8歳児と目覚めた狼さん。
眠っている間に何度か意識が浮上しかける事があった。
その時に感じたのは、身体が熱くて苦しかったことと、背中の傷がじんじんと痛み辛かった事だった。だけど、同じくらい誰かが僕の手を握り、優しく励まし続けてくれたことを感じた。生まれ故郷のあの場所でさえ、そんな優しい言葉と温もりをくれたのは、子どもの頃に無くした両親だけだった。
僕はゆっくりと瞼を開く。そこは見覚えのない場所だった。武器も持たずに無防備に寝ていたことに驚き、飛び起き辺りを警戒する。
この見覚えのない部屋の中には一匹の"黒猫"がいた。しかし、その"黒猫"が放つ雰囲気で普通の猫ではないことはすぐにわかった。
その"黒猫"を警戒しながら動き出そうとすると、僕が寝かされていた寝台に頭を預けるように上半身をうつぶせにして人族の"少女"が静かに寝息をたてて眠っていた。
私は微かな衣擦れの音と、振動で目が覚めました。いつのまに私は眠っていたのでしょう?
毎日のリオの世話に加えて、狼さんの看病をしていたからか疲れがたまっていたようです。眠い眼を擦りながら、身体を起こすと“ビクッ”と身体を振るわせた透明感のある水色の瞳と視線が合いました。思わず朝の挨拶をしようとし…て……、え?
「…目が覚めたんですね!良かった…。
あの、痛いところや苦しいところは有りませんか?」
思わず挨拶をしてしまいそうになりましたが、狼さんが目覚めた事に気がつき症状を確認します。私の言葉に狼さんは戸惑った様子で、答えることなく警戒しています。
狼さんの様子を見て、まずは自己紹介より始めるべきだったと後悔しました。
「すみません、起きたばかりなのに質問をして驚かせてしまいましたよね。
私は、リクといいます。ここは、ユーラスの森の中にある一軒家です。
3日ほど前に森の中で倒れているあなたを見つけて、ここに運んで治療しました。」
私の言葉を聞いても、何も返事をして下さりません。
もしや・・・・私の隠れた欲望(耳と尻尾に触りたい)が隠しきれずに伝わり、ばれてしまったのでしょうか・・・?
いえ、そんなはずはありません。現役の看護師時代に培った、負の感情を表情に出さないという分厚い化け猫並みの猫かぶりの技術だけは衰えていないはずです。
「良ければ、あなたのお名前を教えて頂けませんか?」
私は刺激しないように出来るだけ優しく、声をかけますが一言も喋ってくれません。それどころか、私から一定の距離を置き、それ以上近づく事を許してはくれません。
名前も分からないのでは呼ぶときに不便です。名前を教えてくれないのも、返事をしてくれないのも、おそらく警戒しているのでしょう。そうである以上は、無理に近づき刺激しない方が良いと判断しました。
「・・・名前を教えてくれないのはしょうがないと思います。
でも、呼ぶ事が出来ないと不便なので"狼さん"と私は呼ばせて頂きますね。
あと、この家から出る事は自由ですが熱もまだあるでしょうし、怪我が治るまではここにいる事をお勧めします。
何よりも、怪我を負った身体ではこの森を突破する事は難しいでしょうから・・・・・。」
狼さんは、苦笑しながら言葉を重ねる私に少しだけ表情を動かしました。
「それと、ご飯はここに持ってきますね。
背中の傷の包帯を交換したり、お手伝いしたいですが・・・・・。
その様子では、難しいそうですね。このサラシを使って下さい。
もし、足りなかったり、お手伝いが必要な時は遠慮せずに呼んで下さいね。」
背中の傷の手当てを手伝うと伝えると、表情に浮かぶ警戒と敵意が強くなりました。触らない方が、お互いのためかと思いここは引き下がります。しかし、全身状況を確認していく必要はあるため少しずつでも狼さんと仲良くなれるように今後努力したいと思います。




