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第7話 海の竜



 私は、大きな船に移された。

 船は豪華で、ドレスの女性も何人か乗っている。その中の1人が私に近づいてくる。私は、ゆっくりと泣きはらした目でその女性を見た。


「 酷い顔ね。まあ、いつもの事だけど 」


 忘れはしない、私を囮にして逃げた花見坂だ。綺麗なドレスを身にまとい、宝石のついたアクセサリーを沢山つけている。そして私を一瞥した後、私を無理やり捕らえた男の腕に抱きついた。


「 レオード様、この女に力なんてあるわけ無いわ。やっぱりただの役立たずよ。海に捨てましょう 」

「 駄目だ。陸に着いたら覚醒させる。女神の力は自分の大切な人を守る時か、自分が命の危険に晒された時に覚醒する。彼女も死にかけたら覚醒するだろう 」

「 ふーん。こんな女がね 」


 言いたい放題言われているが、私の頭の中はユリクアさんの事でいっぱいだ。花見坂とかレオードとか呼ばれた変態男とか、女神の力とかどうでも良い。

 私はユリクアさんが一番大事だ。ユリクアさんのためなら何でもできる。

 やっと自分の気持ちに気づけたのに、こんな奴らにめちゃくちゃにされたくない。何とか逃げ出さないと。


「 逃げようなんて考えるな。君みたいな女性の足を折るくらい簡単なんだ。私は優しいから今はしていないがな 」

「 本当にレオード様ってお優しいわ 」


 この人達は人として何処かおかしい。いや、この世界では私の方がおかしいのかも知れない。

 何故なら、ずっとそんな危ない世界から私は守られてきたから。ユリクアさんは、私が傷つかない様にこういう人達から守ってくれていたんだ。会いたい。彼に会って、この想いや感謝を伝えたい。

 

「 ⋯⋯ユリクアさん 」

「 まだあの魚王子が気になるか。君も変わっているね。私は生臭いのが大嫌いなんだ。陸に着いて、君が覚醒したら花の浮かんだ風呂でしっかり落としてもらうよ 」

「 本当に、生臭くて仕方ないわ 」


 花見坂が鼻をつまんで私を笑っている。だが、不思議と何とも思わない。

 恋とは不思議なものだ。ユリクアさんに嫌われるのは死ぬほど辛いが、この人達に何と思われようが本当にどうでも良いと思える。

 日本ではあんなに周りの目が気になる、暗くて目立たなかった私が、今は別人の様な気分だ。

 彼に好かれたい、彼だけに好きになって貰いたい。だからこんな邪魔な奴らに構っている暇はない。

 私はレオードを強く睨みつけた。


「 私をユリクアさんのところに帰してっ!! 」

「 無理だよ。君はもう私の花嫁だからね 」

「 あんたの花嫁になんか絶対ならないっ!! 帰してくれないのなら、私は自力でユリクアさんのところに帰る⋯⋯ 」


 体の奥から何かが湧き上がってくる。私の全身をそれが駆け巡った後、外に溢れ出す。

 花見坂が私を恐怖の目で見ている。その隣のレオードは歓喜の声をあげた。


「 私の花嫁が女神の力を覚醒させた。この奇跡は私の物だ!! 」


 レオードがこちらに近づいてくる。

 私はもう一度強く睨みつけ、全身から敵意を向けた。

 すると、私の皮膚が硬い鱗に変わっていく。体の形も変形して、大きくなっていくのが分かる。


 ああ、海に住む彼が恋しくて愛しくて仕方がない。私の居場所は彼のいる海だ。彼とこれからも一緒にいたい。喜びも悲しみも分かち合い、暮らしていきたい。そして彼の愛する海の民を、私も愛したい。


 様々な海の知識が私の頭の中に入ってくる。まるで私が海そのもののようだ。


「 何が女神の力よ。あんたはただの化け物じゃない!! 」


 花見坂が腰を抜かして何かを言っている。だが、そんな事は気にも止めず、私は船内の壁を体当たりで突き破り、海に飛び込んだ。


 飛び込む瞬間に私は“ 私の姿 ”を見た。

 私は大きくて、長くて、蒼く輝く竜になっていた。

 そうだ。私は海の竜。海の生き物達の頂点だ。


『 何て気持ちが良いんだろう⋯⋯ 』


 愛しい海を自由に泳ぎ回る。それがこんなに嬉しい事だとは知らなかった。


「 待て、どこに行くんだ。女神!! 私の花嫁よ!! 何故だ⋯⋯。君は私の物だろう!! 」

「 殿下、身を乗り出されては危険です。あれはもう海の力を覚醒させてしまいました。我らでは、どうする事も出来ません。船が沈められてしまいます 」

「 何故海の力など!! 私の役に立たないではないか!! 」


 喚きながら私を追いかけようとしているレオードを、一部の臣下たちが止めに入っている。だが船上のほとんどの人間は私の姿を怯えながら見ている。

 私は彼らに良く見える様に海面から身を出し、睨みつけた。


『 あなた達が今後海に近づく事を私が禁じます。破れば私が直接罰を与えに行きましょう。良く覚えておきなさい 』


 私がそう言うと、不自然な波がたち始める。その波は船を大陸のある方向に流していく。いくつかの喚き声が聞こえてきたが、私は気にする事なくそれを見送った。



『 ⋯⋯ユリクアさんのところへ帰らないと 』


 私は急いであの小島へ向かった。

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