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十、グランデレ②

ルークはすぐに電話口に出た。乙姫誘拐の報は竜宮城に激震を与え、電話口に皆が集まっていた。


「お電話変わりました。医師のルークです」


「姫と何か意見の対立があったようだとメイドから聞いたが、事実かね?」


「はい、そうです」


「何があった?」


ルークが息をひそめる。


「恐らくですが、西の王子に会いに行きました」


思わずオスカーが大声を出す。


「西の王子だって?」


横にいた私は思わず目を見開く。


「はい」


「詳しく話してくれ」


「乙姫様は今回の箱舟の砲撃でずいぶん沢山の動物が傷ついた事にひどくお怒りでした。箱舟の砲撃は西の侵略行為がそもそもの原因で、その事について自分が何とかしたいと仰っていました。そこで、その話し合いを西のノア王子としたいとお考えのようでした。西まで出向くつもりだと仰っていたので、危険ですからそれはおやめくださいと話しました。

また、そのようなことは極めて政治的な事なので、お父様にお任せするべきですと意見させていただきました」


「道理だな」


「すると、乙姫様が『わかった』と案外すんなりと私の意見を聞き入れてくださいました。そのタイミングで急患が運び込まれたので、その話はそれっきりになりましたし、乙姫様は西に行く事を一旦諦めて下さったと私は理解していました」


「なるほど」


「ところが、急患を運んでいるときに何かいつもと違った雰囲気で上の出口の方に行かれたので、万が一のために乙姫様の後をつけるようウミガメのヒシに命じました。ヒシはこれらのやり取りを知りません。どこまであとを追えたのか分かりませんが、実はヒシもまだ帰ってきておりません。姫様の行方に一番近いのはヒシです。まずはヒシを追います」


「わかった。よろしく頼む。今後は15分毎に電話をくれ。どんな些細な事も報告するように。それから、姫様がお部屋でお一人の時間があったそうだが、何をなさっていたかわかるか?」


「いえ、わかりません。お部屋を調べてみましょうか?」


オスカーがグランデレを見る。グランデレは無言で頷く。


「頼む」


「承知しました」


ルークの返事を聞いて、オスカーは受話器を置いた。

しばし室内を沈黙が包む。

そこでサムが口を開く。こういう空気においても堂々と発言するのがサムである。


「あの…箱舟が砲撃しました…」


「知っておる…」


「西との国境のずっと向こう…ずいぶん向こうの方です。西の領土ですから、防衛という大義が立ちません」


「知っておる…」


「何でですかね?」


皆黙る。サムが続ける。


「僕は結構箱舟を信用しているんです。あの箱舟は何も理由がないのに撃たないと思うんです。あの辺にいたんじゃないですか?乙姫様の敵が。だって、まだ大砲出しっぱなしですよ」


「という事は、犯人はやはり…」


オスカーが唸る。


「西か…」


「鍵はどうやって渡すんです?何か方法を指定してきたんですか?」


「いや、まだない。たぶん西であるとばれることを恐れて、ギリギリまで言わない気だろう」


「こっちから西に打診したらどうです?」


「何を?」


「もうバレてますよって」


「そんな刺激して姫様に何かあったらどうする?」


「でもこのまま何もしないで、そのうちカギを取りに来たら、もう手が出ないですよ」


「それは確かにそうだが…」


再び沈黙が漂った。




数分して、私が沈黙を破る。


「いや、案外いいかもしれない」


全員がこちらを見る。


「その後西から連絡は?」


オスカーが答える。


「まだございません」


「一発ぶち込まれて黙っているという事は、向こうは誘拐犯人が誰かも掴んでいるな…」


その頃、科学院が造った装甲列車はちょうど王国の北東の辺りを走っていた。慣らし運転と訓練ではあったが、実戦が近い事を想定して、実弾を装填(そうてん)した状態で移動していた。

その日、隊を任されていたのは装甲列車の計画段階から参加していたハリー大尉だった。


空はよく晴れていて見晴らしもいい。朝方の出発時にはのんびりした雰囲気だったが、箱舟発砲の知らせを受けて空気は一変した。

現在作戦に参加しているのはハリー大尉を含めた11名で、その大半が実戦経験のない若者だ。先頭の動力車には2名、二両目の中距離砲には3名、残りが三両目に乗り込んでいる。箱舟は発砲した後大砲を展開したまま西との国境まで進み停車したが、砲門は依然西を向いたままだという。つまり、いつでも撃てる状態だ。

