見習い少女と伯爵婦人の誓い。
「くうぅぅっっ、相変わらず貴様は容赦がない。」
「ふん、当然だ。か弱き乙女を目の敵にする諸悪の根源に何故容赦せねばならん?」
「誰が諸悪の根源だっ!」
「貴様以外に誰が居る?」
テンポ良くまるで漫才のように言い合う二人に、リクは頭に沢山の疑問を浮かべていたが口を挟む機会を逸していた。
「……ええっと……?」
そんなリクの様子に気が付いたセレナは、今まで公爵へ向けていたのとは全く違う笑みをリクへ浮かべる。
「ああ、驚かせてしまってごめんなさいね。
うふふ、リクさんは私達に沢山聞きたいことがあるのでしょう?」
「あ、はい。
……セレナ様の喋り方もですが、……お二人は仲が宜しいのでしょうか?」
セレナの笑顔に背中を押されるように、恐る恐る疑問をリクは口にする。
「うふふ、腐れ縁ですわ。」「腐れ縁だ。」
セレナと公爵二人の言葉が重なり、お互いに睨み合う。
「リク嬢よ、こやつは"元"公爵令嬢でな、私の幼なじみ兼"元"婚約者なのだ。
もっとも、じゃじゃ馬過ぎて私の手には負えぬ、とんだ暴れ馬だったがな。」
「ふん。
こんな私の性格もルシアンは好ましいと言っていたぞ。
それに、暴れ馬であろうと名馬は名馬。
私のような名馬を乗りこなす技量もない泣き虫がよく言ったものだな。」
二人の間に熱い火花が散る。
「え、えっとセレナ様の口調は?!」
これ以上、暴れられては溜まらないと多少無礼かとも思ったがリクは口を挟んだ。
「……このアルフレッドを含む当時の戦友を前にすると、どうしても若い頃の口調が出てしまうの。
でもルシアンと結婚してからは、彼に迷惑を掛けたくなくて口調を変えていたのよ。」
「そうだったんですか……。」
セレナは昔を懐かしむように眼を細めて、ふわりと誰に向けるでもなく微笑みを浮かべる。
「……私はね、ある公爵家の末の令嬢として生を受けたわ。
幼い頃から女の子が好むようなことよりも剣術や馬術の方が大好きで、夢は騎士になることだったの。」
静かに話しを聴いているリクを通して別の誰かを見つめるような眼差しをセレナは向ける。
「でも、当時女性の騎士はまだ少なくて、"公爵家の令嬢ともあろうものが!"と父にもよく叱られたわ。
どんなに叱られても、私は諦めたくなくて、認めて欲しくて……、そんな私を最初に認めてくれたのは"あのお方"だった。」
「"あのお方"?」
首を傾げるリクの頭を撫でながら、セレナは言葉を続ける。
「私が、私達が忠誠を誓ったただ一人の方。
その方のためならば命も惜しくはなかった。」
目を閉じれば、主と共に駆け抜けた波瀾万丈の半生を今でなお色鮮やかに思い出すことが出来る。
同じ主に忠誠を誓った同胞と駆け抜けた戦場は、数十年という時の流れが経ち遙か昔の事となった。
セレナは目の前に居る少女を見つめる。
自身と同じように茨の道を突き進もうとする幼い少女。
「……ある意味では、貴女は私と"同じ"なのでしょうね。
どんなに叱られても、諦めたくなくて、認めて欲しくて努力を重ねる。」
「……。」
「貴女は、"夢"を諦めることが出来ないのでしょう?
己の誇り、生き様とも言えるこの"夢"を諦めれば自分ではなくなってしまう。」
「……はい、その通りです。
もし、この"夢"を諦めれば確かに楽になるかもしれません。
……でも、その時の私の魂の半分以上は死んでいるのと同じ事だと思います。」
セレナと同じように、数多の痛みを伴う"夢"を諦めることが出来ないのだという少女、リクに過去の自分が重なる。
過去にセレナが"リク"の立場で同じような問答を繰り広げた"主"の立場に、今セレナは立っていた。
「ならばリク、貴女に力を貸しましょう。
貴女が貴女の誇りと信念を賭けた"夢"を諦めぬ限り、この主より賜りし二つ名"月花の騎士"の誓って!」
遠い過去、数多の戦場を駆け抜けた一人の女騎士がいた。
彼女が付き従うは、一人の強い覚悟と民を思う心を持った"王女"だった。
かの"王女"は、彼女の騎士としての高潔な姿をみてある二つ名を与える。
月のように美しく清廉な光を放ち、咲き誇り続ける散ることのない戦場の花
"月花の騎士"と……。




