前編
1996年7月21日
智徳と両親の3人は車で父方の実家である下古浜村に向かっていた。
「智徳は毎年お墓参りで来てるから下古浜のことは知ってるよな?」
「お墓参りが終わったらすぐに帰ってたからお墓があるおじいちゃんの家の場所しか知らないよ」
「下古浜は海沿いにあって複雑な地形じゃないから迷ったりはしない。でも学校までは30分くらい歩くかな?」
「30分って……。2kmも歩くの!?」
「まあ! さすが私の息子だわ! 計算が速い! でもこれからは頭だけじゃなくて体も鍛えたほうがいいわね」
しばらく車窓から海を眺めていたら祖父母の家に到着した。下古浜村の民家は海沿いにある道路に密集して並んでいるので路地の先に自宅がある人には駐車場がない。その場合は近くの空き地を使わせてもらうことになる。
「車を駐めたところから少し歩くことになって不便だね」
「急角度の上り坂の上に家がある人もいるからこんなもんだぞ」
「智徳君も荷物を運ぶの手伝って。ママはこの後に晩ご飯の買い物があるんだから」
荷物を持って細い路地を行くと祖父母の家が見えた。
「この家って1000円で家が建った時代のものなんでしょ?」
「だから鍵とかないに等しいけどな。さあ。とっとと運び込もう」
家に入ろうとしたが先行した母が悲鳴を上げた。
「キャー! 誰か助けて!」
「どうしたのママ!?」
「家がぐちゃぐちゃよ! 泥棒に荒らされてるわ!」
「これは……。たぬきだな」
「たぬき! ここで暮らしてたらたぬきに会えるの!?」
「どうかな? 臆病な動物らしくて滅多に山から降りてこないからパパは会ったことないぞ」
「また現れたら皮を剥ぎ取って敷物にして肉は鍋に入れてやるのよ!」
「たぬきは不味いって聞いたよママ」
「先に掃除をしよう」
掃除をしていると祖母が使っていたタンスの裏から2冊の古い本が出てきた。
「ホコリまみれのボロい本ね。燃やしちゃいましょう」
「なにが書かれた本か確認しなくていいの?」
庭で他のゴミと一緒に火をつける。
「ふはははは! 燃えろ! 燃え尽きてしまうがいいわ! この世のなにもかも!」
「……」
「……家まで燃えないかパパが見てるから遊んでくるといい」
家のことを両親に任せた智徳はとりあえず目の前にある海に向かった。
「海沿いの道路を歩いて下古浜を探索しようかな」
道路を行くと漁港がある道への分岐があった。
「立ち入り禁止じゃなさそうだし行ってみよう」
養殖業者に大きな倉庫と民家もあってその先に船着き場が見えた。近づいてみると数隻の漁船が連なって係留している。
「船から船に飛び移って遊んだらさすがに怒られるかな?」
「そんなことしたら大怪我するぞ」
後ろから声がして驚きながら振り返ると智徳と同じくらいの身長の男の子がいた。
「落ちても海だから怪我はしないと思うけど」
「船は装備を固定するために下から上に向けて釘を打ち込んでる場合があるんだ。その装備だけ外されて釘がむき出しの状態の船もあるってこと」
「それは釣り道具?」
「そう。ここでアジを釣ろうと思って。お前もやる?」
遼太は腰を下ろして準備を始める。
「針が沢山ついてるね」
「これはサビキだ。1番下の餌かごに入れた餌を上下に振ってばらまいたら上についてる餌に似せた針に食いつくってわけ」
遼太は説明しながらアジを釣ってみせた。
「すごい! 2匹も同時に釣れたね!」
「次はお前の番な」
竿を渡された智徳も仕掛けを垂らすとすぐにアジが食いついた。
「3匹もかかったぞ! やるじゃん!」
「えへへ。海底まで丸見えだから魚が針にかかるのが直接見えて楽しいね! この船着き場だと他にどんな魚がいるの?」
「クサフグはハズレでカワハギとか。たまに回遊の関係でブリみたいな大きい魚が迷い込むんだ。……アジは腹の部分にトゲがあるからこのタオルでつかんでくれ」
「ブリ!? 僕も釣ってみたいな」
「見つけたとしても大抵はサビキ釣りをしてるから装備が合わないけど」
釣りを楽しんでいると1人の煙草をくわえた老人がロープをたぐり寄せて船に乗り込むところが見えた。
「あれは俺のじいちゃん」
「なにを釣りに行こうとしてるの?」
「アジとかサバじゃない? イカは夜だし。口数が少なくて無愛想だから聞いても答えてくれないかも」
そろそろ帰ろうとした智徳に遼太は魚が入ったバケツを差し出した。
「くれるの?」
「家族の中にさばける奴はいるのか?」
「大丈夫。僕のおじいちゃんも漁師だったらしいから家の外に魚をさばく場所もあるし」
「それはいいな。ずっと家のキッチンで魚をさばき続けると家に匂いが染みつくから」
漁港を出た2人はまた遊ぶ約束をして別れた。
「ただいま。あれ? パパとママは買い物かな? 魚を自慢しようと思ったの、に……うっ……」
突然めまいに襲われた智徳は膝をついた。
シャン……シャン……
『……村の掟。掟を破った者は……』
『いやだ……。僕は……』
目を閉じてうずくまる智徳に幻覚で見えている人物たちの言葉が聞こえる。そして冷静に周囲の状況を確認した。
「縛られている人がいて……。その側に錫杖を持っている人が……」
智徳は近くで起きた殺人事件を透視する能力を持っていた。
「後ろめたいことをした人に命を狙われるからこの力は絶対にバレちゃだめだ……」
1996年7月24日
下古浜村の海水浴場。
「智徳は泳げるけど海は初めてらしい」
「拙者の水中メガネを使うでござるよ」
「あ、ありがとう」
「こいつは左吉。智徳は俺たちと同じクラスになる」
「ほう。帰省ではなく引っ越しでござったか。しかも同じ学年とは……。よろしく頼み申す」
「うん。よろしくね」
智徳の家の前から漁港までの道路沿いは砂浜が続いていてこの季節は子供たちのための海水浴場になっていた。
「疑問に思ってたんだけど海ってサメが怖くない?」
「サメよけのネットが張られていて大人の監視もあるのでまあ大方安全でござるよ」
まだ足がつく深さを少し潜って海中の様子を見てみた。
「ぷはっ! 魚が見えたんだけどあれはなんだろう?」
「この辺りの砂浜にいるのはベラとかハゼだろう。……もうちょっと先にあれがあるな」
水深2mほどの場所まで移動した。
「智徳殿。ここを潜ってみると面白いものがありますぞ」
「ここからだとブロックみたいなのが見えるけど」
「家の塀に使われる空洞のあるブロックなんだけど中を見てきてくれ」
智徳は言われた通りに潜って確認してみる。
「ぷはっ! タコだ! タコがいた!」
「やはり巣穴を見つけるのが上手いのか今日もいたでござるな」
「ブロックを岸まで運ぼう。智徳がやってみるか?」
「途中で逃げないかな?」
「夜行性だから気づかれないって。俺も手伝うから反対側を持ってくれ」
2人で潜ってタコが入っているブロックを片方ずつ持った。そして海底を蹴りながら岸まで運んだ。
「すごく大きいタコだね! これはどうするの?」
「岩に叩いて弱らせたら頭をひっくり返して内臓を取り出すのでござるよ。拙者がやってしんぜよう」
「じゃあこの後は左吉の家でタコを茹でて刺身にしたやつを食いながらゲームでもしようぜ」
「え? お邪魔していいの?」
「着替えたら拙者の家に来られよ。案内は遼太殿に任せるでござる」
左吉の家に来た智徳はタコの調理を手伝っていた。
「ぬめり取りをやって茹でているので後は刺身にするだけですぞ。しかしさっき見た智徳殿の自転車はかっこいいでござるな!」
「引っ越しの機会に新しいのを買ってくれたんだ。刺身ってことは醤油?」
「うむ。……よしできた。拙者の部屋まで運んでくだされ」
完成したタコの刺身を醤油につけて食べた3人。