装甲列車は小型の列車型の移動兵器で、目立たないようにするために普通の列車よりも背が低いが、その分スピードが出る。地面を這うように走る設計だが、兵士を乗せた攻撃態勢でどこまで安定してスピードが出せるのか実験の予定であった。本日は中距離砲の発射実験の予定は組まれていない。しかし、有事の際には反撃の為に使用することもあり得る。三両目のハリー達は王宮と連絡を取りながら、予定より減速して軌道を時計回りに走行していた。

若い兵士のジャックがハリーに話しかける。


「大尉、間もなく東の国境に出ます。箱舟とはちょうど王宮を挟んで反対側になります」


「その後箱舟の動きは?」


「止まったままです」


「よし、機関室、機関停止」


ハリーが呼びかけると装甲列車は徐々に減速し、やがて止まった。


「いつでも動けるように電源は落とすな。バッテリーはあとどれくらい持つ?」


スピーカーを通して動力車からの返事が返ってくる。


「スタンバイだけなら60時間ですが、全速で走るなら軌道一周は持たないと思います」


「それしか持たないのか?」


「はい、今回はデータを取るために計測器機を多数運び込んでいます。それに電力を食われています」


「そういうことか…」


「充電基地まで戻りますか?」


「いや、ここにいるようにという命令だ。こちらの判断では動けん」


ピーという音が鳴り、壁のモニターに箱舟の姿が映し出される。


「写真ですか?」


「いや、ライブ映像だ」


「動きませんね」


そうこうするうちにジャックはすっかり退屈してしまった。まだ若い兵でこういった有事でも緊張感が無い。ちょっと外に出てみたいなと思ったが、言い訳が必要だ。


「大佐、ちょっと降りて用を足してきてもいいでしょうか?大きいほうであります」


どうせ飽きたのだろうとハリーも思ったが、この先どんな戦闘があるか分からない。まだ若い兵士には今くらい好きにさせるかと思い一瞥(いちべつ)すると、


「すぐに戻れよ」


と許可を出した。


喜び勇んで装甲列車から降りると、ジャックはどんどん森に入っていった。国土としては広い国ではないが、国内の隅から隅まで練り歩いてきたわけでは無い。初めて見る風景に心も軽かった。森には葉の間から陽の光が射し込み、どこかで鳥のさえずりが聞こえる。


(平和だな…)


そんな事を考えながらぶらぶら歩きまわった。すぐに帰っても変だし、どうしたものかと思ったその時、少し離れた木の向こうに人がいるのが分かった。姿は見えないが、地面に影が映っている。近くに集落はなく、ハイキングに来るような場所でもない。


(見張られているのか?)


確認すべきだが、一人で近づくのは危険に思われた。相手が一人とは限らないからだ。ジャックは何気なく場所を変えたが向こうも移動して確認できない。明らかにこちらに合わせて動いている。この段階で腑抜けた気持ちに緊張が走った。


(敵だ!)


ジャックはわざと鼻歌を歌いながらぶらぶらと歩き、装甲列車に戻った。

車内に戻るとジャックはハリーのもとにすっと近づき小声で伝えた。


「敵がいます」


ハリーが顔をモニターに向けたまま小声で返す。


「人数は?」


「わかりません。自分が確認したのは一人です」


「どの辺りだ?」


「3時の方向。距離300です」


「敵の装備は?」


「わかりません、影しか確認できず、目視できませんでした。ただ、わたしに合わせて動いていますし音もしません。そこまでの重装備ではないかと」


「こちらが箱舟を追っている事を知っていて見張っているとすれば、向こうも箱舟と無関係ではあるまい」


(箱舟の監視任務の最中に戦闘状態になるのはまずいな…)


すぐそばにいるとなると無線を傍受される可能性もあったが、王宮に一報を入れた。


「現在東の国境沿いです。すぐ近くに敵がいます。領地内です。ただし、人数、装備など不明です。正直、目的も不明です」


無線を横で聞いていたオスカーが通信兵の代わりに答える。


「見張っているだけかもしれん。刺激しないよう監視を続けろ」


それを横で聞いていたサムが答える。


「変な見張りなら、装甲列車をお城から出した時からずっといましたよ?」


その言葉に全員がサムを見る。オスカーが体を震わせて怒鳴る。


「なぜそれを早く言わん!」


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