後編
1996年7月21日
下古浜村へ向かう車内。
「うわあああ!」
「びっくりした! 怖い夢でも見たの? もうすぐ着くわよ」
「引っ越しの準備で疲れたか?」
「え!? あ……うん。そうかも」
駐車場として使わせてもらうことになる空き地。
「ねぇ。今日は何日?」
「21日でしょ? そんなことより荷物を運ぶの手伝って。ママはこの後に晩ご飯の買い物があるんだから」
祖父母の家の前。
「……」
「どうした? そんなところで突っ立って。とっとと運び込もう」
「キャー! 誰か助けて! 家がぐちゃぐちゃよ!」
「これは……。たぬきだな。先に掃除をしよう」
掃除をしていて発見した2冊の本を母が持っていく。すると1冊が母の手から落ちた。
「ママこれ……」
母に渡そうと持ち上げた本の中を何気なく見てみると自分の名前が書かれている箇所があった。
「おばあちゃんが僕宛てに書いた日記?」
智徳ちゃん。あなたがおばあちゃんと同じ力に目覚めたときのためにこれを書き記しておきます。
「ママ! ちょっと待って! それ燃やさないで!」
「え? 燃やすってなんでわかったの?」
必死に火を消そうとする智徳。
「あちちっ!」
「どうしたの!? やけどするわよ!」
「……だめか。1文字も読めそうにない……」
無事だった1冊を自室に置いて漁港へ走る。
「日記を詳しく調べたいけど先に遼太君のことを確認しよう」
船着き場。
「……なにを釣ってるの?」
「うん? アジだよ。お前もやる?」
アジを2匹釣った遼太。
「次は智徳の番な」
アジを3匹釣った智徳。そして魚の入ったバケツを受け取る。
「くれるの?」
漁港を出た2人はまた遊ぶ約束をして別れた。
「日記を……。日記を読まないと!」
自宅に帰ると両親はいなかった。
「そうだ。確かこのタイミングで……。うっ……」
めまいがしたが今度は膝をつかなかった。
シャン……シャン……
『祭りの演奏を途中で止めてはならないという村の掟。掟を破った者は海神のための生け贄に選ばれる』
『いやだ! 僕は悪くない! 僕は失敗していない!』
「前より鮮明に見える! 縛られているのは子供だ。その隣で錫杖を持っているのは神主? 着ている服や持っている物から神仏習合の時代かな。それと海神って神話に出てくる神さまのこと?」
透視で見えた事件と自分の体験を照らし合わせる。
「僕は祟りで死んだんだ……。そして生き返った? 時間も巻き戻ってる。僕が演奏に失敗したせいで遼太君も。……そうだ! 村を離れよう! 僕がいなければ2人とも助かる! ……だめだ。パパとママを説得できない。こんな話を信じてくれるはずがない。どうしよう……。おばあちゃんの日記にヒントがないかな」
解決策を求めて祖母の日記を読む。
おばあちゃんは特別な力を持っていました。その力を使って警察に協力し様々な事件を解決していったのです。まずはそのおばあちゃんの武勇伝をご覧ください。
「そういうのいいから生け贄の儀式について教えてほしいんだけど。……最後のページ見よ」
パラパラッ
……こうして美少女巫女探偵の智子はいくつもの未解決事件を犯人逮捕に導いてきたのでした。めでたしめでたし……。
あ、そうそう。長くなったので智徳ちゃんの力とか生け贄の儀式についての詳しい話は2冊目に書きます。そっちも見てね。
「孫の命で遊ぶんじゃねえよ!!!」
祖母の日記を壁に投げつける。
「どうしようかな。2冊目を手に入れるために今回は殺されようかなー。……いやだめだ。また生き返れるとは限らないしもうあんな怖い思いをしたくないから今回が最後の覚悟でやらないと。……そうだ。祭りを成功させればいいんだ。たったそれだけのことじゃないか」
1996年7月28日
