血煙が上がった。


「みちのく屋二班三班、となりの宿へ! 屋根を押さえろ!」


私もついつい興奮した。

戦士たちの熱気にあてられている。

命令口調になってしまった。


いけない。

軍師たる者は常に冷静でいなくては……。

しかし目の前で私の命令一下。


屈強な男たちが順序よく行動してくれるのは快感であった。


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