5歳児と魔法の修行その3。
「・・・・・・(ずーん)。」
「リク、リク、そんなに落ち込まないで・・・。
えーっとっ、そうよ、誰だって最初から成功なんてしないわ?ね、元気出して?」
影を背負って自室の片隅に体育座りして落ち込んでいる私を励まそうと、お師匠様が一生懸命話しかけてきます。
「・・・よくゆーぜ、前は発動できなかった奴に対して、
"能なしが、あたしの貴重な時間を無駄にさせないでちょうだい"とか言ってなかったか?」
そんなお師匠様の言葉を聞いて部屋の入り口に背中を預けて立っているキースさんが言います。
「・・・・・・・・・・(ずずずーん)。」
「あんたはっ、黙ってなさいっっ!
いやぁっ!!リクっ、リクに対してそんな事砂粒ほども思ってないからっっ!!!」
キースさんの言葉にさらに私は影を背負ってしまいました。
・・・結果から言いますと、私の魔法は成功しませんでした。もっと詳しく言えば発動すらしませんでした。
言っておきますが、魔法が成功しなかっただけでここまで落ち込みませんよ?
初めから物語のヒーローのように成功するはずがありません。まあ、発動すらしなかったのは予想外でしたが・・・。あのあと、何度呪文を唱えてもダメでした。お師匠様も見ていられなかったんでしょうね、私に他のことで褒めようとしたんだと思います。物事は身体が基本だと、剣の素振りから始まり弓矢の持ち方など教えてくれました。わかったことは私には才能以前に武器を持たせるのはいろんな意味で危険だという事だけでした。・・・前世より引き続き逃れることはできずに運動神経はマイナスみたいです。
自分の不甲斐なさに涙が出そうです。あまりの才能のなさに情けなくて仕方がありません。おそらくお師匠様は私が全てを投げ出したとしてもなにも言わずに受け入れるでしょう。実際に諦めて投げ出してお師匠様の庇護下に入るのは簡単です。この身体はまだたった五歳なのですから。
ですが、そんな弱気な気持ちに染まりかけた心に問いかけます。
“本当にそれでいいのか”と…。
私は叶えたい、絶対に叶える目標と、そして謝罪と感謝を伝えたい人達がいます。
その目標を叶えることも、その人達へ会うことも、たくさんの困難がきっとあるでしょう。
今、諦めて投げ出してお師匠様の庇護下に入ってしまえばきっと楽だと思います。全てをお師匠様に渡して、嫌なことに目も耳も塞いでしまえばいいのですから。
しかし、そんな私を私は許せません。それはすべてを諦め、捨ててしまう道だからです。
私は、その道だけは絶対に選べません。
・・・最初から答えなんて出ているんです。あとは、行動するだけ。
私は、うつむいていた顔を上げ、私を心配しておろおろしているお師匠様を真っ直ぐに見上げました。
《お師匠様 メリッサ・エキザルト》
自分の部屋の片隅で、ぷるぷると震えながら体育座りをしているリクはあたしから見ても可哀想なくらいに落ち込んでいる。
--無理もないわね。
今まで、リクは本当に優秀だった。文字を教えれば頑張って練習もして、すぐに書いたり、読むことが出来るようになったわ。料理をはじめ、掃除や洗濯なんかはあたしより上手だと思うし。
だからこそ、はじめて普通以上に出来ないことにぶつかってショックだったんでしょうね。
あたしは魔法も剣も人並み以上に出来たし。まぁ、リクの方が家事が上手になったのはちょっと複雑だったけど…。
もし、リクが魔法も剣も諦めたとしてもなにも言うつもりはないわ。だって、それはリクがあたしがいなければ弱者に対して残酷なこの世界で一人では生きていけないということ。そうすれば、リクはずっとあたしの側にいることになるわ。素敵よね。でも、リクの気持ちを無視したい訳ではないから納得してあたしの側にいて欲しいの。この様子だったら諦めちゃうかな?
あぁ・・・、はやくあたしの側においで、リク。貴女を傷つけるすべてから守ってあげるわ。
そんなリクに対して執着心と独占欲の塊りのような気持ちをきれいに押し隠す。優しい師匠の仮面を被って、もう一度かけようとしたあたしの言葉は音を紡ぐこと無く消えていったわ。
うつむいていた顔を上げ、私を真っ直ぐに見つめる力強い意志の宿った、燃え上がるように輝く紫水晶の瞳のまえに。




