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異世界ナイチンゲールの奮闘記!!  作者: ぶるどっく
第3章 8歳児と銀狼の戦士。
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狼さんと変わった少女 その1。

《???》


 やはり少女は変わっていた。


 僕よりも遙か上の実力を持つ二人から身を守るためには、この少女を傷つけずに出来るだけ側にいる事が最善である事に僕は気がついた。あの二人は、少女にあまり殺意や暴力などを行使する自分たちの姿を見せたくない様子だった。怪我人である僕には平気で送ってくる殺意や敵意も、あの子の視界や理解できる範囲では決して送ってくる事はなかった。しかし、食事の席など少女の意識が僕から離れた時を見計らって、殺意や敵意を送るのはやめて欲しい・・・。まるで針の筵にに座っている気分になる。


 そんな少女は、僕の看病がいらなくなったからと日課だという走り込み(ジョギング)や修行を再開した。走り込みは鈍った身体を少しでも早く取り戻すために調度良く、一緒について行く事にした。一緒に走る少女の側には必ず猫や犬?のゴーレムの守護者がいる事から、どれだけ大切にされているか分かるという物だ。

 そして、年の割には少女の受け持っている役割は多くて家事・炊事に始まり、ほとんどの家の仕事は少女が行っている。年の離れた弟だろうか、赤子の世話も買って出ている。僕から見れば働きすぎていると感じずにはいられない。

 同時に少女は己に高い目標の修行も課している。朝の走り込みだけではなく、魔法から始まり、武術と幅広い。少女の修行を眺める僕には、とても生き急ぎ、焦っているように感じた。


「・・・何故、お前はそんなに頑張るんだ?」


 そんな少女の姿に僕は不思議に思い、修行を終えて側にあったイスに座り身体を休める少女へ質問した。


「"弱い私は、居場所を失いましたし、どんなに願ってもできない事があります。

 ・・・ですが、たとえ無駄でも前を向き、努力するしかないんです。

 努力しても変わらないことは、大人になっても変わらないかもしれません。

 でも、信じて努力するしか無いんです。私には、選べる選択肢は少ないのだから。"

 キースさんに同じような事を聞かれた時、こんな言葉を返したと思います。」


 ただ単純に認めて欲しいからだとか、答えると思っていた僕の予想に反して子どもらしくない答えを少女は返した。

 その答えに含まれた思いを、僕には痛いほどに分かってしまった。

 黒狼族の両親から生まれた僕には、一族の色が宿っていなかった。両親はそんな僕を当たり前のように愛し、育ててくれたが、そんな二人も僕が10歳になる前に失ってしまった。後に残されたのは、同じ一族でありながら"黒"を持たない僕を蔑むような奴らが大半だった。それでもまだ、僕の事はいい。両親の事を悪く言う奴だけはどうしても許せなかった。

 だけど、力のない弱い僕にはそいつらを黙らせる事が出来なくて、悔しくてたまらなかった。だから、努力した。誰に笑われても、無駄だと言われても努力した。幼い僕には選べる選択肢なんて、あまりに少なかった。

 努力を続けた僕は、13歳になる頃には同じ年齢の一族の少年・少女達の中でも1番の実力を持っていた。・・・だけど、僕の努力は認められる事はなかった。一族の"戦士"として認められれば、誰にも、たとえ僕が一族の色を宿していなかったとしても、二度と表だって否定される事はないと努力を続けた僕は再び否定された。必死で"戦士の儀"に挑み、勝利を得た"努力を続け結果を出した僕"すらも否定されたんだ。

 その結果に絶望し、失意のどん底に落とされた僕は、僕の存在を認めない一族を見限り、外の世界で認められてやると宛てのない旅に出た。しかし、結局は外の世界の連中にも裏切られて、このざまだ。

 

 だが、何故だろうか。この少女を見ていると前を向いて、未来を信じて、必死に努力を続けていた"過去の僕"を思い出す。


「キースさんにも答えましたが、私には武術も魔法も才能が無い事なんて分かっているんです。」

--幼い僕にも、周囲の奴らを認めさせるような才能があると信じたかった。


「どんなに努力したって、人並み以上になる事なんて無い事も分かっています。」

--だから努力を重ねて、人並み以上の結果を出す事が出来た。


「実力が伴わない覚悟も、願いも無駄になる可能性の方が高い事だって分かっているんです。」

--それなのに、結果や実力を示しても、誰も僕を認めてなどくれなかった!


「・・・・・こんな私は、お師匠様やキースさんの家族と呼んでもらえるほどの資格が無い事も知ってます。」

--けれど、才能も、実力も無い君には認めてくれる人達がいる。


 少女は言葉を続ける事が出来ないのか、身体を震わせながらも、涙を流す事だけは耐えている様子だった。


--"僕"と"少女"は何が違うのだろう・・・?


 僕の心には1つの疑問が浮かんできた。

 努力を続けて、周囲に実力を示す事が出来たが認められなかった"僕"。

 努力を続けても、周囲へ結果も、実力も示す事が出来ないのに認められている"少女"。

 何が違うのだろう・・・?

 家族だから?

 違う、おそらく少女の口ぶりからして彼らは血の繋がりなど無い"他人"なのだろう。しかも、あれほどの実力者が簡単に認めるとは到底思えない。


 僕は少女を見つめながら考える、それは永い時間だったように感じた。そして、思い出したのはあの二人との"夜の話し合い"だった。


 男は言った、少女は獣人でなくても他者を助ける、と。

 女は言った、少女は誠心誠意見ず知らずの僕の看病をした、と。


 その出来事を思い出すと同時に、欠けていたパズルのピースが揃ったかのように"少女"の行動が理解できた。

 少女は自分の事を後回しにして、いつも"家族"や"怪我人(ぼく)"を優先した。

 僕に何度僕に冷たい態度を返されても、落ち込む事はあっても負の感情を向けることなく僕の"気持ち"を一番に考え、大切にしてくれた。

 僕の心と身体が少しでも休まるようにと、自分だって赤子の世話に家事にと疲れてるくせに自分の部屋も僕に使わせた。

 疑心暗鬼に陥っている僕が食事を取らなければ、疑いの眼差しを向けられた事に腹をたてる事もなく大丈夫な事を証明しようと毒味をして見せた。


 少女は、・・・・・彼女は、他者のために自身を制して生きる事が出来る、他者を思いやる事が出来る"存在(ひと)"なのだと分かってしまった。


 強者である二人が慈しみ、力を持った守護者が従い、赤子が安堵を覚える。

 彼らが彼女を認め、大切にするのは、彼女が周囲の彼らを自分の事よりも優先して大切にしているからだったのだ。

 

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