「うん! 歯ごたえがあって美味しいね!」
「また同じ場所にブロックを沈めたから取ろうと思えばいつでも取れるぞ。次の日には体感9割ぐらいの確率でいるから」
「タコってそんなに頭がいいんだ」
「レースゲームしようぜ。2プレイで順位が低いやつが交代な」
「承知。智徳殿はこのゲームをご存じで?」
「僕の家にもあるよ」
「では手加減無用でござるな」
タコを食べながらゲームをしていたら遼太が智徳に質問してきた。
「そういえばもうすぐ祭りだけど智徳はどうするんだ?」
「祭りがあるのは親から聞いて知ってたから行くつもりだよ」
「そうじゃなくて太鼓を打ったりするのかってこと」
首をかしげる智徳に2人が説明する。
「下古浜の祭りはやまと呼ばれる山車に子供たちが乗って交代で太鼓を打つのでござる。それを大人たちがロープで引っ張り夕方から夜まで下古浜中を移動して古浜神社へ行くという流れですな」
「下古浜村の先に上古浜村があるのは知ってるか?」
「行ったことはないけど名前だけなら」
「上古浜でも同じ流れで祭りが進行して最後に2つの村の中間にある古浜神社で合流してやまをぶつけ合うんだ」
「それは面白そうだね!」
「でも1つルールがあって祭りが終わるまで太鼓を途中で止めてはいけないのでござる。これを破ると罰として祟られるとか……」
智徳は祟りという言葉を聞いて背筋が凍った。なにせ下古浜村に引っ越してきた初日に透視で殺人事件を見たからだ。
「まあ祟りはどうでもいいとして……。見てるだけより参加したほうが面白いぞ。祭りまで数日しかないけど太鼓の演奏は難しくないから練習しないか?」
「遼太殿は今年から横笛も担当するので智徳殿が太鼓を覚えてもらうと助かるのでござるが……」
「うーん……。じゃあやってみようかな」
「やった! それなら今から神社に行って練習しようぜ」
自転車で左吉の家から古浜神社に移動した3人。
「神社の両脇にある屋根が高い小屋の左側に俺たちのやまが入ってる」
かんぬきを外して扉を開けると中には大きな山車が入っていた。
「何人も人が乗れるくらい大きいね」
「小屋の中は暑いし木の匂いが気になるでござるが拙者たちだけならやまを外に出さずにこのまま練習しますかな?」
「そうだな。他の連中が来るまでならそれどいいか。じゃあ俺がどんな曲なのか一度やってみるから見ててくれ」
近くの山から聞こえるセミの鳴き声をバックにやまに乗った遼太が太鼓を撥で打ち始めた。
ドンッドドンッドドンッドドンッドドンッドドンドンカッドドカッドンッドンッカカカッカッ……
太鼓の正面を打つだけでなく角も叩いて別の音を出していた。
「思ってたより難しそうなんだけど……」
「いや。曲はすごく短いし1番2番もう1回1番の3曲で交代でござる。そして太鼓を終えた人はその隣にある小太鼓に移って太鼓に合わせて正面を打つだけ。太鼓を覚えてしまえば小太鼓の練習は必要ないくらいですぞ」
演奏を終えた遼太がやまを降りた。
「撥は軽いやつを使うといい。覚えたらいい音が出る重い撥を使いたくなるけどな」
「確かに曲は短そうだからがんばるよ!」
「拙者も協力するでござるよ」
途中で集まってきた他の子供たちと一緒に夢中で練習しているとあっという間に夕方になったので帰ることにした3人。
「飲み込みが早いな。もう1日やったら大丈夫そうだ」
「教える拙者たちも楽でござったよ」
「えへへ。そうかな?」
「じゃあ俺の家こっちだから」
「うん。バイバイ」
「また明日でござる」
遼太と別れて左吉と2人になった智徳は気になっていたことを聞いた。
「そういえば遼太君はおじいちゃんと2人暮らしだと聞いたけど」
「ふむ。拙者もよく知らぬが複雑な家庭らしい。大人たちの会話を盗み聞きしたところどうやらご両親は離婚されたとか。そして仕事で忙しい母親が遼太殿を実家に預けたと」
