狼さんと彼女の命の危機。
《???》
自身で決めてあの家を出たというのに僕は、すでに後悔で心が悲鳴を上げていた。出来ることならば、彼女と出会ったあの時へ戻り、彼女を傷つけるような態度を取っていた過去の自分を殴り倒してやりたい気分だった。
己の事ながら、ここまで女々しい性格だったのかと呆れながらなかなか前に進まない足を叱咤して進んでいく。その時、獣人族であり人よりは性能の良いこの耳に大きな音が聞こえた。誰かがこの森に入り魔物と闘っているのかと、考えていた僕の脳裏に嫌な予感が浮かぶ。
もし、彼女が目覚めて僕がいなくなったことに気がついたらどんな行動を起こすだろうか・・・?
しょうがないと、失笑しさっさと僕の事を忘れてしまうだろうか・・・?
それとも・・・・・・?
頭に浮かんだ嫌な予感は考えれば、考えるほどに僕に正解だと告げている。僕はそんな嫌な予感を振り払うように、聞こえた音の方向へ全速力で駆け出すのだった。
・・・・・僕の予感は当たっていた。
あの家の中で守られ、寝台に横になっているはずの"彼女"が地面に尻餅をつき、魔物を前に恐怖で動けなくなっていた。そんな彼女へ魔物がその薄汚れた手を伸ばし、触れようとしている。
--彼女は貴様ごときが触れていい存在では無いっ!!
自分でも驚くほどの速度で、彼女と魔物の間に割り込み叫ぶ。
「薄汚い貴様ごときが、彼女に触れるなっっ!!」
魔物の手を彼女から振り払うように、剣を振るう。惜しいことに魔物は僕の一撃を避けてみせた。
「・・・狼さん・・・・・?」
ゆっくりと眼を開いた彼女は、僕を視界に納め、まるで信じられない物を見たかのように小さな声で呟いた。
「助けに来るのが遅くなってすまなかった。」
彼女の声に応えるように一瞬だけ彼女へ視線を向け、謝罪の言葉を口にする。彼女の恐怖で固まった身体から少しずつ力が抜けていく。
「・・そんな事、ありません。助けてくれてありがとうございます・・・・・。」
彼女の言葉に頷きたかったが、まだ終わってはいない。
「まだだ、奴を倒した訳では無い。」
ぷうぎゃああぁぁぁっっっーーーー!!!!!
僕の言葉に答えるように、彼女に触れようとしたことを邪魔されて怒りに染まったオークの鳴き声が辺りに轟く。そして、持っている剣を棍棒のように扱い僕へ振り下ろす。
「失礼する。」「きゃっ、えっ?!」
その一撃を回避すると同時に、彼女を片手で抱き支え、オークより距離を置くように後ろへ跳ぶ。オークより離れた木の根元に彼女をゆっくりと降ろし、犬?の守護者が側に寄り添ったことを確認して、僕はオークへ向かって駆けだした。
オークは僕にとって特に脅威とも言える相手ではなかった。攻撃は多少の知能がある割には単調で、病み上がりの僕であったとしても苦戦するような相手では無い。ただ、彼女に血飛沫を上げるような場面は見せたくなく、木の後ろへ隠れるように促す。彼女が僕の言葉に素直に従ったのを確認して、オークに止めを指す。オークの首が血飛沫上げて、放物線を描くように跳んでいき、地面に"ゴロンッ"と転がった。
僕を心配に思ったのであろう彼女が、木の陰から顔を出そうとしている事に気がつき、彼女の目の前に立つことで視界を遮る。
「見なくていい。」
短くそう伝え、抵抗しない彼女を再び抱きあげ、自分の外套で包むように歩き出す。彼女の視界にオークの死体が映ることがないように、僕の胸元に彼女の頭を抱え込むようにしておく。そして、安全な結界の中へ僕は足早に進んで行った。




