表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

二十六、エピローグ

乙姫の記憶が戻って、一か月が経とうとしていた。


その日、ウミガメのヒシは久しぶりにおつかいを頼まれて医師のルークと一緒に竜宮城を出発した。久しぶりに船に乗るので、ヒシは少し嬉しかった。船のふちに手をついて先頭から前を見ていると、岸がだんだん近付いてくる。浜の少し向こうにはあの漁村がある。

久しぶりに見るあの村はいつもと変りない様子だった。ぼんやりと眺めているとちょうどエルが浜を歩いている。エルは妹のリリーをおんぶしていているようだ。何かを話しながら二人で楽しそうに笑っているのが見える。リリーの病気は快方に向かっていると噂に聞いた。


(元気になってよかった…)


卵の事を全く忘れたわけではない。でも、リリーの中に私の子は生きているんだ。それはヒシがこの事を乗り越えていくためにすがった言葉だった。



エルの友人のレオは、今は漁村にはいない。彼はライアン王に気に入られて西の国の城で働くことになったのだ。最初こそおとなしくしていたレオだったが、生来の図々しさですぐに城に溶け込み、今では古参の従者のような顔をして廊下を歩いている。

レオが廊下を歩いていると、ノア王子が剣の訓練を受けているのが見えて、レオは手を振って応援した。


「ノア王子~、頑張れ~!」


およそ従者が王子にかける言葉ではないが、ノアは笑顔で手を振ってこたえる。

その様子を王妃のマルガリータが笑いながら見ている。



マルガリータ王妃は事件の後、人が変わったように社交的になった。西の国の指導者の一員であるという自覚がしっかりと芽生えたマルガリータは、今ではどこに行っても明るく前向きに振舞うように心掛けている。愚痴は言わない、批判をしない、笑顔で過ごす。これが今の彼女のモットーだ。



その変化の一方であまり変わらないのがライアン王だ。事件の時の八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍が信じられないほどおとなしく、相変わらず押しが弱い。ただ、周囲の彼に対する評価は一転した。今や西の国の『いざとなったら本気を出す、国民のお父さん』の地位を得ているが、本人はその事を知らない。

事件の首謀者の一人、ライリーには今でも時々会いに行く。根っからの優しいお父さんなのだ。



ライリーは監視付ではあるが牢の外に出されている。軍との接触を禁じられた彼女は、それでも国から特別な許可をもらって毎日のように拘留中のマックスの所に面会に訪れる。ライリーはその日あったことや、最近読んだ本の内容など、他愛ない話をしているだけだが、それを聞くマックスの顔は穏やかだ。



マックスは一か月の拘留機関の間に何回も取り調べを受けた。取り調べ中の彼は最初こそ頑なであったが、ライリーのおかげで今はとても素直に応じている。彼は、家族に謝罪したが家族が彼を責めることはなかった。マックスの一族が貴族に復帰することはなくなったが、一族は皆前向きだ。



そんな彼の変化を最も喜んでいるのが弟のサムだ。事件後サムは兄の件もあって西の国に帰ってきた。庶民として生きていくことが確定した一族はサムの発案でワインの製造業をしていくことになったが、家族と一緒にブドウの苗を植えているときに大きな幸せを感じている。こんな風に皆で何かを一緒にすることがこんなに楽しいのかと、今まで孤独だったサムは喜びを隠し切れないでいつも笑顔だ。



サム達のブドウ園の近くにはかつてロバート公が運営していた孤児院があるが、そこに今はロバートの姿はない。ロバートは国外追放となったのだ。ロバートが運営していた病院や孤児院などの福祉施設はすべて国営となり、今その管理に精を出しているのはマルガリータ王妃だ。彼女は全ての施設をロバートから引き継いだ時に、『安心して任せて』と穏やかに告げたという。



一方貴族院議長だったネメックはその職を解かれ、同時に貴族の身分もはく奪された。国内では極刑を望む声もあったが、ライアン王はそれを押さえて国民にこう告げた。『人が人の命を奪うのはもう終わりにしよう』と。彼にはこの先長い獄中生活が待っているが、刑務作業の一環として人々に外国語を教える授業を週に一度行っている。多くの勉強熱心な若者と接して、今の彼の顔は晴れやかだ。



一方王国では箱舟の解体作業が進んでいる。最早(もはや)瓦礫(がれき)の山となった箱舟は時間をかけて解体されているが、その中からネズミのロッテの遺体が発見された。グランデレ王はロッテを抱き上げ、自ら丁寧に葬ったという。



肝心の乙姫は竜宮城を出て今は王城に戻っている。すっかり元に戻った乙姫は自信に満ち、政治にも積極的に参加している。時には歯に衣着せぬ物言いで周囲に詰め寄るので、一部の従者からは『前よりパワフルになって、先が思いやられる』との評判を得ている。

彼女には夢がある。平和な世界を、人に作らせるのではなく自分が作るのだという夢だ。


この国は私がこれから死ぬまで暮らす国だ。皆が笑顔で暮らせる国を、もう誰も泣かなくて済む国を、私の手で作ってみせる。やる事は山積みだ。


2か月後には、ノア王子との結婚式があるのだから。








最後までお読みくださり、ありがとうございます。次回作も頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