祭り当日の下古浜駐車場。
「智徳殿が入ってくれたおかげで負担が軽くなりましたな」
「俺も太鼓を打つためにちょくちょく下に降りるよ」
古浜祭りの前奏が始まった。
ドンドンカカドンドンドンカカドンドンカカドンドンドンカカドン……
「大丈夫だ……。もうあんな失敗はしない」
山車が動き出して太鼓の順番が数巡する。
「数日しか練習していないとは思えないほど上手でござるな!」
「そ、そうかな?」
夜になり古浜神社に到着した。そして山車のぶつかり合いが始まる。
「智徳! 人の声とか聞こえても気にせず打ち続けろよ!」
「え? うん! わかった!」
智徳が命を懸けた太鼓を打つ。
ドンッドドンッドドンッドドンッドドンッドドンドン……
『やめろ!!!』
「……」
『どうせ……』
「……?」
『どうせ今年はうちの子供が生け贄なんだからこんな祭りは意味がない!』
後奏が流れて山車が小屋に戻された。
「ミスなく終われてよかったな。なにか食べようぜ」
「それならば智徳殿に拙者がタコ焼きを奢って進ぜよう」
「やった!」
自室で横になってさっきの出来事を考える。
「叫び声を上げた人って最初はあんなこと言ってたっけ? 祭りがどうとかよく聞こえなかったけど……。もしかして僕の力が強くなってる? まあ演奏を成功させたから関係ないか」
1996年7月30日
下古浜沖の船上。
「入れ食いなんだけど!」
「ポイントがいいからな。ところで智徳。明日空いてる?」
「家の予定とかはないけど」
「祭りのご褒美にバスを借りて隣町の焼肉屋に連れてってもらえる決まりなんだよ。昼前にこの間の駐車場に集合なんだけど」
「行く行く! 絶対に遼太君と行くよ!」
1996年7月31日
下古浜村駐車場。
「……」
「時間でござるな」
「な、なんで……。祭りで問題は起きなかったのに……」
「智徳殿。バスが出るでござるよ」
「待って左吉君! お願いがあるんだ!」
「うん? お願いとは?」
「僕と一緒に遼太君を探してほしいんだ!」
「ふむ……。その様子だとなにか切羽詰まった事情がありそうでござるな。……よかろう。付き合うでござるよ」
「恩に着るよ!」
「確かに遼太殿が焼肉を諦めるとは考えづらいでござるからな」
遼太の家に行き遼太の祖父に話を聞く。
「早朝に家を出た? どこに行ったかわかりますか?」
「……いや。てっきりお前たちと一緒だと思っていたが」
「……そういえば遼太君は前にもいなくなったことがあると聞きましたがどこに行っていたんですか?」
「問い詰めてもあまり多くは言わなかったが隣町に行っていたらしい。しかしその頃の隣町では物騒な事件が何件も起きていたから注意したらそれ以降は勝手なことをすることはなくなったんだがな」
遼太の家の前で話し合う2人。
「焼肉屋に先回りしているだけじゃないか電話で確認してもらったでござるがいないとのこと」
「7時に家を出て11時の集合時間に間に合う距離しか行けないなら遼太君はこの村の中かな?」
「そういえばさっきの話を聞いていて思い出したことがあるでござるが……。前回に遼太殿がいなくなって戻ってきた数日後にこの村の周辺の町で起きていた事件のいくつかが解決したというニュースが流れた記憶があるでござる」
「……」
村の大人たちに遼太を探してもらうよう説得を試みる左吉と別れた。
「遼太君はこの村で起きた事件の捜査をしているんだ。たぶん僕と同じ力を使って……。遼太君は祟りじゃなくて事件に巻き込まれたんだ」
透視の能力が発動する場所がないか自転車で走り回る。
「僕が普段使っている道なら僕も見えたはず。つまり僕の知らない道を探せばなにか見えるかも……」
必死に探すが体力の限界がきた。