「そうなんだ。でもそんな事情があるとは思えないぐらい性格が明るいよね」
「……遼太殿は少し前に行方不明になったことがあるでござるよ」
「行方不明!?」
「騒ぎになったが次の日にひょっこり帰ってきたでござる。どこに行っていたのか本人は言わなかったが思うところがあるのかもしれぬな……」
1996年7月28日
祭り当日の下古浜村駐車場。
「ここからスタートして下古浜の民家を巡った後に古浜神社でゴールだ」
「智徳殿も服を着替えたでござるな」
「祭りに出るって言ったら父親が用意してくれたんだ。特攻服みたいでかっこいいね。……それにしてもこんなに人が集まるなんて驚いたよ」
「今日だけ帰省してる人もいるな。まあ全員参加が義務みたいなものだし。それよりもう始まるからやまに乗り込もうぜ」
山車に乗ると中央に太鼓とその左隣に小太鼓が置かれている。太鼓を打ち終わったら小太鼓を打って休憩という流れを時計回りで順番に行う。
「智徳殿が入ってくれたおかげで上級生2人と5年生3人と下級生5人となって1人当たりの負担が軽くなりましたな」
「屋根の上で上級生と俺が横笛を担当するけど太鼓を打つためにちょくちょく下に降りるよ」
「ワクワクするね!」
上級生が古浜祭り開始の合図となる前奏を打つ。
ドンドンカカドンドンドンカカドンドンカカドンドンドンカカドン……ドンッカッカッカッカッ! ドンッカッドンッドンッカッカッカッカッ! ドドドドドンッドンッカッドドカッドンッドンッカカカッカッ!
前奏に続いて1番が流れ始めると大人たちが2本のロープを引いてやまが動き出す。
「道路の封鎖とかはしてないんだね」
「やまの進行ルートは路地などの生活道路でござる。やまがどこかにぶつかって揺れることもあるので油断めさるな」
細い路地でやまを動かすのが難しいのか塀に衝突したり時には民家の屋根を破壊しながら進んだ。手すりに掴まりながら時計回りに移動していると智徳の番がやってくる。
「よし……!」
智徳が打ち始めると遼太がそれに合わせた。
ドンッドドンッドドンッドドンッドドンッドドンドンカッドドカッドンッドンッカカカッカッ! ドンッカッドンッドンッカカカッカッ! ドドドドドンッドンッカッドドカッドンッドンッカカカッカッ!
ピーヒョロローピーヒョロロー ピーヒョロローピーロ ピーロピーヒョロロ ピロピロピーローピーヒョロロ ピーローローピーヒョロロ ピーロロピヒョロロピーヒョロロ ピーロロピヒョロロピーヒョロロー
練習した成果が出て完璧な演奏だった。小太鼓も打ち終えた智徳に遼太が登り口から顔を出して声をかける。
「上手いな!」
「えへへ。ありがとう! 遼太君も笛上手だね!」
「来年は拙者と共に笛もやるでござるよ」
決められた道順を巡って最後は古浜神社を目指す。
「ジュースの差し入れだ。もうちょっとだから頑張れよ!」
「これはかたじけない! 智徳殿はまだ平気でござるか?」
「うん! 楽しいよ!」
古浜神社に到着すると日は落ちていた。境内には沢山の出店が並んでいる。
「智徳! 上古浜のやまはもう来てるぞ! これからぶつかり合うから怪我に気をつけろよ!」
「う、うん!」
下古浜村と上古浜村の山車が何度も激しく衝突した。その間も太鼓は鳴り続ける。しかしこのクライマックスでまさかの問題が起きることになる。
ドンッドドンッドドンッドドンッドドンッドドンドンカッドドカッドンッドンッカカカッカッ…
遼太が太鼓を打ち終わって小太鼓に移り交代で智徳が太鼓を打ち始めたときだった。
ドンッドドンッドドンッドドンッドドンッドドンドン……
『やめろ!!!』
「え?」
突然聞こえた叫び声に反応して太鼓を打つ手を止めてしまった。
「やめるな!」
「智徳!」
「あ……。ごめん!」
慌てて再開したが祭りに参加している村人に動揺する者がいた。
