表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑う邪神官  作者: marvin
19/24

第19話:在室中!地下迷宮の謎(Aパート)

 実験室めいた奇怪な空間だった。

 真鍮の瓶が林立し、所狭しと魔道具が並ぶ。

 床や壁には木の根、蔦草の如く管が這う。

 奥には、炉と思しき巨大な石の室もあった。

 広いが、ひどく混み入って見える。

 祭壇奥の扉から階下に伸びる階段を見た時点で、皆も嫌な予感はしたのだ。

 出口どころか、異様な空間だ。

 皆はしばし戸口に立ち尽くした。

 城を目指して勇み立ったが、地上はまだまだ遠かった。


「随分と心くすぐられるお部屋ね」

 ハルタだけは楽しそうに、ふわふわと辺りを眺めて回る。

「こんなのが?」

 ロゼールが顔を顰めた。

「あら、男の子ならみんなそうよ」

 ハルタが笑う。

「ハルくんも男の子かー」

 何だ、ハルくんって。

 ロゼールはリリアーテを半眼で見やる。

 邪教の代理神官だぞ、慣れ合うな。

 自分を棚に上げ、口を尖らせた。

 今はハルタに惑わされているが、そのうち恥ずかしくていやらしい目に合う。

 嫁に行けなくなってもしらんぞ。

 ひとり口の中で呟き、悶々と拗ねている。

 おや、とハルタが奥の机を覗き込んだ。

 クロエが皆に目配せする。

 机の縁に足が覗いていた。

 そろりそろりと、逃げようとしている。

 リリアーテが机を飛び越えて覗き込んだ。

 足が素早く方向を変える。

 クロエが待ち構えていた。

 無造作に足を捉まえる。

「やーっ」

 その見目に似合わぬ可愛らしい悲鳴を上げ、クロエはそれを投げ捨てた。

 宙を舞うものがよくわからないまま、ロゼールは黄金の翼(エルドール)で叩き落とした。

 それは床に潰れ、虫のように這い逃げようとする。

 咄嗟に踏みつけた。

「うわあ」

 ロゼールの脚に鳥肌が立った。

 足の生えた顔だ。

 獅子に似た顔の周囲に、生白く脂の乗った人の足が、わさわさと生えている。

 ロゼールが剣を振り上げた。

「まって、やめて、ワシは悪くない」

「黙れ、喋るな、変態は殺す」

 黒刃を額に突き立てる。

「怖い、目が怖い」

 ロゼールを見上げて、きいきいと喚いた。

 蠢く足が気持ち悪い。

「ワシは役に立つ。役に立つから、こうしてここに閉じ込めたのじゃろが」

「甘言を弄するな」

 クロエが覗き込んだ。

 先の悲鳴の反動か、いつもに増してむっつりと口許を結んでいる。

「いや本当、本当に」

「こんなの、何の役に立つってか」

 リリアーテが冷えた目で見おろした。

 ロゼールが剣先をぐいと突き入る。

「いやいや、本当じゃって。お嬢ちゃんのそれ――それを造ったのもワシ」

「戯言だ」

 神罰器(バニッシャー)が造られたのは、神代の終わりだ。

 民権神授と王権契約の黎明に神罰原器(プロトバニッシャー)を模して四九六器が製造された。

 人界統治の戦乱で三割近くが失われ、現存するのは三七二器だけだ。

 ――と、リリアーテが博識を披露する。

「聖典を読め、聖典を」

 女王仕込みの蔑視を向けた。

 それが嫌で家出を繰り返しているのだ。

「だって、その頃からここにおるもん」

 まだ魔神は言い張った。

「めっちゃ引き篭もりか」

「でも神代は盛り過ぎだ」

 リリアーテとクロエが責める。

 ふとロゼールは思い至り、魔神の顔を強く踏みつけた。

「おまえ、他に人を唆してはいないか」

「あああ」

 魔神が目を見開き、汗を噴く。

「それは、その、ここに押し入った奴が」

 ぐいと踵に力を籠める。

「ここでそいつに何をした」

「邪魔をしよるから追い出した」

 魔神が虚勢を張る。

「追い出した?」

「その、出て行ってくれとお願いした」

「それで素直に出て行ったってか?」

 リリアーテも魔神を踏みつける。

「あああ。指輪をやったら出て行きおった」

 思い切り鼻孔を開いて息を吸う。

「指輪って?」

「ちょっといいやつじゃ」

 リリアーテが踵を捻る。

「ワシらを従えるすごい神器」

 聞き覚えがある。

 それどころか、間近に知っている。

 ロゼールがハルタを覗き見る。

 ハルタは襟巻で口元を隠し、妖しい目で見返した。

「そんな危なっかしい物を」

 クロエもおそるおそる魔神に足を乗せる。

「危なくない、危なくない。模造品ゆえワシには効かんし。大体、そうそう言うことを聞く魔神がそこらにおるわけないし」

「え? 結構いるぞ、魔神」

「さっきも一匹斃したしな」

 虚を突かれた魔神がきょとんとする。

「うそ。あれ? もうそんな時期?」

「このロゼールの大きな尻が解放したぞ」

「大きくない」

 口を尖らせて、ぐいと踏む。

「いくら大きくても尻では無理じゃ」

「大きくないって言ってるだろうが」

 ぐいぐいと魔神を踏み躙る。

 魔神はひいいと悲鳴を上げた。

