段取り
是非とも飛び道具は強化したい。
そのように考えていた私に、ふと疑問がよぎる。
クサナギ先生とシロガネ・カグヤが担当していた南区画、東区画の兵はいかなる具合なのか?
「まだまだ訓練が足りんな」
にべもなく答えるのはシロガネ・カグヤ南区画担当。
「剣士として育てるには時間がなさ過ぎる」
そう答えるのはクサナギ先生、東区画担当。
確かにその通り。
ほぼほぼ素人の集団に近接戦闘の極みである剣術を仕込むのは大変な仕事である。
決して無責任な発言ではない。
ならばその素人、どのように用いるか?
クサナギ先生は言う。
数が必要な槍兵、弓兵にしてはどうか?
そう、このニ兵は数が必要。
この兵隊が活躍する場面で不利を演じていては、話にならないのだ。
長距離戦闘の飛び道具で押し、前進して槍兵同士の展開で押し、剣士団の突撃で決定打を浴びせる。
それこそが兵法であり兵の運用なのだ。
ならばと相談を持ちかけてみる。
「南の兵、東の兵を槍、弓として用い、北区画の兵で決勝とする案はいかがでしょう?」
「弱兵に序盤をまかせるのか……」
シロガネ・カグヤは渋い顔をした。
「しかしこの場面は数こそが物を言います。それに、いつまでも弱兵のままなナンブ衆でもありますまい」
「うむ、軍師どのの言う通りだな。クサナギ先生、どちらが弓、槍を担当します?」
「南の兵は未熟かもしれないが、士気は東を凌駕している。そちらに槍を受け持ってもらおう」
「では弓はクサナギ先生ということで。そうなるとナンブ領全体の大規模演習が一度必要ですな」
「親父どのに打診しておこう。そうだな、男爵ナンブ・トラヒコ軍と倅リュウゾウ軍に分かれての演習としよう」
「忖度は必要ですかな?」
形の上で、男爵さまに勝ちを譲ることにするか否か。
「必要なかろう。ヤハラどのも存分に腕を奮ってくれ」
こういう男だ、ナンブ・リュウゾウ。
王国のためとあらば、その辞書に遠慮の文字は無い。
「なに、親父どのにはイズモ伯爵に対し、ナンブ領総動員の演習開始に御座候と、大威張りで報告してもらおうじゃないか」
こいつ、忖度なんぞしないとホザいていたから、男爵さまの兵をコテンパンにするつもりだな?
私にはその意図が透けて見えた。
ただし、だからといって退位を迫り爵位譲渡までは考えてはいない。
貴族というもののスケベったらしさは学園でイヤというほど思い知らされている。
そのスケベったらしさの矢面に、男爵さまを立たせ続けるつもりなのだ。
この腕力番長は。
そして爵位譲渡までに、ナンブ家を王国にとって切っても切り離せぬ存在にするつもりかもしれぬ。
そのためには戦さ、そして存分の働きと勝利である。
伯爵クラスの家柄にとって、勝ち戦さのお膳立てをしてくれるナンブ家は重宝である。
そう思わせるのが良策と三男坊は考えているに違いない。
とはいえ、ナンブ領全体演習というアイデアは買いである。
わが軍勢の力量やいかに?
それを見極めるには良い機会である。
そこで足りぬものがあれば、合戦前に私が準備すれば良いことだ。
忍びの者から連絡が入った。
ドルボンド国は国債により資金を得て、軍備増強を開始したという。
これはワイマール軍が先手をとれたというに等しい情報であった。
少なくともワイマール軍において、イズモとナンブは軍備増強どころか総合演習を行うまでになっている。
二歩も三歩も先んじていると言えた。
そこで私は一計を案じる。
「殿、いざというときにはすでに布陣できているくらいが上の策とは思いませぬか?」
「それは確かに、そうだが。なにか策があるのかね?」
「開戦間近というときには、ナンブ・イズモ両家で辺境伯の元へ押しかけ、ド軍駆逐の手助けをしましょうという確約をしておくことです」
「なるほど、なればイズモ伯に一番に打診。その上で辺境伯近隣の男爵家子爵家にも援軍を頼もう」
つまり開戦間際で、辺境伯を支援する布陣を敷いてしまおうというのだ。
できればその折には、第四王子にその指揮を仮にもとっていただきたい。
そうでなければ烏合の衆はまとまらないからである。
男爵さま、そして伯爵さまが八面六臂の文のやりとり。
そのおかげで第四王子アーサーさま率いる三軍が、大軍でもってドルボンドを迎え撃つことができるようになりそうだ。
そして私は各領地の参謀どのたちと意見を交換するようになった。