「今、演奏が止まったよな?」
「これってまずいことなんじゃ……」
「祟りじゃ……。祟りが起きるんじゃ……」
ドンドンカッドンドンカカカッカッ! ドンカカカッカッ! ドンカカカッカッ……
ピピーヒョーローロ ピロッ ピロッ ピーピーヒョロロ……
後奏が流れて山車は小屋に戻された。役目が終わった子供たちは屋台を求めて散っていく。
「どうしよう……。叫び声が聞こえたから演奏を途中で止めちゃった……」
「叫び声? まあ祭りだしな。しょうがないって」
「でも祟りが……」
「そんなの迷信でござるよ。遼太殿も太鼓が止まったことに驚いて手が止まったのを見申した」
「うるせーよ。そんなことよりなにか食べようぜ」
「それならば力を貸してくれた智徳殿に拙者がタコ焼きを奢って進ぜよう」
「やった!」
「智徳は食べるのが好きだよな」
1996年7月30日
下古浜沖の船上。
「釣れたよ! この魚は……カサゴ?」
「そう。みそ汁に入れるといい出汁が出るんだ」
釣果が止まらない智徳。
「入れ食いなんだけど!」
「ポイントがいいからな。ところで智徳。明日空いてる?」
「家の予定とかはないけど」
「祭りのご褒美にバスを借りて隣町の焼肉屋に連れてってもらえる決まりなんだよ。昼にこの間の駐車場に集合なんだけど」
「行く行く! 絶対に行くよ!」
1996年7月31日
下古浜村駐車場。
「……遼太君遅いね」
「ふむ。時間でござるな」
子供たちを乗せたバスが隣町に向けて出発する。
「遼太君が焼肉に行かないなんてことが今までにもあったの?」
「いや。焼肉というビッグイベントをキャンセルするとは拙者も驚いているでござるよ」
不思議に思いつつも祭りの仲間たちと会話をしているとバスは焼肉屋に到着した。
「カルビ! 米! スープ! カルビ 米! スープ! もぐもぐ……。おや? 箸が進んでないでござるな」
「遼太君のことが気になっちゃって……」
「なにか急に用事ができたのでは? それよりこのワカメスープは美味でござるよ」
「うん……。美味しい!」
帰宅すると両親が外出の支度をしていた。
「ママたち用事で明日のお昼まで帰ってこれないから冷蔵庫の物を食べてね」
「パパたちがいないからって夜更かしするんじゃないぞ」
「わかったよ」
釣具の手入れをしていたがソワソワしだす智徳。
「なにか……。嫌な予感がする」
遼太の家に向かうために家を飛び出すと夕方になっていた。
「早朝に家を出てから帰ってないんですか? お昼ご飯にも?」
遼太の祖父によると珍しいことではないと言われた。
「気にしすぎかな……。帰って晩ご飯食べよう」
夕食を食べた後にのんびり横になってテレビを見ていると左吉が飛び込んできた。
「智徳殿! 大変でござる! 遼太殿が!」
1996年7月31日
夜の下古浜海岸。
「……え?」
海水浴場の近くにある磯の一角に遼太が倒れていた。
「釣り人が発見したらしい。……救急車を呼んではあるがもう手遅れとのこと。もうすぐ隣町から警察も到着するでござるよ」
遼太の遺体はロープで縛られていた。
「こ、これは……」
「下がれ! 子供たちは見るんじゃない!」
集まりだした野次馬と共に追い出された智徳は帰宅するしかなかった。
「……」
暗闇の自室の隅で膝を抱えて座っている智徳。混乱して現実を受け止められず思考が働かない。
「なんでこんなことに……。……そうだ。祟りだ。……僕が演奏に失敗したせいで遼太君が!?」
ここでようやく重要なことに気づく。
「……僕も?」
シャン……シャン……
どこかで聞いた音が聞こえる。
シャン……シャン……
少しずつ近づいてくる。しかし遼太が亡くなったことで疲弊している智徳は動く気力がない。智徳にできたことは一言つぶやくだけだった。
「ごめん……」




