二人きり
「ヤハラどの……」
ナンブ・リュウゾウは真面目くさった顔で私を見る。
「君は可憐な娘が嫌いなのかね?」
「そのようなことはありませぬ」
「その割にキョウカどのには冷たいと思うのだが……もしや、衆道を好むとか?」
「そのような趣味はございませぬ」
「そして意中の相手は、この俺?」
「無ぇっつってんだろ、このタコ助が」
「なるほどそれなら話が通る。ヤハラどのは俺の婚約者に焼いておるのだな?」
「話聞けや、サル」
「しかし俺はケツは貸してはやれんぞ?」
「出すなやケツを引っ叩くぞ」
「まあ冗談はそこまでにして、なぜそこまでキョウカどのを毛嫌いする?」
「得体が知れぬからです」
「より具体的には?」
「ナンブの領地を己の財布としかねません、あの女」
「それだけならば、彼女はもっと高望みできただろうな。なにしろ伯爵令嬢、しかも引く手数多というではないか」
「…………」
「それになヤハラどの、財布の金を使うなら、財布の中身を増やしてからだぞ。キョウカどのはそこを心得ておる。いや、下手をすればナンブの財布より、豊かな財布を所持している」
そこは少し魅力的である。
「むしろヤハラどの、いざ合戦の折にキョウカどのに金の無心を申し込まぬようにせんとな」
それは洒落にならない。
あんなタヌキに戦争費用の無心などしようものなら、生涯頭が上がらなくなるぞ。
「俺としてはあの小さなお尻に敷かれてみたいとは思っておるのだが」
「やめておきなされ、殿。どのような目に遭うかわかりませぬぞ」
「なに、夜になったら床の中で徹底的に成敗してくれるわ」
まったく……床のことしか頭に無い男だ……。
しかしそれは裏を返せば、イズモ・キョウカにゾッコンということになる。
御世継ぎの心配は要らなさそうなのだが、よほどモテなかったのだろう。
いま現在、私の目の前で鼻の下を伸ばし切っている。
「殿、万が一。……万が一の話でござりますが、キョウカどのが不義を働いた場合、いかがなさいます?」
「知れたことよ」
ナンブ・リュウゾウの目が戦士の輝きを放った。
「そんな血を家に入れたら後々の禍根となる。あの女を斬るしかなかろう」
よかった。
婚約に浮かれていてもナンブ・リュウゾウはナンブ・リュウゾウであった。
いざとなれば何者であろうとも、斬る覚悟はできている。
御家第一、王室第一。
それを乱す者は何者であろうとも斬る!
その覚悟を確認することができて、私も安心した。




