8歳児は誰のもの?
・・・・・どうしましょう?どうしたら良いんですか?
私は今、狼さん、いえ、シオンさんの腕の中にいます。
その上、なんといいますか・・・・・。
シオンさんと私のおでこが引っ付いてて、とてもその麗しいご尊顔が近いといいますか・・・。
近すぎるんですっ!
止めとばかりに、至近距離でシオンさんの優しさと愛しさが混ざったような微笑みを見てしまったら、どうして良いか分からなくなりますっ!!
「リク、顔が真っ赤だ。とても、可愛らしいな。」
「あっ、あぅ・・・。」
「それに、リクの身体はとても温かいな。」
「あ、あのっ、ち、近すぎませんかっ?」
私の言葉にシオンさんは、距離はそのままにキョトンとした顔をします。
「・・・リクは、僕と引っ付くのは嫌か?」
「いっ、嫌な訳ではなくてですね・・・、はず、恥ずかしいんですっ!」
私の言葉にシオンさんは嬉しそうな顔をしています。・・・喜ぶ事を言った覚えは無いのですが?
「嫌じゃないのならば良かった。
僕は、この距離で良い。恥ずかしがるリクも可愛いし、近くで見れるからな。」
「・・・・・・。」
最早、言葉も出ないとはこのことでしょう。私は、シオンさんの無自覚な甘い言葉に思考すらも停止したかのように固まってしまいました。
そんな真っ赤な顔を晒し、恥ずかしさに悶えながら、固まってしまった私にシオンさんは、ゆっくりとさらに顔を近づけてきます。一応、精神年齢は成人をとっくに超えている年齢です。何をするつもりか分からないはずがありません。・・・・・たとえ、分かってていても経験が皆無と言っていい私はどうして良いのか分からずに目をきつく閉じることくらいしか出来ませんでしたが。
「・・・っんの!くそおおかみぃぃぃっっ!!!
あたしの、あぁたっしのっ、かわいいぃーっ、リクっから離れやがれぇぇぇっっーー!!!!!」
あとわずか数センチで、唇が触れあいそうになったその時、森中に響き渡るような怒号と共に私たちのいた場所目掛けて何かが跳んできました。
シオンさんは、私を抱き上げたまま回避します。私たちがいた場所には、黒こげになって炭化した切り株の破片だけが残されていました。炭化した切り株のあった場所の向こう側に、息を切らせるほどに休む間もなく走ってきたのか、肩で息をするお師匠様と、疲れた顔をしたキースさんが立っていました。
「危険な真似をする。
僕のリクに傷が付いたらどうする気だ?」
「誰が・・・、誰がっ、あんたのリクよ!
あんたじゃなくて、あ・た・しのリクよっ!!
それにっ、あたしの魔法がリクを傷つけるはずがないのよっ。
あたしの堪忍袋の緒が切れる前に、いいから、さっさとその手を離しなさい?糞ガキがっ!」
・・・・・・・お師匠様が、どうやらシオンさんを標的に魔法を使ったようです。黒こげになって破片しか残っていない切り株を私は見つめます。あの威力の魔法を受けても、お師匠様の魔法であれば本当に私は傷つかないのでしょうか・・・・・?普通に黒こげになっている自分が想像できるのです・・・。
「ふんっ、僕が避けたから傷つかなかっただけだろう。
怒りにまかせて、大切な人を巻き込みかねない技を放つなど愚か極まりないな。
そんな輩に僕の愛しい乙女を任せる訳にはいかない。
・・・それに、僕は間違っていない。ぼ・く・のリクだからな。」
私が明後日の方向へ意識を飛ばしている間にも、お師匠様とシオンさんの舌戦は繰り広げられている様子です。
「・・・ふ、ふふふ、うふふふふふふ。
糞ガキ、格の違いという物をその身に刻み込んであげるわ。」
・・・・・お師匠様がぶち切れたみたいです。
「はんっ。僕を甘く見るなよ?
あの時の心に迷いを持っていたがために鈍った剣筋しか放てなかった僕だといつまでも思うな。
お前のように見境無く魔法を放つ愚か者に教えられることなど何もない。」
・・・・・シオンさんもぶち切れたみたいです。
『リク、すぐにこの(糞ガキ)(愚か者)を叩きのめすから待ってて(ちょうだい)(くれ)。』
私を離れた場所へシオンさんが移動させれば、二人で同じような内容を私へ言ってきます。・・・・・本当は仲が良いんじゃないですか?この二人は。
二人の激しい闘いを遠い目をして眺めていれば、キースさんがひょっこりと近づいて来ました。
「・・・・・・何をしてんだろうな?あの二人は?」
「・・・・・・私の取り合いでしょうか?」
『・・・・・。』
呆れたような口調で二人を眺め、呟くキースさんへ答えを返すと私たちの間に無言の空気が流れました。
「・・・美人二人に取り合われて、羨ましい限りだな。」
「・・・今すぐ変わって差し上げますよ。」
『・・・・・・・・・・・。』
キースさんが私をからかうように、軽口を叩いてきたため返事を返すと再び私たちの間に無言の空気が流れました。
「・・・わりぃが、ご免被るぜ。
メリッサからの愛は欲しいが、あっちはいられねぇ。
しかも、二人ともからだと重すぎるぜ・・・。」
「・・・それを受けている本人の目の前で言いますか、普通?」
「・・・・・・。」
私をからかおうとした癖に、私から眼を反らすキースさんへちょっとした意趣返しをすることに決めました。
「無言で眼を反らさないで下さい、一番大好きなお父さん?」
「!?
ばかっ、お前という奴はっっ!
こんな時だけ、なんつー事を言いやがるっっっ!!」
私の言葉を聞いて、急いで否定しようとしたキースさんの背中側から一降りの剣が首筋に当てられます。
「・・・・・・・・・・。」
顔からさーっと血の気が引かせ、顔を引きつらせながらゆっくりとキースさんが後ろを振り向くと、件の二人が鬼のような形相で仁王立ちしていました。
「・・・・・め、めりっささん?」
「きーぃす。あんたとは、ゆぅっくり話しをする必要が有りそうねぇ?」
「漁夫の利を狙うとは、油断できない男だな貴様は。」
「は、ははは・・・。」
引きつったような力ない笑い声を上げ、逃げ腰になっているキースさんに二人は同時に躍りかかります。
「誤解だっ、誤解なんだっっ!
リクっ、頼むっ、謝るからっ!!二人を止めてくれっっ!!!」
「・・・・・私のために頑張って下さい、大好きなお父さん。」
必死で二人の猛攻を避けながら、私に話しかける大好きなお父さんであるキースさんへ応援の言葉をかけながら、今日も空が青いなあと現実逃避する私でした。
「キーースっっ!!」「其処に直れっっ!!」
「ぎゃぁぁーっっ!!!!」
夏の青い空の果てに向かって、お師匠様とシオンさんの怒号が響き渡り、キースさんの悲鳴がこだまするのでした。