「はぁはぁ……。他に探していない場所は僕の家の近くぐらいしか……」
自宅近くの普段は通らない路地の前で疲労により足が止まってしまった。
「ぜ、絶対に助けるんだ……。はぁはぁ……。……うっ!」
するとそこで透視の能力が発動して周囲の景色が変化する。
『……チッ。なんで生きてるんだよ……。虫の息だから今から戻ってもしょうがないし……』
「……夜。男の人が車のトランクからなにかを出して……。そしてそれを担ぎ上げて路地の先に……」
ここで映像が途切れる。
「僕の家の近くでこんなことが……。まさか遼太君は僕の安全のためにこの事件を調べていたということ?」
路地を行くとその道は山の農地につながっていた。
「これは……。農業用の貯水池?」
「ふん!」
「ぐうっ!」
頭部に衝撃を受けて倒れる。目を覚ますと薄暗い部屋の中で縛られていた。
「こいつの言っていたことが本当だったとは驚いた」
「う、ここは……」
よく見ると自分の他に2人倒れている。そのうちの1人は遼太で智徳と同じように縛られて気絶していた。
「遼太君!」
「悪いがお前たち2人には死んでもらう。貯水池に隠してた死体を見られたからな。探偵ごっこなんてしてたからだぞ」
「その女の人は……」
「俺の妻だよ。ここがこいつの実家でな。数日前に俺が一人暮らしをしてたときの殺しを詳細に言い当てやがって自首しないと通報すると脅してきたんだ」
男が智徳と遼太を見る。
「信じちゃいなかったが念のために向こうで殺して運んできたつもりだったんだけどこのザマさ」
男がナイフを持って近づいてくる。
「どうだ? 俺と組まないか? その力があれば大金持ちだぞ?」
「……僕はおばあちゃんや遼太君みたいにこの村を守るんだ!」
「そうか……。じゃあ死ね!」
ドン! ドン! ドン!
「智徳殿! 助けに来たでござるよ! 智徳殿!」
「なに!? なんでここが!?」
なだれ込んでくる村人たち。
「てめぇこの野郎!」
「田舎の監視システムをなめんじゃねえぞ!」
「見慣れない車に子供を2人誘拐とか目立つんだよ馬鹿野郎!」
「ひぃぃーっ! 痛い! 痛い! ごめんなさい! ごめんなさい!」
ボコボコにされる男の横で縄を解かれる2人。
「ありがとう左吉君……。おかげで助かったよ」
「智徳殿が路地に入っていくのを見た人がいたでござる。お手柄でござったな」
男が警察に連行される。そして智徳と遼太は軽傷だったが隣町の病院に搬送されることになった。
「終わった……。これで僕も遼太君も助かった……」
疲労と緊張の糸が切れたことで救急車の中で意識を失う。その直前に遠くから遼太のなにかを訴える声が聞こえた気がした。
「……ふぁ?」
目が覚めると病院のベッドの上だった。
「まだ夜か……。明日から8月だからまだ夏休みは始まったばかりだ。遼太君たちともっと遊ぼう。学校も楽しみだな……」
消灯時間を過ぎた病院は静まり返っていた。
「夜の病院って初めてだけどこんなに静かだったんだ。……それにしても静かすぎない?」
自分がいる相部屋と外の廊下から一切の音が聞こえない。
「なにか変だな……」
違和感を感じたとき聞き覚えのある音が聞こえた。
シャン……シャン……
「……え?」
少しずつ近づいてくる。
シャン……シャン……
「……」
『こじつけですか?』
『祭りと生け贄の儀式は関係ない。生け贄として子供を殺すことへの外部からの批判をかわすために後から祭りを用意したんだ』
『卑劣な……』
『お前の力は子供たちを守るために海神から授かったものだ。巫女の力は成長し他の巫女と共鳴するが成人すると衰えていくから注意しろ』
『……わかりました。私が子供たちを生け贄の儀式や事件から守ります!』




