本紀 7回
馬銀は、幼い頃から同年代の子供たちより体が大きく、また反骨心旺盛のため押さえつけてくるものには徹底的に逆らってきた。しかし困ったものを見捨てられぬというような義侠心も持ち合わせていたため、自然と年少の者達のまとめ役になっていった。そして長ずるにつれ、街のごろつきたちも纏め上げた侠人として近隣に知られるようになった。
馬銀のすんでいた地域は良質の木材が取れる山林が多い。ある年、中央から税として宮殿造営のための木材を供出するようにとの命が下った。これに対して馬銀が長老に請われて若者を集め、木材の伐採運搬を担うこととなった。木材の収集は順調に思えたのだが、納付期日を控えたある日、この地域を豪雨が襲う。その豪雨は土砂崩れを起こし、川を氾濫させた。運の悪いことに、その土砂崩れは木材集積地を襲い、貯めていた木材のほとんどを飲み込んでしまった。
この時のような税の納付遅延は、法律により死罪と決まっていた。このままでは自分も、そして仲間たちも死罪となってしまう。それも自分たちの怠惰によるものではなく、ただ天の采配によるもので、だ。この理不尽に、持ち前の反骨心が素直に従うべきでは無いとささやいた。そこで馬銀は、若者たちを連れて街を離れ、流浪の民となる。
流浪するには食料がいる。その食料を、村や町にある官舎を襲い、そこにためてある食料を奪うことで凌ぐことにした馬銀一味。この行為に食い詰めたごろつきが多く加わり、徐々に勢力を増すこととなった。そしてとうとう、ひとつの城郭を攻め落とすまでの賊徒集団と化していた。これが、この度白涼が討伐を命じられた馬銀一味であった。
1万の兵を率いて進軍する白涼の元に、偵察に出していた兵の報告が上がってくる。偵察隊を纏めるのは校尉の曹弁。
「賊軍はおよそ2万、とのことです。まだこちらの動きには気付いていないようですが、戦の備えが見受けられるようです」
こちらの倍、である。しかし白涼は動揺を見せることなく、次の偵察隊を出すように曹弁へ指示を出した。慕容循に、偵察は徹底して行うこと、情報を集めることと何度も念を押されていたのだ。
「叔父上、どうします?」
馬を寄せて副官であり姪である姫桃花が問う。兵の前であるため、敬語で話しかける桃花。
「敵の動きがあるまでこのまま進軍だな」
事前の軍議では、篭城するようなら力押しがきくであろうこと、野戦となる場合は交戦予定地の地形によって変わってくるが、基本的に麾下の三千を中心にした戦術を取る予定であった。
「できれば攻城戦がいいのだが」
賊のほとんどは、訓練を受けていないごろつきである。城防衛の定石を知るものはほとんどいない可能性が高い。それであれば練度に勝るこちらが有利になる。
「わしは野戦が希望ですな」
そう応えたのは、胡騎校尉の長孫覇。彼の指揮下である千の兵は、半数が騎兵という野戦に特化した部隊であった。攻城戦の訓練も受けてはいるが、やはり馬が使える野戦こそ力を発揮する。また、長孫覇愛用の武器は背中に背負った長大な、いや巨大な刀、斬馬刀であったため、小回りが効かない。大柄な体躯であり、鎧の下にはちきれんばかりの筋肉を擁し、長く伸びた髭もあいまって周囲に威圧感をふりまいていた。
「慕容循も、長孫隊を使いやすい野戦ができれば、と言っていたな」
その慕容循は今は輜重隊とともにあった。兵糧、武器の予備、陣を張るための丸太や幕舎のための幕、紐など…直接の戦闘をする部隊ではないが、重要な物資を運ぶための部隊である。物資は兵糧の管理責任者を引き受けていた。
目的の城まで二日というところで、曹弁が報告にやってきた。
「賊軍は城を出て野戦での迎撃の構えを見せているようです。速度から見て、ぶつかるのは明日と思われます」
白涼は頷き、声を張り上げる。
「賊は野戦で数を頼みにするようだ! 数は賊のほうが多いが、ひるむことは無い! 訓練を思い出せ! 必ず勝てる!」
おう、と兵たちが応える。白涼はその声を頼もしげに受け取りながら、翌日に予想される会戦へと向かってゆくのであった。




