8歳児といなくなった狼さん。
家族の暖かさを実感していた私は、この場にいないもう一人の存在が気になりました。
「そういえば、狼さんは変わり有りませんか?」
『・・・・・・・・・・。』
私の質問に答えを返すことなく、二人は顔を見合わせ気まずそうな顔をしています。まるでお互いが相手に答えるように促し、譲りあっているように感じます。
「お師匠様?キースさん?」
もう一度、二人を呼ぶと観念したかのようにキースさんの方が口を開きました。
「あー、そのな、出てった?いや、旅に出たぜ?」
・・・・・・・・・出てった?旅に出た?
「べっ、別にねっ、あたし達が叩きだした訳ではないのよ?
その、勝手に出て行ったから、引き留めなかっただけで・・・。」
「メリッサっ!ばかっ、余計なこと言うなっ!」
「・・・あ。」
・・・勝手に出て行ったから引き留めなかった?
お師匠様の言葉を慌てて、キースさんが遮ります。
「どういうことか最初から、説明して頂けますね?」
『・・・・・・・・・・。』
沈黙を保ち、私と眼を合わせないようにする二人へさらに笑顔でたたみかけます。
「頂けますね?」
『・・・・・・はい。』
ふふ、失礼ですね。私はこんなにも笑顔を浮かべているのに、怯えているような顔をするなんて・・・。一度、しっかりと二人とは話し合う必要がありそうですね。
二人の話を一通り聴き終わり、狼さんが黙って出て行ったことを止めることもしなかった事を笑顔で問い詰め、コホン、話し合いをしました。私を怒らせたと思ったのでしょう。二人は顔を引きつらせながら退室を求める私の言葉に従いました。
私の側にはあーやんだけが残っています。ジェダは、リオの世話の方に行きました。私は、狼さんの事に思いを馳せます。おそらくですが、狼さんは私を二人と一緒に看病してくれたのでしょう。一度目が覚めた時には狼さんがいましたから。あれは、夢だと思っていましたがどうやら現実だったようです。
その時見た最後の狼さんの姿を思い出します。狼さんは、顔を俯かせ、私の手を握り締め、何かに耐えている様子でした。狼さんの顔は悲しいのか、痛いのか、とても辛そうな表情を浮かべていたように思います。
このまま、部屋の中にいても私のこの気持ちはすっきりとしないでしょう・・・。
倒れて心配をかけてしまった上に、これから行うつもりの私の行動は決して褒められたことでは無いと分かっています。ですが、まだ子どもの私は"両親"である彼らに甘えることも仕事のうちだと開き直ることにします。・・・・・・二人が狼さんを引き留めておけば良かったことなんですからね。
そうと決めれば、さっさと行動に移すのが良いでしょう。机の中から紙の切れ端を取り出して、二人に狼さんの見送りをしてくると書き残します。そんな私の行動を訝しげに眺めていたあーやんに話しかけます。
「あーやん、一緒に狼さんの見送りに付いてきて下さい。」
私の言葉にあーやんは首を振って拒否を示します。
「あーやんが付いてきてくれないならば、私は一人でも行きますよ?」
私の言葉を聞いたあーやんは、おそらく私が主張を曲げないことを悟ったのでしょう。本当に一人で森へ行くよりはましだとばかりに、諦めた様子で付いてくることを承諾してくれました。
部屋の窓より家を抜け出した私たちは、森の中にあるお師匠様の結界の境目へと向かいます。さすがの私も森がとても危険なことは知っているので、お師匠様の結界を出るつもりはありません。結界の境界線ぎりぎりに立って、森の中を見渡し眼をこらします。狼さんの特徴的なあの銀髪は見つかりませんでした。
私が目覚めるよりも早く出て行ったという狼さんはすでに結界を通り過ぎ、結界の中から見える範囲よりも先へ進んでしまったのでしょう。残念に思いながらもしょうがないことだと諦め、あーやんと家に帰ろうかと振り向こうとした私の目に銀色の光りが見えました。
「狼さんっっ!!」
あーやんが止めようとしたにも関わらず、私は思わず狼さんの名前を呼びながらお師匠様の結界の外へ飛び出し、駆け寄ろうとしました。しかし、途中で気がついてしまいました。私が見た銀色の光りは、狼さんの美しい銀色の髪などではなく、鈍い銀色の光りを放つ薄汚れた剣の光りであったことに・・・・・・。
その薄汚れた剣を持った魔物を見て驚き固まる私の前に、あーやんが私を守るように背にかばってくれます。その魔物は、私を見て不気味な笑みを浮かべて近づいて来るのでした。