「ワシらの半分は土地の肥やしじゃ。そもそも、人が天上の馬鹿どもに唆され、地上を滅茶苦茶にしたせいじゃろが」

 誰がこんな怪しいものを肥やしにするか。

 三人揃って容赦なく踏み据えた。

「本当じゃって。地霊じゃ何じゃと崇めておったであろうが。この恩知らず」

 獅子の鼻が大きく膨れ上がりふいごのように息を荒くしている。

「それより、誰に指輪をやった」

 クロエの問いにロゼールがハルタを見る。

「宮廷の誰か、それとも大神官か」

 首を振って、魔神へと視線を返した。

 魔神は不貞腐れている。

「人の名など知らん」

 クロエは強く捏ねるように魔神を踏んだ。

「あああ。そうそう、確か神殿の主と」

 三人は顔を見合わせた。

「おまえがそいつを操ってるのか」

 魔神の鼻面をぎりぎりと踏みつける。

「あっあ」

 鼻孔がぶすっと膨らんだ。

「欲で動いておるだけじゃ」

 ぎりぎりぎり。

 魔神の目が泳ぐ。

「ちょっと、唆したかも」

「はい、有罪」

「あああ」

 鼻孔が口ほど大きく開き、余さず空気を吸い尽くさんと、ふがふが蠢く。

「あっ、こいつ」

 リリアーテが気づいて飛び退いた。

「臭い嗅いでる」

 背中にぞわりと怖気が駆け上がった。

「殺れロゼール」

 クロエの声に頷いて、ロゼールは黄金の翼(エルドール)を突き込んだ。

 引き金を引く。

「神罰、覿面」

「え、もうちょ――」

 鼻を拡げて魔神は黒塵と散った。


「恐ろしい敵だったぜ」

 リリアーテが額の汗を拭った。

「アナタたちもたいがいだわね」

 ハルタがころころと笑う。

「変なことを言っていた気がする」

 クロエが呟いた。

「魔神が地霊とか」

「半分は本当よ。杖も折れちゃったし」

 ――私の尻は関係ない。

 ロゼールが口を尖らせる。

「その、指輪の話もか?」

 ハルタは肩を竦めて見せた。

「神殿の主ってさ、大神官のことだよね」

 リリアーテが無意識に小声で確認する。

「魔神を操る指輪」

 クロエが呟く。

「この騒ぎの黒幕」

「よし、吊るし上げるか」

 リリアーテはあっさり物騒な結論に達した。

 悩むのを放棄している。

「偽物のリリアーテがいる。宮廷も何か関係しているはずだ」

 ロゼールが指摘すると、リリアーテは顔を顰めて頷いた。

「残念ながら、父上もな。操られてるのかどうかは知らんけど」

「大丈夫、本物がここにいる」

 クロエが言った。

「あら、家出がしたいんじゃないの?」

 ハルタが意外そうに口を挿んだ。

「いっそ、偽物に任せちゃった方がいいんじゃないかしら?」

 ロゼールが噛み付いた。

「馬鹿言うな。王女の役目を捨てられるか」

 指輪の疑念も少しあり、焦ったロゼールは八つ当たりのようハルタを責める。

「それは生んだ側の権利で、生まれた側の義務じゃないわ」

 ハルタは涼しい顔をして言った。

「何が違う」

 ロゼールが睨む。

「アナタがここにいるのは、アナタがそうしたからでしょう?」

 ロゼールが言葉に詰まった。

「そんなの――成り行きだ」

 ハルタはさり気なくロゼールの手を取り、間近から覗き込んだ。

「ホントにそうかしら」

「そんなの――そんなの」

 ロゼールがみるみる茹で上がる。

 リリアーテとクロエは、半ば呆れてその様を眺めていた。

 ロゼールは自身は強気のつもりだが、どんなおねだりも聞き入れそうな顔だ。

 傍目に陥落寸前だった。

 少し――いや、すごく羨ましい。

「私の苦労を讃えよ」

 飛び出した純潔の誓約が顔を顰めた。


「でも、偽者は絶対倒す。ボクのものを勝手に取られるのは気に入らないんだわ」

 リリアーテはそう宣言した。

 クロエもうんと頷いた。

「面倒な子たちね」

 ハルタは溜息を吐いた。

 襟巻の下の表情は、誰にもわからない。

「そうだ、そう簡単に邪神の甘言に乗るものか」

 ロゼールがいまさら気を吐いた。

 クロエとリリアーテはあえて口を噤む。

「まあいいわ。あとの面倒は見てあげる。いいお店を紹介するわよ」

 言って、ハルタは手を叩いた。

「それじゃ、さっさと出口を探しなさいな」

 皆を追い立てた。

 はーい、と華やいだ声を上げ、三人は辺りを見渡した。

 雑然とした部屋の中を見て回る。

「お店もいいな」

 リリアーテが呟いた。

 クロエも頷いた。

「田舎の雑貨屋だぞ」

 ロゼールが口を尖らせた。

「茸とか土産物とか、変な店だ」

 賑やかな三人に捜索を任せ、ハルタは真鍮と硝子の森を眺めて回った。

 神代の火が熾る炉を覗き込み――おつかれさまと目を細くした。


 扉はすぐに見つかった。

 奥に地上に向いた長い階段が伸びている。

 扉に鍵はない。

 不用心だが、理由もあった。

 確かに地上は王城の敷地だが、その出入りには屈強な門番が待ち構えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